一応舗装はされているがかなりの悪路を我々が乗ったピックアップトラックが行く。
一体どこへ向かっているのか。まるで何かに拘束されているような気持ちにわたしの心は苛つく。
それとは裏腹にチェンマイの天気は快晴だ。真夏の太陽は何の憂いもないように笑い飛ばしているかのようにも見える。
わたしは無言のまま通り過ぎる田園風景を眺めていた。
クルマは15分ほど走っただろうか。
こんもりとした森の中にロッジ風のきれいな建物が並ぶ脇にクルマは滑り込んだ。
バスの常客が半強制的に連れて来られたのは、きれいなペンション風の宿だった。いや、半強制的というのはわたしだけなのかもしれない。ややこぎれいな格好をしたヨーロピアンは何の疑いもないままフロントに行き、それぞれチケットを差し出している。どうやら彼ら彼女らは既にこのホテルもブッキングしているらしい。
「しまった」。わたしは心の中で激しい後悔をした。
デラックスバスに乗ってきたせいで、おかしな事になってきた。
とりあえず、このホテルの宿代を聞いて判断してみようか。
そう考えながら、フロントに行くと、デスクには象の背中に乗ってジャングルを行くヨーロピアンの写真やそれに関係がありそうな料金表などが飾られている。
どうやら、ここはトレッキング専門のホテルらしい。
そして、一緒にバスに乗ってきたヨーロピアンはこのトレッキングが目的の連中だったのだ。
「ドミトリーはあるか?」。
それを聞くだけでわたしは精一杯だった。
「もちろん」と断固とした調子で若いタイ人の女性は答えた。
そして、恐る恐る一泊の料金を尋ねて、返ってきた答えは案の定法外な金額だった。
「一泊230バーツです」と答えた彼女をわたしは睨みつけるように凝視した。
彼女はちっとも悪くない。のこのことトラックに乗って尾いてきたわたしが悪いのだ。
日本円にして僅か800円弱の金額だったが、それは余りにも法外だった。
そこで、わたしは細やかな抵抗を試みるのだった。
「安くならないか」
だが、彼女は強気で1バーツとも料金をまけない。
そこで、わたしはこうした膠着状態を打破するべくバックパッカーの最終手段にうってでた。
「仕方ない。他の宿に行くよ」。
だが、彼女は済ました顔をしながら実にあっけなくわたしを見過ごした。
これまでの経験上、たいていの場合、売り手側が慌てて金額を下げてくる。やはり売り上げが手に入らないと困るのは彼らのほうなのだ。
だが、今回は違う。
彼女は「どうぞよそに行ってください」という顔をしている。
予想通りの展開にならなかったために少し動揺しながら、わたしはデスク上にあるチェンマイの地図を指差して、「ここはどこなんだ?」と彼女に尋ねた。
すると、彼女は意地悪そうな顔をして「ここよ」と指差したのは、チェンマイ市街からだいぶ離れた山の麓だったのである。
再びわたしは「しまった」と心の中で舌打ちをした。
「今日のバスはもう終わりよ。朝と夕方に1便ずつ。このホテルで無料のバスを出しているわ」
彼女はわたしの心を見透かすようにそう言い放った。
わたしの負けだった。
ここからタクシーを飛ばすとチェンマイ市外まではけっこうな値段になりそうだった。
それよりも、一泊して翌朝、このホテルの無料バスで市街まで行ったほうが得策なようである。
わたしは屈辱にまみれるような気持ちで230バーツを支払った。
※当コーナーは、親愛なる友人、ふらいんぐふりーまん師と同時進行形式で書き綴っています。並行して語られる物語として鬼飛(おにとび)ブログと合わせて読むと2度おいしいです。
一体どこへ向かっているのか。まるで何かに拘束されているような気持ちにわたしの心は苛つく。
それとは裏腹にチェンマイの天気は快晴だ。真夏の太陽は何の憂いもないように笑い飛ばしているかのようにも見える。
わたしは無言のまま通り過ぎる田園風景を眺めていた。
クルマは15分ほど走っただろうか。
こんもりとした森の中にロッジ風のきれいな建物が並ぶ脇にクルマは滑り込んだ。
バスの常客が半強制的に連れて来られたのは、きれいなペンション風の宿だった。いや、半強制的というのはわたしだけなのかもしれない。ややこぎれいな格好をしたヨーロピアンは何の疑いもないままフロントに行き、それぞれチケットを差し出している。どうやら彼ら彼女らは既にこのホテルもブッキングしているらしい。
「しまった」。わたしは心の中で激しい後悔をした。
デラックスバスに乗ってきたせいで、おかしな事になってきた。
とりあえず、このホテルの宿代を聞いて判断してみようか。
そう考えながら、フロントに行くと、デスクには象の背中に乗ってジャングルを行くヨーロピアンの写真やそれに関係がありそうな料金表などが飾られている。
どうやら、ここはトレッキング専門のホテルらしい。
そして、一緒にバスに乗ってきたヨーロピアンはこのトレッキングが目的の連中だったのだ。
「ドミトリーはあるか?」。
それを聞くだけでわたしは精一杯だった。
「もちろん」と断固とした調子で若いタイ人の女性は答えた。
そして、恐る恐る一泊の料金を尋ねて、返ってきた答えは案の定法外な金額だった。
「一泊230バーツです」と答えた彼女をわたしは睨みつけるように凝視した。
彼女はちっとも悪くない。のこのことトラックに乗って尾いてきたわたしが悪いのだ。
日本円にして僅か800円弱の金額だったが、それは余りにも法外だった。
そこで、わたしは細やかな抵抗を試みるのだった。
「安くならないか」
だが、彼女は強気で1バーツとも料金をまけない。
そこで、わたしはこうした膠着状態を打破するべくバックパッカーの最終手段にうってでた。
「仕方ない。他の宿に行くよ」。
だが、彼女は済ました顔をしながら実にあっけなくわたしを見過ごした。
これまでの経験上、たいていの場合、売り手側が慌てて金額を下げてくる。やはり売り上げが手に入らないと困るのは彼らのほうなのだ。
だが、今回は違う。
彼女は「どうぞよそに行ってください」という顔をしている。
予想通りの展開にならなかったために少し動揺しながら、わたしはデスク上にあるチェンマイの地図を指差して、「ここはどこなんだ?」と彼女に尋ねた。
すると、彼女は意地悪そうな顔をして「ここよ」と指差したのは、チェンマイ市街からだいぶ離れた山の麓だったのである。
再びわたしは「しまった」と心の中で舌打ちをした。
「今日のバスはもう終わりよ。朝と夕方に1便ずつ。このホテルで無料のバスを出しているわ」
彼女はわたしの心を見透かすようにそう言い放った。
わたしの負けだった。
ここからタクシーを飛ばすとチェンマイ市外まではけっこうな値段になりそうだった。
それよりも、一泊して翌朝、このホテルの無料バスで市街まで行ったほうが得策なようである。
わたしは屈辱にまみれるような気持ちで230バーツを支払った。
※当コーナーは、親愛なる友人、ふらいんぐふりーまん師と同時進行形式で書き綴っています。並行して語られる物語として鬼飛(おにとび)ブログと合わせて読むと2度おいしいです。
けど、初めての場所では、夜だったりすると余計に不安になって、そういうのを利用してしまったりする。
で、着いてみてのお高い宿泊費に「えらいこっちゃ~~!」となると・・・。
ただ、俺もこの時の師の場合と同じ状況なら、多分乗ってると思うなあ。
しかし、当時はほんと、一日2~300円とかの安宿にばかり泊まってたから800円とかだと法外(笑)な金額だと思ったけど、今思えば800円で「高すぎる!!」と声高に言ってしまうのもなんだかなという気がするねえ。
なおここの宿、夜だということを利用してさんざ適当なこと言っといて、実は翌日起きてうろうろしてみたら、近くに他の宿があったとか、歩いていけるところに町があったりしたとか、そんなオチがあったりするの?
いやあ、師のことだからその辺は着く直前に車上からちゃんとチェックしてるか・・・。
>なおここの宿、夜だということを利用してさんざ適当なこと言っといて、実は翌日起きてうろうろしてみたら、近くに他の宿があったとか、歩いていけるところに町があったりしたとか、そんなオチがあったりするの?
オチないよ。
本当に山の中だったんだ。
ただ、宿は何軒かあったけれど、やはりトレッキング宿で、値段的にはお高いような感じだったよ。
喩えれば、日本で言うところのペンションが集まる高原みたいな感じだったなぁ。
飯を食うところもなく(ヨーロピアンは宿の飯を別途払って食べていた)、ひもじい思いをしながら、一人悶々として、ベッドで夢野久作「ドグラマグラ」を読んでいたよ。
翌日はダッシュでそこを抜け出したのは言うまでもないけれど。