原発以上に未熟で危険 青森・六ケ所村再処理工場
東日本大震災で東京電力福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)が深刻な事態に陥る中、技術が未熟で原発以上に危険といわれる日本原燃再処理工場(青森県六ケ所村)問題が青森県知事選(6月5日投票)の重大な争点となっています。再処理工場とは何か、どんな危険があるのでしょうか。
放射能を大量に放出
再処理工場は、原発の使用済み核燃料から、燃え残りのウランと、新たに生成したプルトニウムを取り出す施設です。東京ドーム約81個分の約380万平方メートルの敷地に、使用済み核燃料貯蔵プールや、再処理を行うさまざまな設備が入った建物が並んでいます。強い酸性の液体や燃えやすい油性の溶媒、大量の放射性物質を扱うことから「放射能化学工場」とも呼ばれます。
再処理の工程は、次のとおりです(図参照)。
【クリックすると大きい画面で開きます】
ジルコニウム合金製の被覆管に入っている使用済み核燃料棒を数センチの長さに切断します。出てきた使用済み核燃料は硝酸で溶かし、溶媒でウランとプルトニウムを抽出し、二つを分離します。それぞれの純度を高め、硝酸を蒸発させ、最終的にウラン酸化物とウラン・プルトニウム混合酸化物をつくります。
使用済み核燃料棒の中には、原発の運転中に発生したさまざまな種類の放射性物質(死の灰)が閉じ込められています。
切断の際に、揮発性の放射性物質(主にクリプトン、トリチウム、ヨウ素)が外部に放出されます。
それ以外の死の灰は、高レベル放射性廃棄物としてガラスと混ぜてステンレス製の容器に入れた「ガラス固化体」に加工。30~50年間専用の施設で冷却した後、地中の深いところに埋める「地層処分」を行うとしています。しかし、どこに埋めるかなどの見通しはたっていません。
臨界・爆発事故多発
この再処理の方法はピューレックス法と呼ばれ、もともと核兵器の材料のプルトニウムを取り出すために開発されました。この方法を使った海外の再処理工場では、ウランやプルトニウムが連鎖的に核分裂する臨界事故や、爆発事故が多発しています。
ロシアの軍事秘密都市「トムスク7」の再処理工場では1993年に、分離したウランの溶液を貯蔵しておくタンクに硝酸を加えたときに爆発しました。工場内だけでなく、周辺の広い範囲が汚染されました。
英国のセラフィールド再処理工場は、長期にわたって大量の放射性物質を海へ垂れ流していました。英国の科学誌に発表,された論文によると、1987年までに放出されたプルトニウムの量は、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故で放出された量の7倍を上回っていたといいます。
茨城県東海村にある旧動燃(現日本原子力研究開発機構=原研機構)の再処理工場では、1997年に爆発・火災事故が発生しました。作業員37人が被ばくし、放射性物質が施設外に放出されました。
国内外の再処理工場でこれまで起こった数々の事故は、使用済み核燃料の再処理が未熟で危険なものであることを示しています。
核燃料を大量に貯蔵
六ケ所再処理工場の建設着工は1993年、完成予定は1997年でした。大幅遅れで2001年から各種の試験を始め、2006年には使用済み核燃料を用いる「アクティブ試験」を開始しました。しかし、試験のたびに事故やトラブルが続出しています。
通水試験の段階では1300キロにも達する配管などに300近い不良溶接箇所が見つかりました。最大で1万体以上の使用済み核燃料集合体を入れることになっている使用済み核燃料貯蔵プールから水が漏れだす事態となりました。
アクティブ試験が始まってからも、放射性物質を含む廃液が漏れたり、作業員が体内被ばくする事故が次々発生。使用済み核燃料を受け入れる装置の耐震設計にミスがあったことなども発覚しました。2008年12月には、高レベル放射性廃棄物の「ガラス固化体」をつくる溶融炉内に入れた、かくはん用の金属の棒が抜けなくなり、それ以後試験は中断しています。
直下でM8級地震も
日本原燃は六ケ所再処理工場の耐震安全性について、約130キロ離れた三陸沖の海底で発生するマグニチュード(M)8.3の「想定三陸沖北部の地震」と、近くを通る「出戸西方(でとせいほう)断層」が動いた場合のM6.9の地震を想定して検討した結果、問題はなかったとしています。
日本原燃が検討したとは別に、六ケ所再処理工場に大きな被害をもたらす可能性がある活断層が存在することが研究者から指摘されています。渡辺満久・東洋大学教授らのグループが、2008年に開かれた「地球惑星科学連合」の大会で発表しました。この活断層は、下北半島の東側の海底にある長さ約84キロの大陸棚外縁断層とつながっていて、最大でM8級の地震を起こす可能性があるといいます。
同じM8級の地震でも遠く離れた海底で起こる場合と、直下で起こる場合では揺れの強さはまったく異なります。しかし、日本原燃は指摘をまともに検討していません。
再処理方針の転換を
元日本原子力研究所研究員 市川富士夫さん
六ケ所再処理工場を何が何でもつくろうとしているのは、原発の使用済み核燃料の受け入れ先を確保する必要があるからです。背景には、国が掲げる使用済み核燃料の全量再処理という方針があり、根本的転換が必要です。事故やトラブルが頻発しているのに、そこで何が起こっているのかほとんど聞こえてきません。技術者がものも言えない状態に置かれているのではないかと心配になります。このような状態で再処理を強行することはたいへん危険です。
青森知事選 よしまた氏「中止を」
行き詰まる核燃料サイクル
国は、使用済み核燃料に含まれるプルトニウムを高速増殖炉という原発で燃料として使う、「核燃料サイクル」を原子力政策の基本に位置づけています。再処理工場は、その重要な柱です。
しかし、高速増殖炉実用化のめどはたっていません。原研機構の「もんじゅ」は、1995年12月にナトリウム漏れ・火災事故を起こした後、約14年5カ月運転を停止していましたが、昨年5月に運転を再開。しかし、同年8月には原子炉内に約3.3トンの金属装置を落下させる重大な事故を起こしました。
核燃料サイクルは行き詰まっています。
日本共産党は、プルトニウムを原発で使うことの危険性を当初から指摘し、核燃料サイクルを基本とした原子力政策の転換を求めてきました。3氏が立候補している青森県知事選では、よしまた洋候補だけが六ケ所再処理工場の稼働中止を主張しています。
【プル卜ニウム】
原発でウランを燃やしたときなどにできる元素で、天然に。はほとんど存在しません。ウラン、けた違いに高い放射能を持っており、体内に取り込んだ場合には微量でもがんなどの原因となります。質量が異なるいくつかの種類があり、核分裂性のプルトニウム239は核燃料などとして使われます。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2011年5月27日付掲載
福島第一原発の福島県では、いままで原発を受け入れてきた知事が「原発はダメ」の意思を全国に発信しています。
遠く離れた山口県の知事も今までの態度を変えて「上関(かみのせき)原発建設の埋め立て免許失効」で事実上「建設中止」の立場に変わっています。
東海地震の震源直下の浜岡原発は津波対策のため一時的に停止されました。
宮城県の女川(おながわ)原発も再開のメドがたっていません。
津波や地震の直接の被害を受けなかったと言え、六ケ所村の再処理工場がそのまま操業を認めるわけにはいかないのではないでしょうか。
東日本大震災で東京電力福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)が深刻な事態に陥る中、技術が未熟で原発以上に危険といわれる日本原燃再処理工場(青森県六ケ所村)問題が青森県知事選(6月5日投票)の重大な争点となっています。再処理工場とは何か、どんな危険があるのでしょうか。
放射能を大量に放出
再処理工場は、原発の使用済み核燃料から、燃え残りのウランと、新たに生成したプルトニウムを取り出す施設です。東京ドーム約81個分の約380万平方メートルの敷地に、使用済み核燃料貯蔵プールや、再処理を行うさまざまな設備が入った建物が並んでいます。強い酸性の液体や燃えやすい油性の溶媒、大量の放射性物質を扱うことから「放射能化学工場」とも呼ばれます。
再処理の工程は、次のとおりです(図参照)。
【クリックすると大きい画面で開きます】
ジルコニウム合金製の被覆管に入っている使用済み核燃料棒を数センチの長さに切断します。出てきた使用済み核燃料は硝酸で溶かし、溶媒でウランとプルトニウムを抽出し、二つを分離します。それぞれの純度を高め、硝酸を蒸発させ、最終的にウラン酸化物とウラン・プルトニウム混合酸化物をつくります。
使用済み核燃料棒の中には、原発の運転中に発生したさまざまな種類の放射性物質(死の灰)が閉じ込められています。
切断の際に、揮発性の放射性物質(主にクリプトン、トリチウム、ヨウ素)が外部に放出されます。
それ以外の死の灰は、高レベル放射性廃棄物としてガラスと混ぜてステンレス製の容器に入れた「ガラス固化体」に加工。30~50年間専用の施設で冷却した後、地中の深いところに埋める「地層処分」を行うとしています。しかし、どこに埋めるかなどの見通しはたっていません。
臨界・爆発事故多発
この再処理の方法はピューレックス法と呼ばれ、もともと核兵器の材料のプルトニウムを取り出すために開発されました。この方法を使った海外の再処理工場では、ウランやプルトニウムが連鎖的に核分裂する臨界事故や、爆発事故が多発しています。
ロシアの軍事秘密都市「トムスク7」の再処理工場では1993年に、分離したウランの溶液を貯蔵しておくタンクに硝酸を加えたときに爆発しました。工場内だけでなく、周辺の広い範囲が汚染されました。
英国のセラフィールド再処理工場は、長期にわたって大量の放射性物質を海へ垂れ流していました。英国の科学誌に発表,された論文によると、1987年までに放出されたプルトニウムの量は、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故で放出された量の7倍を上回っていたといいます。
茨城県東海村にある旧動燃(現日本原子力研究開発機構=原研機構)の再処理工場では、1997年に爆発・火災事故が発生しました。作業員37人が被ばくし、放射性物質が施設外に放出されました。
国内外の再処理工場でこれまで起こった数々の事故は、使用済み核燃料の再処理が未熟で危険なものであることを示しています。
核燃料を大量に貯蔵
六ケ所再処理工場の建設着工は1993年、完成予定は1997年でした。大幅遅れで2001年から各種の試験を始め、2006年には使用済み核燃料を用いる「アクティブ試験」を開始しました。しかし、試験のたびに事故やトラブルが続出しています。
通水試験の段階では1300キロにも達する配管などに300近い不良溶接箇所が見つかりました。最大で1万体以上の使用済み核燃料集合体を入れることになっている使用済み核燃料貯蔵プールから水が漏れだす事態となりました。
アクティブ試験が始まってからも、放射性物質を含む廃液が漏れたり、作業員が体内被ばくする事故が次々発生。使用済み核燃料を受け入れる装置の耐震設計にミスがあったことなども発覚しました。2008年12月には、高レベル放射性廃棄物の「ガラス固化体」をつくる溶融炉内に入れた、かくはん用の金属の棒が抜けなくなり、それ以後試験は中断しています。
直下でM8級地震も
日本原燃は六ケ所再処理工場の耐震安全性について、約130キロ離れた三陸沖の海底で発生するマグニチュード(M)8.3の「想定三陸沖北部の地震」と、近くを通る「出戸西方(でとせいほう)断層」が動いた場合のM6.9の地震を想定して検討した結果、問題はなかったとしています。
日本原燃が検討したとは別に、六ケ所再処理工場に大きな被害をもたらす可能性がある活断層が存在することが研究者から指摘されています。渡辺満久・東洋大学教授らのグループが、2008年に開かれた「地球惑星科学連合」の大会で発表しました。この活断層は、下北半島の東側の海底にある長さ約84キロの大陸棚外縁断層とつながっていて、最大でM8級の地震を起こす可能性があるといいます。
同じM8級の地震でも遠く離れた海底で起こる場合と、直下で起こる場合では揺れの強さはまったく異なります。しかし、日本原燃は指摘をまともに検討していません。
再処理方針の転換を
元日本原子力研究所研究員 市川富士夫さん
六ケ所再処理工場を何が何でもつくろうとしているのは、原発の使用済み核燃料の受け入れ先を確保する必要があるからです。背景には、国が掲げる使用済み核燃料の全量再処理という方針があり、根本的転換が必要です。事故やトラブルが頻発しているのに、そこで何が起こっているのかほとんど聞こえてきません。技術者がものも言えない状態に置かれているのではないかと心配になります。このような状態で再処理を強行することはたいへん危険です。
青森知事選 よしまた氏「中止を」
行き詰まる核燃料サイクル
国は、使用済み核燃料に含まれるプルトニウムを高速増殖炉という原発で燃料として使う、「核燃料サイクル」を原子力政策の基本に位置づけています。再処理工場は、その重要な柱です。
しかし、高速増殖炉実用化のめどはたっていません。原研機構の「もんじゅ」は、1995年12月にナトリウム漏れ・火災事故を起こした後、約14年5カ月運転を停止していましたが、昨年5月に運転を再開。しかし、同年8月には原子炉内に約3.3トンの金属装置を落下させる重大な事故を起こしました。
核燃料サイクルは行き詰まっています。
日本共産党は、プルトニウムを原発で使うことの危険性を当初から指摘し、核燃料サイクルを基本とした原子力政策の転換を求めてきました。3氏が立候補している青森県知事選では、よしまた洋候補だけが六ケ所再処理工場の稼働中止を主張しています。
【プル卜ニウム】
原発でウランを燃やしたときなどにできる元素で、天然に。はほとんど存在しません。ウラン、けた違いに高い放射能を持っており、体内に取り込んだ場合には微量でもがんなどの原因となります。質量が異なるいくつかの種類があり、核分裂性のプルトニウム239は核燃料などとして使われます。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2011年5月27日付掲載
福島第一原発の福島県では、いままで原発を受け入れてきた知事が「原発はダメ」の意思を全国に発信しています。
遠く離れた山口県の知事も今までの態度を変えて「上関(かみのせき)原発建設の埋め立て免許失効」で事実上「建設中止」の立場に変わっています。
東海地震の震源直下の浜岡原発は津波対策のため一時的に停止されました。
宮城県の女川(おながわ)原発も再開のメドがたっていません。
津波や地震の直接の被害を受けなかったと言え、六ケ所村の再処理工場がそのまま操業を認めるわけにはいかないのではないでしょうか。