卒論の提出まであと2か月をきった。
ボクの卒論の進行は相当遅れていた。
ひとつの一文を書くと躓き、思案する。思い立って書くとまた躓く。一進一退を繰り返していた。
本来ならば4年生は出席しなくてもいいゼミの時間だが、ボクは指導教員にアドバイスをいただきたく、こうして月曜日の夕方、毎週ボクは大学に通った。
学食で飯を食べ、その後図書館で調べ物をして、指導教員に会い、アドバイスをいただく。本来ならば、その後まっすぐ家に帰って、卒論を書かなければいけないのだが、ボクは必ず途中下車して酒場に立ち寄った。
そうこの日も。
駅と駅の間を歩く立ち飲みラリーは、この西武池袋線ではやっていない。仕事して、勉強した後はもうくたくたでそれどころではなかった。
それどころか、ボクはあらぬことか、手っ取り早くケイタイで情報を得て、立ち飲みに行った。
この「串ごっち」もそうやって見つけた店である。
大泉学園という駅をボクは初めて降りた。
高速道路のランプがあるので、板橋のような空気が悪い街という印象を持っていたが、駅の周囲はどこにでもあるようなありふれた街だった。
お目当ての店はすぐに見つかった。
看板に大きく「串ごっち」と書かれている。センスがない看板だと思った。
立ち飲みは常に進化を繰り返し、本格派と廉価派の二極化に進みつつあるなか、どちらかといえばアイキャッチに神経を注いだ時代遅れな印象を「串ごっち」に感じる。
そのそも、串焼きの立ち飲みはよほどのストロングポイントがなければ、そうそう生き残っていけない。
店に入った瞬間、やはりこれはダメだと思った。
「お通し」100円。
黒板にはっきりと白墨で記されている。
かつて、何度か立ち飲み屋で遭遇したことのある「お通し」有料だが、ボクはやっぱり、この姿勢にがっかりする。その100円ケチって、もっと大きなものを失うことを店主は分からないのだろうか。
酒も酒肴も高くはない。
「黒霧島」280円。
「もつ煮込み」300円。
串焼きは軒並み100円だ。
それだったら、何故「お通し」代をとるか。
「チューハイ」と「もつ煮込み」、そして、串焼きを何本かオーダーした。
ありふれた「チューハイ」であり、ありふれた「もつ煮込み」だった。
一人で切り盛りする店主は特に敏捷に動くわけでもなく、オーダーの支度にかかった。
なんとなくボクは「失敗した」と思った。
ボクは氷で薄まった「チューハイ」を飲み、小粒の身の串焼きを食べながら、数分間味気ない時間を呆けたように時間を過ごした。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます