「ちひろ美術館」の帰り、緊張した気持ちを酒でほぐそうと思いたった。
下井草の駅前には「まいど!」という立ち飲みがあるが、今夜は新規開拓がしたい。
そこで、鷺ノ宮までデてみようと考えた。急行が停まる駅ならなんとかなりそうだ。
ネット情報は使いたくなかったが、スマホで調べると、鷺宮には「ひなた屋」という立ち飲みがあるらしい。
早速、地図を頼りに、行ってみると、店内に人はいるのだが、店が開いていない。
ボクはしばらく周辺を散策しながら、開店するのを待つことにした。
30分ほどで戻り、店の前まで行くと、店はまだ開店していない。
「食べログ」の店情報よると、既に店は開いているはずなのだが。
もう少し待とうかと思ったが、なんだか面倒くさくなり、違う店を探すことにした。
中杉通りという繁華な通りに出ると、白煙が立ち込める店舗を見つけることができた。
もうもうとした煙が景気良くのぼっている。
思わず「あそこに行ってみよう」と思った。
暖簾は煤けていて、雰囲気がある。
その暖簾には「やきとり にしだ屋」と染め抜かれている。
店に入って、ボクはちょうとL字の角にあたるカウンターに腰掛けた。
早速メニューを眺めると、やきとり、やきとんの種類がぎっしり。
「鶏レバー」、「はつもと」とか、珍しい部位もラインナップ。
「へぇ」。
あまり期待せずに入った店だったが、どうやら当たりをひいたかも。
しかし、悲しい性。値段をみると、それほど安価ではない。「もも」が140円、「とり皮」120円などベーシック部位でもこの値段。「鶏レバー」、「はつもと」になると一気に150円となる。
それならば、さぞかし身が大きいのだろうと思ったが、実際に食べた「もも」、「ねぎま」、「ハツ」は大きいどころか、並の店よりも小さく、ボクは思わずがっかりした。
一瞬期待値を高めてしまったのがよくなかった。
飲み物はビールに日本酒、ホッピーが置いてあり、ホッピーに至っては、「シャリ金」も用意されていた。
だが、ボクの視線を釘付けにしたドリンクがあった。
あの「梅割り」である。
そう、「宇ち多”」の名物であり、ボクの大好きな成田の「寅屋」でも大好評の、あの魅惑の飲み物である。
キンミヤ焼酎を並々とグラスに注ぎ、梅エキスを加えたというシンプルな酒なのだが、何故か極上の肉と抜群に相性がいい。
これは思わぬ展開になってきた。
小皿に乗っかった小さなビールグラスに、なみなみと注がれた焼酎。その出で立ちもまさに「宇ち多”」や「寅屋」のそれそのもの。
小皿に少しこぼれた焼酎がまたいい。
さて、グラスに口をつけて、表面張力された焼酎をちょびっと飲む。
うむ。確かに「梅割り」だ。
飲み進めていくうちにあることに気がついた。何かが物足りないのである。
焼酎は確かにキンミヤだ。そうすると、この梅シロップが問題なのだろうか。
いやいや、梅シロップの割合なんて、「梅割り」全体の1割にも満たない。と、すれば他に何が問題なのだろう。
もしかすると、肉のクオリティによって、「梅割り」のうまさが引き出されていないとか。
「宇ち多”」の極上肉、「寅屋」のハラミ。それとともに飲むから、あの単純な「梅割り」が素晴らしくおいしく思えるというのは十分ありえる。
或いは、店の雰囲気だろうか。
「宇ち多”」の緊張感と「寅屋」の大衆性に比べれば、「にしだ屋」の雰囲気はだれていた。
いや、気が抜けていたといってもいいかもしれない。
その昔、ホッピー研究会の怪鳥はこんなことを言った。
「家で飲むホッピーはまずい!」と。
言い得て妙だと思う。
そうなのだ。酒の旨さはその雰囲気からも醸成されるのだ。
ボクは「にしだ屋」の「梅割り」で、それを十分思い知らされたのである。
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