内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

物語りとしての歴史の面白さと学術的な歴史研究の面白さとの相互補完性

2019-10-02 23:59:59 | 講義の余白から

 歴史を学ぶ面白さを学生たちに知ってもらいたいと常々願いながら授業の準備をしている。その面白さとは、以下の二つの意味においてであり、両者は相互補完的な関係にある。
 一つは、物語りとしての歴史の面白さ。今日の学術的研究成果からすれば、必ずしも厳密とは言えないにしても、歴史上の人物・出来事の話としての面白さを知ってもらいたい。そのためにストーリー・テラーとして優れた著作家の作品を授業で紹介する。
 もう一つは、学術的な歴史研究の面白さ。歴史研究者たちがどのような方法を使って歴史の諸相を明らかにしていくか、そのスリリングな論証過程を辿ることは、すぐれた推理小説を読むときのような知的な愉悦を与えてくれる。
 先週は、「日本におけるキリスト教の世紀」がテーマだったので、語りとしての面白さの例として、ルイス・フロイスの『日本史』と渡辺京二氏の『バテレンの世紀』(新潮社、2017年)をそれぞれごく一部だが紹介した。
 前者は、イエズス会宣教師の目で見た当時の日本の様子の同時代記録として、この上なく貴重であるばかりでなく、歴史上著名な人物たちについての興味深いエピソードに満ちている。もちろん、この記念碑的な著作に書かれたことをそのまま額面通りに事実として受け取るわけにはいかないが、時代の空気を間近に感じることができる。
 後者は、一般向けの通史だが、これだけ詳しい通史は他にない。著者は本書執筆の理由をこう記している。

研究者は一般向けの詳しい通史を書きたがらない。労のみ多くして、研究業績にはならぬからである。一般の読書人にとって、欲しいのは詳しい通史である。なぜなら歴史叙述は詳しいほど面白いからだ。それは例えばギリシア史の教科書と、ヘロドトス、トゥキュディデスを読み較べればわかる。私はそんな通史を、一五、六世紀の最初の日欧遭遇について書いてみたかったのである。(455頁)

 学術的な歴史研究の面白さについては、今週の授業でいくつか紹介する。一つは、先日の記事で取り上げた大橋幸泰氏の『潜伏キリシタン』(講談社学術文庫、2019年)。その次に、山室恭子氏の『中世のなかに生まれた近世』(講談社学術文庫、2013年。初版は吉川弘文館より1991年に刊行)。そして、黒田日出男氏の『洛中洛外図・舟木本を読む』(角川選書、2015年)それぞれに異なった学問的方法を用いて歴史を解読する作業の面白さを伝えたい。