会社は、業務上の都合や人材育成の一環として、従業員に配置転換を命じることがある。
ところで、この配置転換命令に従わない従業員がいた場合、会社はその従業員を懲戒できるのだろうか。
会社は、従業員を配属し配置転換できるという「人事権」を有している。 これは、就業規則等に明文規定が無かったとしても、「経営権」の一環として一般的に認められている権利だ。
しかし、権利を有していても、その濫用は許されない(民法第1条第3項)。
具体的には、以下のような配転命令が「人事権の濫用」になると考えられる。
(1) 不当な動機・目的によるもの
(行政機関への通報や正当な労働組合活動への報復措置、嫌がらせ・見せしめ等)
(2) 当該従業員に著しい不利益を負わせるもの
(収入の大幅減、遠方への通勤、未習熟業務への適応、育児や家族介護への支障等)
(3) 経営上の必要性が無いもの
(人選に正当性が無いもの、経営者の“思いつき”等)
そして、もちろん職種限定や勤務地限定等の特約に反する配置転換が無効なのは言うまでもない。
一方で、会社は社内秩序を維持するために従業員を懲戒する権利(懲戒権)を有するとされる。
しかし、これに関しても、次のような観点で注意を要する。
(1) 就業規則等に懲戒の根拠規定を置いているか
(2) 客観的に合理的な理由を欠く懲戒ではないか
(3) 規律違反の種類・程度等に照らして社会通念上相当な懲戒内容であるか
(4) 同様の規律違反に対する懲戒処分と平等性が保たれているか
(5) 懲戒に到る手続き(懲戒委員会の開催、弁明機会の付与等)は適正か
この「人事権の濫用」と「懲戒権の濫用」の2面から見て問題なければ、そのときに初めて、配転命令拒否者を懲戒することができる。
というより、むしろ、そうした場合は懲戒するべきとすら言えよう。 一人の“わがまま”を許して、それが前例となってしまうことは会社として避けたいからだ。
なお、配置転換を不服として本人自らの意思で退職したいと申し出てきた場合にそれを承認するのは差し支えない。 ただし、それも、配転命令自体にそもそも「退職させたい」という不当な動機が無かったことが前提の話ではある。
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