内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

「授業がツマラナイと思うのなら、教室に来るな!」― 『K先生の黄昏放言録』(未刊)より

2019-10-18 18:06:00 | 講義の余白から

 私は温厚な人間ではない。が、ストラスブールに赴任してから、年間を通じて一度も授業中に学生を怒鳴りつけたことがない年が何年か続いた。人間が丸くなったからではなく、学生の方がそれだけおとなしくて真面目だったというだけのことである。
 前任校では、学生たちが震え上がるほど怒鳴りつけることが年に一回はあり、ほとんど「恒例行事」化していた。可笑しかったのは、ある年、怒り爆発の翌週の授業で、クラス全員が授業のはじめに起立して「センセイ、先週は済みませんでした」と頭を下げたときだ。その中には普段真面目な子までいた。「なんだこれ、コジンシュギのおフランスで集団責任かよ」とちょっとギョッとしたが、「もういいよ。済んだことだ」と一件落着。
 昨年度は、後期に一回怒鳴った。授業が始まってまもなくおしゃべりし始めた二人の男子学生に「すぐに出ていけ」と怒鳴りつけた。日本語とフランス語の両方で。当の二人の男子学生はすぐに教室を出ていった。彼らは授業が終わるまで廊下で待っていて、授業後に謝りに来た。謝ればもちろん許す。授業の終わりに毎回実施していた漢字の小テストも、後日私のオフィス・アワーのとき受けに来るように伝えた。
 今年度は、まだ前期の半ばだというのに、今日の授業中、後を向いておしゃべりしている男子学生に「うるさい、今すぐ出ていけ!」と、これもまた日仏両語で怒鳴りつけてしまった。正面を向いておとなしくはなったが出ていこうとしないので、怒りが増幅され、「授業がツマラナイと思っているなら来るな。そんな学生には教室にいてほしくない。欠席で落第することはないから心配するな。来週の中間試験も受けてよい。私は真剣に聴いてくれる学生たちだけに授業がしたいんだよ。それ以外の学生は来なくてよい。こちらが時間をかけて準備してきた授業を聴こうともしない学生は、私は大嫌いなんだよ。顔も見たくないんだよ。試験で合格点を取れば単位はくれてやるから、教室には来るな!」と、全員に向かってフランス語でまくし立てた。
 その後は水を打ったように静かになった。最後まで滞りなく授業を終えることができた。授業後、廊下で私を待っていた当該の学生が「申し訳ありませんでした。自分の行動を恥じています。私の間違いに気づかせてくれてありがとうございました。これからはしっかり勉強します」と謝りに来た。「ああ、そう期待しているよ。この件についてはもう終わり。繰り返すなよ」で一件落着。
 が、やはり気分はよくない。それどころか、ものすごく後味が悪い。大半の学生は真面目に聴き、熱心にノートも取り、ときどきはいい質問もしてくれているんだから、ああまで言わなくてもよかったかな、これでも一応学科長だしな、年甲斐もなかったかな、と、後悔している。まあ、でも、言ってしまったのだからしょうがない。来週の中間試験後の前期の後半の授業の準備をさらに充実させることで、学生たちへのお詫びのしるしとしよう。