湿地帯を歩いていると
思いがけずあらわれた
井戸
誰もがするように
どれだけ深いのか
知りたくなって
漆黒に向かって
石を落とす
音が聞こえるまで
ずいぶんあった
見たことがない
紫色の鳥が
上空をゆっくり舞っている
こういう言い方はいけないのだけれど
美しい鳥だった
音を聞いて
鳥が来たのか
井戸底の音が
紫色の鳥を呼んだのか
ともかく
その場から立ち去るのがいい
来た道を戻って
湿地帯を歩くと
蛙の卵が連なっていて
南から来た風を
わたしは捕まえようと
空に手を出し
紫色の鳥が頭上を
まっすぐ飛んでいった
翼の波動が打ち寄せ
草を揺らし
草いきれの中で
空は言葉を発していた
言葉はすぐに無音になって
意味を消した
その言葉は
音でできた電車になって
見えぬ線路をまっすぐに
地面を通って
どこかに消えた
草いきれの中で
一筋の汗が
背中を流れた
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