妻と娘がようやく帰ってくる。
妻は5ヶ月と17日ぶり。子供は初の関東上陸だ。
子供が帰ってくると、きっとふらふらと飲みに行くこともできないだろう。
そう思って、行きたくても足を向けなかった懸案の酒場に行こう、と思い立った。
浦安駅より徒歩5分、「和食 枡田屋」さんである。
このお店ができたことは2年前から知っていた。
けれども、ちょっと小ぎれいで中はほんのり薄暗く、入りづらい雰囲気を醸している。ちょうど1年くらい前に妻とこの店の前を通った折、店の表に立てかけてある、品書きを 何気なく覗いてみたところ、銘酒の誉れ高い静岡県の「開運」が置いてあることが分かった。
「これは、今度行ってみよう」と妻と言っていた矢先、彼女は妊娠した。
それから、この店はわたしの「空手形手帳」に掲載されることになったのである。
そうこうするうちに1年が経ってしまった。
その日は金曜日。翌週火曜日に控える原稿の〆切に一段落付いたことと、「海の日」の祝日に3連休になること。そして、肉体改造の実施により、6日間も酒を抜いており、久々に飲みたい気分になったことで、思いがけず、ほとんど衝動的に同店に立ち寄ろうと思ったのである。
店は白壁のしっとりと趣きのある外観。入り口には麻の暖簾がかかる。
入り口の戸を押すと、「カランカラン」とカウベルが鳴り、心地よい音が店内を包む。お店は左手にオープンキッチンとカウンター。右手にはテーブル席が4つほど。既にカウンターには熟年の男女と一人の男性客。テーブルは4人組みのおばちゃんたちが陣取っていた。
カウンター席にわたしは腰掛けた。
生ビールを注文。別に銘柄などどうでもいいのだが、ちょっとカッコつけ気味に「ビールの銘柄は?」と尋ねると、ご主人は「サッポロです」と丁寧に答えてくれた。
このご主人、かなり若い。まだ40歳前に見える。
突き出しは、「水菜とほうれん草のおひたし」。これが瑞々しくて、さっぱりしている。こんな入梅のジメジメした夜にはぴったりだ。
そして、生ビール。この6日ぶりに喉を通る黄金色のピルスナーが実にうまかった。とにかく、生きていることを実感させてくれる一瞬である。
つまみは、「適当にみつくろって」と頼んだ。
こういうお店はかなり上等な魚を用意してくれているはずだ。
「ヤリイカのいいのが入ってますよ」とご主人は言う。
それを刺身でもらうことにした。
品書きに目を通さないのはわたしの思いっきりの背伸びである。
イカを目の前で捌くご主人に、今日初めてこの店の暖簾をくぐった話をした。
そして、妻が「開運」が大好きなこと、その妻が妊娠して、出産してお酒が飲めないこと、など話すと、「子育てが一息ついたら、是非お二人で来てください」と言ってくれた。今晩、この店に来てホントによかったと心の底からそう思った。
生ビールが空になった。
「何、飲もうかな」と一人ごちると、すかさずご主人が「開運」飲んで行ってくださいな、と言う。
そうだ。これは妻に報告するためにも、ここは是非「開運」を飲んで帰ろう。
そうこうするうち、「ヤリイカの刺身」が目の前に運ばれてくる。
うぅむ。なんと鮮やかな盛り付けだろう。透き通ったイカが実に瑞々しく、適度なぬめりがやけに新鮮だ。
一切れ口に含んでみる。実にとろりとしたまろやかな味。こんなうまいイカ刺しは食べたことがない。そのうえすっきりとした飲み口の「開運」が実によくあう。これは、ホント最高!
すると、左隣に座っていた一人客の紳士が話しかけてきた。
「開運、うまいよねぇ」
それから、この男性にご主人も加わり、楽しいお喋りが始まった。
この紳士は「枡田屋」に「九条葱」を食べに来るのだという。どうやら、京都のご出身らしい。
わたしが知ったかぶりして、「この季節は鴨川に床が出る、いい季節ですねぇ」(師よ、ありがとう!)と言えば、更にお喋りに拍車がかかるのであった。
途中、別の常連のお客さんが入ってきて、九条葱の紳士とわたしの間に座った。
この方、宮崎県のご出身で、家の近所の蔵だから贔屓にしているという、焼酎「山ねこ」をロックで飲む。
この御仁が最近、「バリ島に行った」という話題から、一気に座は旅行の話で盛り上がる。九条葱の紳士が「ヴェトナムのフエに行きたい」と言えば、ご主人は「新婚旅行で行ったボラボラ島がよかった」という。そして、「山ねこ」の御仁は、「今度、台湾に行きたいなぁ」と夢見がちにいう。
うむむ。ここで、全部いいところですね、などと暗に行ったことあることを自慢しちゃったらひんしゅく買うだろうナと思って、うんうん頷くだけにしておいた。
イカ刺しでチビチビ「開運」を飲んでいたが、酒器の中の酒もあと僅かだ。そして、今宵は実に楽しかった。そして、もっと早く、この店の暖簾をくぐっていればよかったな、と少しの後悔をする。
九条葱の紳士は、火曜、金曜は大抵ここに来てる、という。あまりにも気持ちよくなったものだから、「来週火曜にまた来ますよ」と約して店をでた。
ウチまでの距離は僅か。6分もあれば着くだろう。
決して大衆的な酒場ではないけれど、自宅の近所に、こんな仲間のようなお店を持つことは幸運なことでもあり、また夢のようでもある。
妻は5ヶ月と17日ぶり。子供は初の関東上陸だ。
子供が帰ってくると、きっとふらふらと飲みに行くこともできないだろう。
そう思って、行きたくても足を向けなかった懸案の酒場に行こう、と思い立った。
浦安駅より徒歩5分、「和食 枡田屋」さんである。
このお店ができたことは2年前から知っていた。
けれども、ちょっと小ぎれいで中はほんのり薄暗く、入りづらい雰囲気を醸している。ちょうど1年くらい前に妻とこの店の前を通った折、店の表に立てかけてある、品書きを 何気なく覗いてみたところ、銘酒の誉れ高い静岡県の「開運」が置いてあることが分かった。
「これは、今度行ってみよう」と妻と言っていた矢先、彼女は妊娠した。
それから、この店はわたしの「空手形手帳」に掲載されることになったのである。
そうこうするうちに1年が経ってしまった。
その日は金曜日。翌週火曜日に控える原稿の〆切に一段落付いたことと、「海の日」の祝日に3連休になること。そして、肉体改造の実施により、6日間も酒を抜いており、久々に飲みたい気分になったことで、思いがけず、ほとんど衝動的に同店に立ち寄ろうと思ったのである。
店は白壁のしっとりと趣きのある外観。入り口には麻の暖簾がかかる。
入り口の戸を押すと、「カランカラン」とカウベルが鳴り、心地よい音が店内を包む。お店は左手にオープンキッチンとカウンター。右手にはテーブル席が4つほど。既にカウンターには熟年の男女と一人の男性客。テーブルは4人組みのおばちゃんたちが陣取っていた。
カウンター席にわたしは腰掛けた。
生ビールを注文。別に銘柄などどうでもいいのだが、ちょっとカッコつけ気味に「ビールの銘柄は?」と尋ねると、ご主人は「サッポロです」と丁寧に答えてくれた。
このご主人、かなり若い。まだ40歳前に見える。
突き出しは、「水菜とほうれん草のおひたし」。これが瑞々しくて、さっぱりしている。こんな入梅のジメジメした夜にはぴったりだ。
そして、生ビール。この6日ぶりに喉を通る黄金色のピルスナーが実にうまかった。とにかく、生きていることを実感させてくれる一瞬である。
つまみは、「適当にみつくろって」と頼んだ。
こういうお店はかなり上等な魚を用意してくれているはずだ。
「ヤリイカのいいのが入ってますよ」とご主人は言う。
それを刺身でもらうことにした。
品書きに目を通さないのはわたしの思いっきりの背伸びである。
イカを目の前で捌くご主人に、今日初めてこの店の暖簾をくぐった話をした。
そして、妻が「開運」が大好きなこと、その妻が妊娠して、出産してお酒が飲めないこと、など話すと、「子育てが一息ついたら、是非お二人で来てください」と言ってくれた。今晩、この店に来てホントによかったと心の底からそう思った。
生ビールが空になった。
「何、飲もうかな」と一人ごちると、すかさずご主人が「開運」飲んで行ってくださいな、と言う。
そうだ。これは妻に報告するためにも、ここは是非「開運」を飲んで帰ろう。
そうこうするうち、「ヤリイカの刺身」が目の前に運ばれてくる。
うぅむ。なんと鮮やかな盛り付けだろう。透き通ったイカが実に瑞々しく、適度なぬめりがやけに新鮮だ。
一切れ口に含んでみる。実にとろりとしたまろやかな味。こんなうまいイカ刺しは食べたことがない。そのうえすっきりとした飲み口の「開運」が実によくあう。これは、ホント最高!
すると、左隣に座っていた一人客の紳士が話しかけてきた。
「開運、うまいよねぇ」
それから、この男性にご主人も加わり、楽しいお喋りが始まった。
この紳士は「枡田屋」に「九条葱」を食べに来るのだという。どうやら、京都のご出身らしい。
わたしが知ったかぶりして、「この季節は鴨川に床が出る、いい季節ですねぇ」(師よ、ありがとう!)と言えば、更にお喋りに拍車がかかるのであった。
途中、別の常連のお客さんが入ってきて、九条葱の紳士とわたしの間に座った。
この方、宮崎県のご出身で、家の近所の蔵だから贔屓にしているという、焼酎「山ねこ」をロックで飲む。
この御仁が最近、「バリ島に行った」という話題から、一気に座は旅行の話で盛り上がる。九条葱の紳士が「ヴェトナムのフエに行きたい」と言えば、ご主人は「新婚旅行で行ったボラボラ島がよかった」という。そして、「山ねこ」の御仁は、「今度、台湾に行きたいなぁ」と夢見がちにいう。
うむむ。ここで、全部いいところですね、などと暗に行ったことあることを自慢しちゃったらひんしゅく買うだろうナと思って、うんうん頷くだけにしておいた。
イカ刺しでチビチビ「開運」を飲んでいたが、酒器の中の酒もあと僅かだ。そして、今宵は実に楽しかった。そして、もっと早く、この店の暖簾をくぐっていればよかったな、と少しの後悔をする。
九条葱の紳士は、火曜、金曜は大抵ここに来てる、という。あまりにも気持ちよくなったものだから、「来週火曜にまた来ますよ」と約して店をでた。
ウチまでの距離は僅か。6分もあれば着くだろう。
決して大衆的な酒場ではないけれど、自宅の近所に、こんな仲間のようなお店を持つことは幸運なことでもあり、また夢のようでもある。
おっと、ダイエットの方にも書き込まねば!嫌な話題だから逃げてました(笑)。
実はああ見えて意外に寂しがりやの師は嬉しいんじゃないの?なんつっても一人増えて娘がいるっていうのがいいのではないだろうか。速攻家に帰って、戸惑いつつも娘となんだかんだコミュニケーションをとろうとする、子煩悩おっさんな師の画が見えてくるようだよ。
さて、床(ゆか)についてはビシッとかましたね、師よ。俺のようないけずな京都人は、「師ぃ、床に行った事もあらへんのにそんな話しして・・・。」と皮肉満載の言葉を間違いなく吐いていたと思うが、(苦笑)話が弾んだようで何よりだ。
しかし、俺も床には行った事ないんだが、この温暖化&ヒートアイランド現象の昨今、鴨川の床で飯を食べるというのは、ある意味苦行ではないのだろうかと思ったりする。
貴船あたりの床なら涼しそうだけどね。
近すぎず、遠すぎずっていうのはけっこう難しいかも。
しかし、こんないい店を発見したのに・・・・・
次回以降をご期待!
さて、師よ。
師も床に行ったことないのか。
地元は行かないのかもね。
ところで、今年ハモ食った?
ハモ食べたいよ。師よ。
実は今日、名古屋に行ったのだが、新幹線で「名古屋の次は京都に停車します」とかアナウンスしてて、「そうか、このまま乗っていけば師に会えるか」などと思ってしまったよ。
一度、ウチの娘を見にきてくれ!師よ。
好感がもてます!
お店の方が良い人だからこそ、お客さんもきっとそんな人達が集まってくるんでしょうね。
全体で自然に盛り上がる場というのは
楽しいものですよ~。
大変、貴重なことだと思いますね。
今まで放浪ばかりしてきたせいか、こういう定点観測もいいものですね。
根なし草ではなく、根をはった飲み方も覚えていきたいものです。
怪鳥、まき子さん、技を伝授してください!