労働基準法第32条は、労働時間を原則として週40時間以内と定めているが、これには特例措置が設けられており、事業によっては週44時間とすることも許されている。
その事業とは、「卸売業、小売業、理美容業、倉庫業、その他の商業」、「映画の映写、演劇、その他興業の事業(映画の製作の事業を除く)」、「病院、診療所、社会福祉施設、浴場業、その他の保健衛生業」、「旅館、飲食店、ゴルフ場、公園・遊園地、その他の接客娯楽業」の4種類であり、いずれも、常時使用労働者が10人未満であることが要件となっている(同法第40条、労働基準法施行規則第25条の2)。
「10人未満」と聞いて大企業には無縁の話と思う人も多いだろうが、労働基準法は基本的には事業場(主として同一の場所で事業が行われているかどうかによって決定される)単位で適用されるので、例えば小売店舗を多数有する企業などは店舗ごとに特例措置の対象となる可能性がある。 ただし、場所的に分散していても規模が非常に小さく事業の組織的関連や事務能力などの点から一の事業といえないほど独立性のないものについては、そのすぐ上位の機構と一括して一の事業として取り扱われることには要注意だ。
もし自社にこの特例措置に該当する事業場があるなら、その事業場では、所定労働時間を週44時間とすることが可能であり、時間外労働に関する労使協定(いわゆる三六協定)や時間外労働に係る割増賃金は週44時間を超える分が対象となる。 もちろん、その場合の三六協定は、当該事業場が独立して管轄労働基準監督署へ届け出なければならない。
社内あるいは第三者による労務監査等においては、以上の点を踏まえて労働基準法に違反していないかどうかをチェックする必要がある。
ただ、誤解していただきたくないのは、本稿は、長時間労働を是とするものではないし、特例措置の適用を推奨するつもりもない。
まして、現行の所定労働時間が週40時間であるものを週44時間にするのは、労働条件の不利益変更に他ならず、また、労働基準法第1条第2項の趣旨にも反する行為であるので、厳に慎みたい。
なお、厚生労働省に設置された労働政策審議会が平成27年2月、働き方改革に関連して『今後の労働時間法制等の在り方について』と題する報告書の中で「特例措置対象事業場の範囲の縮小を図る方向で‥所要の省令改正を行うことが適当である」と建議していることも付言しておく。
【参考URL】 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000073981.html
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