従業員が会社から貸与されたPCやスマホあるいはネットワーク(以下、「社用PC等」と呼ぶ)を用いて業務に関係ないメール送受信やSNS投稿やネットバンキング操作等(以下、「私的利用」と総称する)をしていたら、会社は懲戒することができるのだろうか。
そもそも、社用PC等を私的利用してよいか否かを問うならば「否」と答えざるを得まい。 社用PC等も業務用に付与したメールアドレス(SNSアカウントを含む)も、その所有者が会社である以上、それを貸与した目的以外に使うことは認められないからだ。
しかし、私用メールの“受信”については、業務用のメールアドレスを家族や友人に知らせることは珍しくなく、それを禁じる合理的な理由も無いので、これは許容範囲内と言えるだろう。
一方、私用メールの送信その他積極的な私的利用は、業務用メールアドレスを使おうと私的メールアドレスを使おうと、いずれにしてもメールを打っている間や操作している間は職務専念義務(労働契約に付随する義務)を果たしていないことになる(東京地判H14.2.26等)。
とは言え、民法493条は「債務の本旨に従った弁済」を求めているのであって、当人の執務自体もしくは職場の業務運営全体に支障が生じるほどでない限りは私用メールを送ったことを咎め立てるのは酷にすぎよう(参考:東京地判S42.11.20;“私用電話”に関する裁判例)。 また、会社の電話機を用いて私用電話を掛けた場合における「電話料金」のような“目に見える損害”が、社用PC等の私的利用では生じないことも考慮されるべきだろう。
結論として、社用PC等の私的利用を禁じること自体は可能であるが、それへの違反行為を懲戒の事由とするのは、現実に、その頻度や内容の不適切さ等により業務に支障が出たり、有形・無形の損害を被ったりした場合に限る、と認識しておくべきだろう。
ところで、こうした案件を論じる時には、プライバシー権(日本国憲法第13条「幸福追求権」の一つと解釈される)についても理解しておかなければならない。 というのも、社用PC等であったとしても、その利用方法に関して利用者(この場合は従業員)に一切のプライバシー権が無いとは言えないからだ。
上述のとおり社用PC等は会社の所有物であるから、会社は施設管理権の一環として、その利用方法を監視することは問題ない。 しかし、それが「責任ある立場でない者によるもの」・「職務上の合理的必要性なく個人的な好奇心等から行われたもの」・「監視している旨を秘匿してのもの」であった場合などには、「社会通念上相当な範囲を逸脱した監視」として、プライバシー権の侵害となりうる(東京地判H13.12.3;この判決では請求棄却)。
逆に、会社は「責任ある者が職務上必要な範囲で利用方法を監視する」旨を周知しておくべきであり、また、そうすることで私的利用や不適切利用を抑止する効果も期待できそうだ。
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