JTのタバコ戦略―実態を2論文に見る① 2018年論文 今も活動を続ける 喫煙科学研究財団とは
WHO(世界保健機関)の「ノータバコデー2021」のポスターは「タバコ産業は新型コロナの手助けをしている」と告発しています。日本でも、JT(日本たばこ産業株式会社)は、あの手この手でタバコ規制を妨害してきました。膨大な米国内部文書から、その実態を浮き彫りにした論文が改めて注目されています(筆者インタビューは2月24日付に掲載)。2018年と04年に発表された二つの論文の一端を紹介します。
(徳永慎二)
WHOのノータバコデー2021のポスター
2018年論文は「たばこ業界は陰に隠れて:日本たばこによる喫煙科学研究財団を介したたばこ政策と科学への干渉」という表題。
同論文は、タバコ規制へのJTの対策は、「JT民営化(1985年)に伴って強化された」とのべています。強化策の一つが研究助成機関としての喫煙科学研究財団の設立でした。
設立に先立ち、JT幹部は、海外のタバコメーカーに相談をもちかけました。85年6月、JT顧問2人が米たばこ協会を訪問。協議事項の一つに財団への資金援助の要請がありました。
86年2月、JT副社長(当時)とフィリップモリス(PM)社長(同)が意見を交換。「財団の設立」と「両国における将来的な喫煙と健康の問題に関する対抗策」が議題にのぼりました。同年7月、PM幹部が「新研究財団の費用を支援してほしいというJTの誘いを受け入れる」とJT側に伝えています。
米国タバコ産業の内部文書
二つの論文
米国タバコ産業の内部文書に基づいて、タバコ規制に対抗するJTの戦略やタバコ政策への干渉などを分析した2004年と18年発表の研究論文。総合研究大学院大学(神奈川県葉山町)の飯田香穂里准教授とスタンフォード大学(米カリフォルニア州)のロバート・プロクター教授との共著。
国際的な連携
86年2月に財団「設立準備委員会」の仮名簿がPM側に送られました。最終的に、著名な11人が発起人となり、同財団の役員となりました。しかし、海外メーカーには各役員とタバコ業界とのつながりを包み隠さず伝えながら、国内では、それは伏せられました。
財団設立をめぐる経過は、タバコ会社の国際的な連携を物語っています。
JTの財団設立時の寄付額は約10億円。寄付総額11億3000万円の9割近くを占めました。大学などの研究者に出す研究助成費は毎年3億円以上。今も規模を広げて続いています。
財団の活動は、日本政府のタバコ政策やタバコ訴訟に影響を与えてきました。厚生省(現厚生労働省)初の「たばこ白書」(通称。87年)起草のための公衆衛生審議会の委員に、財団の「研究審議会」会長が就任したのは一例。これについて、PMジャパンのメンバーは、米PM側に「委員を通じて審議会の決定に影響を及ぼすことができることを意味する」とのべています。
業界寄り答申
88年に大蔵省(現財務省)は、たばこ事業等審議会にタバコ事業のあり方について諮問しました。同審議会の「喫煙と健康問題総合検討部会」の委員(11人)は、半数以上が財団関係者でした。審議会が出した89年答申は、喫煙の精神面での「肯定的な効果」を認め、受動喫煙については「今後の研究課題」とするなど“タバコ業界寄り”となりました。2010年のタバコ病裁判の判決は、この答申に依拠し、原告の訴えを退けました。
87年2月にJTやPMなど5社で日本たばこ協会が設立されました。「日本たばこ協会の計画」と題する機密戦略文書は、①広告・販売促進への規制をできる限り遅らせる②特に自販機、製品表示、製品内容にかんして、タバコ業界に直接大きな影響を及ぼす可能性のある規制を遅らせ、最小限に抑える③喫煙への社会的受容のさらなる低下を遅らせるーなどを目的としました。財団の活動はこの戦略と一致しています。
規制への対抗隠されてきた
財団の解散を求めてきた日本禁煙学会の作田学理事長の話
タバコ問題での画期的な論文です。日本のタバコ政策をゆがめ、規制を遅らせるJTの戦略は、長く隠されてきました。論文は、米国内部文書に基づいて、財団を使い、科学の名でタバコによる健康被害に疑念を創出し、規制に対抗する活動を生々しく示しました。大事なことは、それが今も続いているということです。コロナ禍のもとで、喫煙のリスクとともに、タバコ消費の低減が指摘されています。改めて財団の解散を求めます。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年3月29日付掲載
日本のたばこ産業がアメリカのたばこ業界と結託して、日本のたばこ規制に圧力をかける。
日本のたばこのパッケージへの健康への害の表示、たばこの自動販売機などへの規制が遅れました。
WHO(世界保健機関)の「ノータバコデー2021」のポスターは「タバコ産業は新型コロナの手助けをしている」と告発しています。日本でも、JT(日本たばこ産業株式会社)は、あの手この手でタバコ規制を妨害してきました。膨大な米国内部文書から、その実態を浮き彫りにした論文が改めて注目されています(筆者インタビューは2月24日付に掲載)。2018年と04年に発表された二つの論文の一端を紹介します。
(徳永慎二)
WHOのノータバコデー2021のポスター
2018年論文は「たばこ業界は陰に隠れて:日本たばこによる喫煙科学研究財団を介したたばこ政策と科学への干渉」という表題。
同論文は、タバコ規制へのJTの対策は、「JT民営化(1985年)に伴って強化された」とのべています。強化策の一つが研究助成機関としての喫煙科学研究財団の設立でした。
設立に先立ち、JT幹部は、海外のタバコメーカーに相談をもちかけました。85年6月、JT顧問2人が米たばこ協会を訪問。協議事項の一つに財団への資金援助の要請がありました。
86年2月、JT副社長(当時)とフィリップモリス(PM)社長(同)が意見を交換。「財団の設立」と「両国における将来的な喫煙と健康の問題に関する対抗策」が議題にのぼりました。同年7月、PM幹部が「新研究財団の費用を支援してほしいというJTの誘いを受け入れる」とJT側に伝えています。
米国タバコ産業の内部文書
二つの論文
米国タバコ産業の内部文書に基づいて、タバコ規制に対抗するJTの戦略やタバコ政策への干渉などを分析した2004年と18年発表の研究論文。総合研究大学院大学(神奈川県葉山町)の飯田香穂里准教授とスタンフォード大学(米カリフォルニア州)のロバート・プロクター教授との共著。
国際的な連携
86年2月に財団「設立準備委員会」の仮名簿がPM側に送られました。最終的に、著名な11人が発起人となり、同財団の役員となりました。しかし、海外メーカーには各役員とタバコ業界とのつながりを包み隠さず伝えながら、国内では、それは伏せられました。
財団設立をめぐる経過は、タバコ会社の国際的な連携を物語っています。
JTの財団設立時の寄付額は約10億円。寄付総額11億3000万円の9割近くを占めました。大学などの研究者に出す研究助成費は毎年3億円以上。今も規模を広げて続いています。
財団の活動は、日本政府のタバコ政策やタバコ訴訟に影響を与えてきました。厚生省(現厚生労働省)初の「たばこ白書」(通称。87年)起草のための公衆衛生審議会の委員に、財団の「研究審議会」会長が就任したのは一例。これについて、PMジャパンのメンバーは、米PM側に「委員を通じて審議会の決定に影響を及ぼすことができることを意味する」とのべています。
業界寄り答申
88年に大蔵省(現財務省)は、たばこ事業等審議会にタバコ事業のあり方について諮問しました。同審議会の「喫煙と健康問題総合検討部会」の委員(11人)は、半数以上が財団関係者でした。審議会が出した89年答申は、喫煙の精神面での「肯定的な効果」を認め、受動喫煙については「今後の研究課題」とするなど“タバコ業界寄り”となりました。2010年のタバコ病裁判の判決は、この答申に依拠し、原告の訴えを退けました。
87年2月にJTやPMなど5社で日本たばこ協会が設立されました。「日本たばこ協会の計画」と題する機密戦略文書は、①広告・販売促進への規制をできる限り遅らせる②特に自販機、製品表示、製品内容にかんして、タバコ業界に直接大きな影響を及ぼす可能性のある規制を遅らせ、最小限に抑える③喫煙への社会的受容のさらなる低下を遅らせるーなどを目的としました。財団の活動はこの戦略と一致しています。
規制への対抗隠されてきた
財団の解散を求めてきた日本禁煙学会の作田学理事長の話
タバコ問題での画期的な論文です。日本のタバコ政策をゆがめ、規制を遅らせるJTの戦略は、長く隠されてきました。論文は、米国内部文書に基づいて、財団を使い、科学の名でタバコによる健康被害に疑念を創出し、規制に対抗する活動を生々しく示しました。大事なことは、それが今も続いているということです。コロナ禍のもとで、喫煙のリスクとともに、タバコ消費の低減が指摘されています。改めて財団の解散を求めます。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年3月29日付掲載
日本のたばこ産業がアメリカのたばこ業界と結託して、日本のたばこ規制に圧力をかける。
日本のたばこのパッケージへの健康への害の表示、たばこの自動販売機などへの規制が遅れました。