席が空くのを今や遅しとオレは待っていた。
真夏の陽光が降り注ぎ、オレは店のひさしに逃げながら順番を待った。
時刻は2時を回ったところ。
お天道さんは真上にあるにも関わらず、居酒屋は既に満員だ。そればかりでなく、店の外にまで入店の順番を待つ列がオレを含めて4人が並ぶ。
道行く人が珍しそうに通りすぎていくが、中年の夫婦は店を覗き込みながら、旺盛な好奇心を抑えきれなかったのか、オレに「ここは何の店ですか?」と尋ね、オレは笑顔で「居酒屋ですよ」と答えると、「居酒屋?」と反芻しながら、目を丸くして去っていった。
その目には、昼間から酒を飲む行為に対する蔑みと、そうしたお店に行列が出来ている意外な思いがその目に宿っていた。
5分ほど待って中を覗いてみる。
2列あるコの字カウンターはもうびっしりとお客が鈴なりだ。
店の壁には品書きの短冊がぎっしり貼られ、メニューの多さが伝わってくる。
更に5分後、再び中を覗くが誰も立ち上がる気配がない。
いやあ!しかし久しぶりに居酒屋に来て心が弾む。
この活気溢れるカウンターに早く座りたい!そんな気持ちが心をはやらせる。
更に5分ほど経って三度窓枠から中を覗くが、客は依然としてマイペースで飲み続けている。
堪らんね。この焦らしっぷり。
オレは店に入って頼む酒肴を夢想した。
メニューには同店自慢の「鯉のあらい」(400円)や「鰻の蒲焼」(800円から1,000円)の他、「すっぽん鍋」(700円)などがあり、この他「まぐろ刺し」(700円)「、まぐろ中落」(400円)「タコのぶつ切り」(650円)「イカの刺み」(原文ママ=500円)といった居酒屋の定番メニューから「げそ天」(350円)や「クリームコロッケ」(350円)「ポテトフライ」(350円)といった俗っぽいメニューまで幅広く並んでいるのだ。
うむむ。どれもこれも手強いメニューばかり。まずは何を頼むか。
そんなことを考えるだけで、また心がワクワクしてくるのである。
それから5分後、ぞろぞろと客が席を立ちはじめ、ようやく席に座ることができた。
早速、瓶ビールを頼むと、出てきたのはサッポロラガー(500円)。現存する最古のビールとして今夏、初の缶を発売したあの「赤星」だ。
そして、咄嗟に口をついて出てオーダーしたのが「牛すじ煮込み」(450円)。まず、オレの場合「煮込み」がなければ始まらない。
飲み物の品書きの短冊には、この他「サッポロ黒ビール」(450円)や「ギネスビール」(600)の文字も見える。酒は「富久娘」(350円)に「清酒金升」(300円)だ。それらの文字を追って目を移していると、こんな貼紙が目に付いた。
「お酒は1人3杯まで」
なるほど、これは手厳しい。つまり「お酒は適量」という配慮な訳ね。
「牛すじ煮込み]はよく煮込まれて格別なものだった。薄味の味噌がはらわたにしみいる。満員の酔客を見渡してみると面白いことに気づいた。
一人客が半数。2人連れが半数といったところか。
3人以上は2階のお座敷に上がれることになっているので、カウンターはこのような組み合わせになるのだが、一人客はただ黙々と食べて飲んで思い思いにくつろいでいる。恐らく、ほとんどが常連の馴染み客であろうに、一人の世界に没頭しているところがなかなか興味深い。
赤羽駅前「まるよし」は和気藹々知らぬ客同士で談笑したものだが、「まるます家」はほとんどの一人客は無言で飲み続けていた。
しかし、この活気はどこから来るのだろう。それは、割烹着を着たおばさんたちの小気味いい仕事ぶりではなかろうか。客あしらいの良さは絶品だった。
お客は決しておっさんばかりではなかった。若いカップル。中年のカップル。そして熟年のカップルと老若男女問わない客層がそれぞれ楽しそうにつまみをつついている。
そんな彼らの様子を見ていて気になったことがあった。
店の客の3分の1がテーブルに大きなハイリキの瓶を置いているのだ。
「なんだろう」と思って短冊メニューに目をやると「ジャンボ・チューハイ」と書かれた品書きが目にとまった。
チューハイ1リットル950円である。
近隣の人が注ぐ様子を見ていたが、おおよそジョッキの4杯分に相当するようだ。しかし、1リットルはちょっと飲めない。
オレは1杯のチューハイ(350円)を単品で頼み、肴に「うなぎの兜焼き」(200円)を追加した。
この「兜焼きが」絶品だった。さすが、うなぎの専門店。やはり、ここに来たらこいとうなぎを食べなければ。
しかし、何故オレが「鯉」を食べなっかたか?
親愛なる読者の方ならお分かりだろう。
「鯉の新井」はもういない。「虎の新井」がいるだけだ。
創業昭和25年。来年で60年を迎える老舗の酒場は今日も朝の9時から賑わうことだろう。そして、夕刻にはまた行列を作っているはずだ。
「毎日でも通いたくなる」。
それが「まるます家」の魔力だ。
真夏の陽光が降り注ぎ、オレは店のひさしに逃げながら順番を待った。
時刻は2時を回ったところ。
お天道さんは真上にあるにも関わらず、居酒屋は既に満員だ。そればかりでなく、店の外にまで入店の順番を待つ列がオレを含めて4人が並ぶ。
道行く人が珍しそうに通りすぎていくが、中年の夫婦は店を覗き込みながら、旺盛な好奇心を抑えきれなかったのか、オレに「ここは何の店ですか?」と尋ね、オレは笑顔で「居酒屋ですよ」と答えると、「居酒屋?」と反芻しながら、目を丸くして去っていった。
その目には、昼間から酒を飲む行為に対する蔑みと、そうしたお店に行列が出来ている意外な思いがその目に宿っていた。
5分ほど待って中を覗いてみる。
2列あるコの字カウンターはもうびっしりとお客が鈴なりだ。
店の壁には品書きの短冊がぎっしり貼られ、メニューの多さが伝わってくる。
更に5分後、再び中を覗くが誰も立ち上がる気配がない。
いやあ!しかし久しぶりに居酒屋に来て心が弾む。
この活気溢れるカウンターに早く座りたい!そんな気持ちが心をはやらせる。
更に5分ほど経って三度窓枠から中を覗くが、客は依然としてマイペースで飲み続けている。
堪らんね。この焦らしっぷり。
オレは店に入って頼む酒肴を夢想した。
メニューには同店自慢の「鯉のあらい」(400円)や「鰻の蒲焼」(800円から1,000円)の他、「すっぽん鍋」(700円)などがあり、この他「まぐろ刺し」(700円)「、まぐろ中落」(400円)「タコのぶつ切り」(650円)「イカの刺み」(原文ママ=500円)といった居酒屋の定番メニューから「げそ天」(350円)や「クリームコロッケ」(350円)「ポテトフライ」(350円)といった俗っぽいメニューまで幅広く並んでいるのだ。
うむむ。どれもこれも手強いメニューばかり。まずは何を頼むか。
そんなことを考えるだけで、また心がワクワクしてくるのである。
それから5分後、ぞろぞろと客が席を立ちはじめ、ようやく席に座ることができた。
早速、瓶ビールを頼むと、出てきたのはサッポロラガー(500円)。現存する最古のビールとして今夏、初の缶を発売したあの「赤星」だ。
そして、咄嗟に口をついて出てオーダーしたのが「牛すじ煮込み」(450円)。まず、オレの場合「煮込み」がなければ始まらない。
飲み物の品書きの短冊には、この他「サッポロ黒ビール」(450円)や「ギネスビール」(600)の文字も見える。酒は「富久娘」(350円)に「清酒金升」(300円)だ。それらの文字を追って目を移していると、こんな貼紙が目に付いた。
「お酒は1人3杯まで」
なるほど、これは手厳しい。つまり「お酒は適量」という配慮な訳ね。
「牛すじ煮込み]はよく煮込まれて格別なものだった。薄味の味噌がはらわたにしみいる。満員の酔客を見渡してみると面白いことに気づいた。
一人客が半数。2人連れが半数といったところか。
3人以上は2階のお座敷に上がれることになっているので、カウンターはこのような組み合わせになるのだが、一人客はただ黙々と食べて飲んで思い思いにくつろいでいる。恐らく、ほとんどが常連の馴染み客であろうに、一人の世界に没頭しているところがなかなか興味深い。
赤羽駅前「まるよし」は和気藹々知らぬ客同士で談笑したものだが、「まるます家」はほとんどの一人客は無言で飲み続けていた。
しかし、この活気はどこから来るのだろう。それは、割烹着を着たおばさんたちの小気味いい仕事ぶりではなかろうか。客あしらいの良さは絶品だった。
お客は決しておっさんばかりではなかった。若いカップル。中年のカップル。そして熟年のカップルと老若男女問わない客層がそれぞれ楽しそうにつまみをつついている。
そんな彼らの様子を見ていて気になったことがあった。
店の客の3分の1がテーブルに大きなハイリキの瓶を置いているのだ。
「なんだろう」と思って短冊メニューに目をやると「ジャンボ・チューハイ」と書かれた品書きが目にとまった。
チューハイ1リットル950円である。
近隣の人が注ぐ様子を見ていたが、おおよそジョッキの4杯分に相当するようだ。しかし、1リットルはちょっと飲めない。
オレは1杯のチューハイ(350円)を単品で頼み、肴に「うなぎの兜焼き」(200円)を追加した。
この「兜焼きが」絶品だった。さすが、うなぎの専門店。やはり、ここに来たらこいとうなぎを食べなければ。
しかし、何故オレが「鯉」を食べなっかたか?
親愛なる読者の方ならお分かりだろう。
「鯉の新井」はもういない。「虎の新井」がいるだけだ。
創業昭和25年。来年で60年を迎える老舗の酒場は今日も朝の9時から賑わうことだろう。そして、夕刻にはまた行列を作っているはずだ。
「毎日でも通いたくなる」。
それが「まるます家」の魔力だ。
聞いたことありました、まるます家。
日本酒は期待できないとは思っていたものの、
サッポロ赤星が飲めるとは!!
でも3杯までなんですね・・・ってビール3杯は飲めませんが、
やっぱり3杯だと、そんなに長居することもなく、
サクっと呑めそうです。
気軽にウチで飲めちゃうっていうのは、赤星のステータスを落とした感があります。
しかし、まるます家は朝9時からのオープンです。
すんごいですね~。
赤羽は朝から飲める店の宝庫。だからなのか、『酔っている人の入店お断り』とする店が多いです。
以前、紹介した『まるよし』、いずれ登場する『立ち飲み いこい』。
必ず、その貼り紙が目につきます。
やっぱり、適量は『こなから』。それが3杯なのでしょう。