2023年01月10日
リポート 北海道機船漁業協同組合連合会 原口聖二
[“復活の日” ロシア漁業の南極オキアミ操業再開への道程 2025年に開始ずれ込む]
ロシア漁業庁長官シェスタコフは2022年末の記者会見で、ウクライナ情勢による舶用機器の調達問題等から着業船建造プロジェクトが遅れ、南極オキアミ操業の再開が2025年にずれ込むとの見通しを発表した。
ロシア政府は、2021年6月30日付No.1767により、2030年までの同国漁業発展戦略に基づく、南極漁業に関する行動計画を承認している。
ロシア漁業はCCAMLR(南極海洋生物資源の保存に関する委員会)海域に2隻の投入を計画しており、1隻は着工済となっているが、舶用機器の調達問題等から建造プロジェクトが遅れている。
一方、ロシア漁業庁は、南極オキアミの操業許可取扱い方針の立案を既に開始している。
南極オキアミ漁業の発展は、漁業生産を増加させるばかりでなく、世界の大洋への復帰によってロシア漁業のプレゼンスを向上させ、当該資源の加工による新たなハイテク産業の創出が期待される。
オキアミによる高品質なオイルは、世界の経験が示すように健康食品業界で需要がある。
また、フィッシュミールは、養殖の餌として、強い需要があり、世界の養殖生産が大幅に伸長している現状から、販売機会は確実と評価されている。
現在、当該資源を最も利用しているのはノルウエーで、中国も近代的漁船を投入し努力量を上げている。
最近の調査研究結果では、南極オキアミのバイオマスは1億2,500万トンと算定されている。
両国による年間漁獲量は60万トンだが、これを200万トンまで拡大する計画とも伝えられている。
一方、ロシアは当該漁業に適した漁船を失ってしまったことから、ここで操業を行っていない。
1980年代、ロシア中央設計局”ヴォストーク“がオキアミ漁船プロジェクトNo.16080”アンタルクチダ(Антарктида)を開発、同年代半ばから1990年代初頭における南極域でのオキアミの年間漁獲量は36万トンに達した。
しかし、プロジェクトNo.16080シリーズ船は、海外に転出しているか、大規模修繕、近代化が必要な現状となっている。
”2030年までの漁業発展戦略”では、2025年-2030年に、南極オキアミ漁業のため、最大5隻の冷凍加工スーパー・トロールと3隻の冷凍運搬船を建造することが盛り込まれている。
オキアミ漁業は年間7ケ月-9ケ月間操業で、母港との往来頻度は少なく、最大限に漁業時間を利用できることから、船団組織は経済面からも実現可能と評価されている。
現在、漁船の船舶技術と設計、原料からの高次製品の経済的利用など、船舶修理技術センター、全ロシア海洋漁業研究所ヴニロら関係機関が包括的なプロジェクトに取り組んでいる。
当該プロジェクトにおいて次のパラメータを考慮している。
①オキアミ漁船と冷凍運搬船の最適な比率
②漁業活動域
③陸上高次処理施設の位置
④製品歩留まり計算
⑤活動全体の経済効率等の予備評価
⑥オキアミ漁業が弱まる5月-10月の間の船舶運航による収益性の効率化
また、漁業経済性は、原材料の加工度に大きく依存するため、船内加工の5つのシナリオで概算している。
シナリオのインデクスは2015年-2020年のノルウエー漁船のデータを入手して行われた。
①年間漁業日数 235日
②1日あたりの平均漁獲量 425トン
③1航海あたりの平均漁獲量 約10万トン
④製品価格 ミール$1.8/kg オイル$70/kg 食用ミンス$3.36/kg、ミンス缶詰$1.35/個
⑤製品歩留まり ミール6.3% オイル-2%(生から)3%(殻から)10%(乾燥殻から) 食品ミンス25%(メーカからのデータ)
シナリオ1と2は、原材料の加工度が比較的低いことを特徴とし、現在の中国漁船とノルウェー漁船の典型となる。
オキアミ漁業の経済的利益を最大化するために、利益率を高い設定にしているシナリオを3、4、5として段階的な達成目的とする。
シナリオ 1
10万トンのオキアミの内、1万6,300トンのミール(遠心乾燥法)と、2,000トンのオイル(生から)を生産。
製品総額見積は1億6,934万ドル。
シナリオ2
航海中に漁獲されたオキアミの半分(5万トン)で1万2,500トンのミンスを生産。
ミンス製造時に圧搾分離された2万トン(収率40%)の殻付き残滓を、漁獲物の残り半分と混合して再処理。
その結果、1万1,410トンのミールと1,400トンのオイルを生産。
製品総額見積は1億7,435万8,000ドル。
シナリオ3
ミールとオイルの生産はシナリオ2と同じ。
原材料の半分もミンスの生産に再処理されるが、この50%の6,250トンのみ冷凍。
残りは、正味重量100グラム(6,250万個)の缶詰を製造。
製品総額見積は2億3,791万3,000万ドル。
シナリオ4
シナリオ3と同じ製品種類、数量となるが、陸上での特殊技術による殻からのオイル抽出。
製品総額見積は2億6,187万ドル。
シナリオ5
ミールとオイルの生産はシナリオ2と同じ。
生鮮ミンス1万2,500トンを生産し、100グラム、1億2,500個の缶詰を製造。
製品総額見積は3億128万ドル。