20年前、事務所は芝大門にあり、当時よく通ったカレー屋があった。貿易センタービルの地下にあるカレー専門店「からなべ屋。浜松町界隈のランチは、どこも高くて、ボクの安月給では、とても手が届かない中、「からなべ屋」のカレーは、安いのに、うまく、ボクは同僚のMっちゃんと、ほぼ毎日通った。食べ終わってお会計をすると、次回来店時に、玉子が無料になるチケットをくれるので、ボクの財布から、無料券がなくなる日はなかった。
だが、日が経つにつれて、「からなべ屋」に行くのが、辛くなってきた。というのも、アルバイトらしきアジア人の若い男の子が、行く度に店長から怒鳴られているからである。一度や二度なら、たまたまだ。けれど、ボクが行くと、必ずそういう場面に出くわした。店長は、客の目の前というのに、構わず怒鳴りちらしていた。店の中もピリピリムードである。通いはじめた頃は、平和な店だったが、通いはじめて、しばらくしてから、このような状態になった。だんだん、ボクもMっちゃんもつらい気持ちになり、いつしか店から、足が遠のいた。
過日、浜松町に寄った折り、貿易センタービルの地下に行ってみた。都営大江戸線ができて、地階のフロアはきれいになっていた。ちょうど20年ぶりである。奥に進んでみると、「からなべ屋」はまだあった。メニューをみると、値段もラインナップもあまり変わっていない様子である。素カレーの「からなべカレー」は320円。浜松町の一等地にあるのに、この値段は出色である。
「久々に食べてみるか」と店頭の券売機に並び、昔よく食べた「からコロカレー」(たしか、コロッケのせのカレー)を食べるかとボタンを探したが、見つからない。落ち着いて探せばいいものを、寄りによって、後ろに人が並んだものだから、焦ってしまい、適当にボタンを押したら、「オニオンリングカレー」(520円)の券が出てきた。
「しゃあないな」。
L字のカウンターに座り、食券を出した。店員さんはあの時の人とは違う。。アジア系のアルバイト君ももういない。当たり前か、20年も経つのだから。
数分と経たないうちに目の前に「オニオンリングカレー」が出てきた。
さらさらでやや黄色がかったカレーソース。ターメリックを主体に味つけられた、スパイス性と野菜を煮込んだジャパニーズ風味をうまくミックスしている。これが、このカレーのマジックである。両者のストロングポイントを融合させ、クセになりそうな秘孔を突くのである。適度なスパイシー感と適度なすっきり感があり、好みが別れる酸味はない。とにかくうまいのだ。貿易センタービルの地下にある居酒屋やカフェのランチカレーは軒並み900円台の値段設定の中、500円台でうまいカレーが食べられることは幸せなことである。
さて、食べ終わろうとしたところ、ボクの隣に若いお兄さんが腰掛けた。「カツカレー」か何かをオーダーしたのだろう。店員さんは、「7分半かかります」と事務的に言った。若い客は、微かに「はい」と答えた。ところが、店員さんは、その返事が聞こえなかったのか、また同じ言葉を繰り返した。すると若い客はどういうわけか、それを無視した。彼には一度返事をしたという気持ちがあったからだろうか。それを見て、店員はやや語気を強めて、三度「7分半かかります」と言った。客は、その勢いに圧され、「はい」と答え、静かなバトルは終わった。
なんだ、またか。どうやらピリピリさせてくれるのは、20年経っても変わらない。いや、もしかすると、このピリピリは、同店オリジナルのスパイスなのかも。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます