Wズインクからの直帰は小田急線で新宿に出てから帰宅してきたが、ある日Wズインクの近くに立ち飲み屋があることを発見した。丸木屋酒店という角打ちである。渋谷と代々木公園駅のちょうど真ん中といったあんばいの立地である。徒歩で行ってみると意外に近いことが分かった。しかも、その帰り道、渋谷駅まで歩いてみると、これまたすぐに渋谷に出られることが分かった。それ以来、Wズインクからの帰りは渋谷に出ることにしたのだ。その時に見つけたのが、「あばら家別館」だった。
ただ、困ったことにこの店、開いているときと開いてない時があった。数ヶ月前のこと、店の前を通ると、店は開いていた。立ち止まって、中を窺うと、客の一人と目があった。目つきの悪い、ごろつきのような男だったので、その日は店に入るのをやめた。ところが、その後、店が開いてない日が続いた。あぁ、あの時、店に入っていれば良かったと何度悔いたことか。
一月前、店の前を通ると店に灯りがついていた。中を覗いて、お母さんに「何時からですか?」と尋ねと、「17時半」と返ってきた。困ったな。あと1時間もある。その日はもう諦めた。先日、また同じように店に灯りが灯っていたので、再び開店時間をきいた。すると今度は17時だという。仕込みの時間で開店時間は違うようなのだ。17時ならあと30分。渋谷をぶらぶらすればすぐ時間になるだろう。かくして30分後、店はしっかり開いていて、ようやく店に入ることができたのである。
実はこの店、さして期待を寄せてはいなかった。外観から怪しげな雰囲気を漂わせていたし、店内も薄暗く、あまり楽しそうなイメージが湧かなかった。
店に入り、奥のカウンターにポジションした。てっきりお母さんが中心に店が切り盛りされていると思ったが、店舗の奥には今時の若者が働いていた。若かりし頃の窪塚洋介さん似の青年である。
厨房の冷蔵庫に「ホッピー」が見えた。よし、まずは「ホッピー」白から攻めるか。店にはメニュー表示らしきものがなかった。メニュー表すらない。困ったな。とりあえず、お兄さんに「ホッピー」セット(400円)の白をオーダーした。
お店は、正直よく分からないコンセプトだった。背後には小さなテレビがあり、その下にはスーパーファミコンが置いてあった。あぁ懐かしい。自分がスーファミを買ったのも、確かこの渋谷だった。
「ホッピー」を飲んでいると、やがてメニュー表が来た。一枚の紙。どうやらメニューは日替わりの様だ。なかなか魅力的なメニューが並ぶ。とても立ち飲み屋とは思えないつまみばかりだ。
その中から、「スパサラ」(400円)と「マーラーおでん小」(600円)をオーダーした。つまみ自体はそんなに安くはないが、従来の立ち飲みにはないつまみが多く、おおいに期待させてくれる。
イケメンの若者はこれからの忙しい時間を見越して、賄いを食べ始めた。お店のママと若者のやりとりを見て、もしかするとこの二人は親子ではないかと思った。若者とママの会話は自然で、やたらと「うまい、うまい」を連発する。一通り賄いをたべと、「追い飯もらう」と言って、勝手に釜から賄いにご飯を足した。見かけは今時の若者だが、中身は昔の若者と変わらないのである。
さて、つまみ第一弾。「スパサラ」が来た。これがものすごいボリュームなのである。ゆうに二人前はありそうな盛り。早速いただくと、これが抜群にうまい。そしてしばらくして次に、「マーラーおでん」が来た。この盛りも凄かった。一見すると、無秩序に盛られた感もあったが、実はきれいに収められている。おでんの種には、串焼き用の焼き鳥も入っていて、それだけでもう充分にサプライズであり、楽しませてくれた。
マーラーとは花椒であった。このおでんとの意外な組み合わせが、実においしく、驚きだった。花椒は辛味ではなく痺れである。ツンと鼻に通る、スパイス的な香りが、おでんを引き立てている。これは本当にクセになりそうな味だった。
不覚ながら、この二品でお腹がいっぱいになった。
この店のママ、只者ではない。料理の腕だけではない。センスが違う。恐らく、絶えず料理を研究しているのだろう。その料理はエンターテインメント性が高い。
実は申し訳ないことに、かなり自分は「あばら家」を舐めていた。しかし、この高い満足度。恐れ入りました。
渋谷の立ち飲みは多いものの、小粒な印象は否めない。「富士屋本店」を失った今、「あばら家別館」が渋谷の立ち飲みの筆頭かと思うのである。
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