2023年05月06日
北海道機船漁業協同組合連合会内 一般社団法人北洋開発協会 原口聖二
[#27 洋上風力発電と漁業 海外の経験 米国 共和党 洋上風力発電プロジェクト停止へ行動活発化]
日本での先行する欧米の洋上風力発電の漁業分野との共栄、相乗効果等の成功体験は、ほとんどが開発事業者による切り抜き発信で、実際に漁業分野の情報にアクセスしていくと様々な問題が報告されている。
米国ニュージャージー州選出共和党上院議員らは、バイデン政権が推進する洋上風力発電プロジェクトを阻止、モラトリアムへ追い込むべく行動を活発化している。
2023年5月3日、米国共和党上院議員アンソニー・ブッコらは、ロードアイランド州の漁業会社“Seafreeze Ltd.”の代表者、釣り雑誌“The Fisherman magazine”の編集委員、そしてクジラ保護活動家らから、WEBを利用して洋上風力発電に関するヒアリングを行った。
かつてニュージャージー州では、洋上風力発電への取り組みが超党派で支持されていたが、プロジェクトの規模拡大計画と関係者の拙速な取り組みにより、現在、反対グループが台頭してきている。
これに、昨年2022年12月から今年2023年3月にかけて、死んだザトウクジラの座礁の急増が確認されたことがインセンティヴを与えることになった。
現在も民主党のニュージャージー州知事フィル・マーフィーが、風力を主要な動力源にすることに全力を尽くしているが、地元の共和党議員は反対しており、苦戦を強いられている。
また、観光に依存するビーチコミュニティの物件所有者と企業も反対に回っているほか、ニュージャージー州ポイント・プレザント・ビーチ区長ポール・カニトラは、年間1,500万ドルの水産物が、地元漁港協同組合に水揚げされており、この商業漁業船団が危機にさらされていると指摘している。
米国東部漁業の中心に一つ、ロードアイランド州の“Seafreeze Ltd.”の漁業部門長メーガン・ラップは、洋上風力発電が、現在、米国の商業漁業にとって最大の脅威であると語り、国立海洋漁業局(NMFS)の洋上風力発電開発事業者への承認が、水棲生物資源、海洋哺乳類への悪影響の許可になっていると言及した。
ニュージャージー州の釣り愛好家の一部には、洋上風力発電の集魚効果に期待を寄せる意見があるが、釣り雑誌“The Fisherman magazine”の編集委員ジム・ハッチンソン・ジュニアは懐疑的な見解を示しており、タービンの電力ケーブル周辺に電磁場が形成されて、底魚の行動が妨げられ、資源が激減する可能性を特に指摘し、内務省海洋エネルギー管理局(BOEM)とNMFSがこれらの懸念を真剣に受け止めていないと加えた。
ニュージャージー州ベルマーのホエールウォッチング遊覧船で働いているトリーシャ・デヴォエは、海洋哺乳類に多くの怪我が見られると証言、海底ドリルからの沖合調査の発生音がクジラの聴覚に影響を与え、通過する船に対して無防備になっている可能性があると語った。
クジラ保護活動家マイク・ディーンは、沿岸警備隊の自動識別システム (AIS) のデータ記録を参照して、調査船がニューヨーク湾で作業した時期を追跡し、クジラが座礁している数週間、最大8隻の船舶が沖合で作業していたと述べ、2022年12月から2023年3月にかけての数週間、クジラが座礁した一連の事件に関係があると、それを指し示すためのグラフを提示した。
ニュージャージー州選出共和党上院議員らは、これらのヒアリングの結果をまとめ、更に洋上風力発電のモラトリアムに向け行動を展開していくことになる。