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その「出向」は「違法派遣」に該当しないか?

2017-07-03 22:50:14 | 労務情報


 従業員を自社に籍を置いたまま他社での業務に従事させるには、「在籍出向」(以下、本稿では単に「出向」という)か「労働者派遣」(以下、単に「派遣」という)のいずれかによることになろう。
 このうち「出向」は、「派遣」と異なり労働局の許可を受けなくても可能(※)であるうえ、期間の制限(派遣は原則として最長3年)も無いので、出向元にとっても出向先にとっても使いやすい制度と言えるが、ともすると、「違法派遣」として労働局の指導を受け、刑事告発されるケースまであるので、両者の違いを正しく理解しておく必要がある。
※自社で雇用する従業員を他社に派遣する「特定労働者派遣事業」(労働局への届出のみで可)の制度は平成27年の法改正で廃止された(当面は既得権保護措置あり)ので、ここでは考えない。

 そもそも出向は、経営や技術の指導、職業能力の開発、人事交流等を目的として、多くの場合は同一の企業グループ内で行われている。もちろんグループ外企業へ出向させられないわけではないし、逆にグループ内企業への出向が必ずしも適正なものとも言いきれないが、少なくとも、「業」として行われていないことが要件だ。
 業として行われているかどうかの判断材料の一つに、「労働者に係る費用の負担先」が挙げられる。出向者の賃金支払いや社会保険の加入は、通常は出向先で行われるのに対し、派遣では、これらは派遣元の負担となる。まれに、「片道切符ではない」ことを出向者に意識させる等の目的で、これらを出向元が一旦負担したうえで掛かった費用の全部または一部を出向先に請求する例も見られるが、その請求額が実費を上回っている(出向元がそれで儲けてしまう)と、業として行われている(=派遣)と見られる可能性があるので、要注意だ。

 また、出向者には出向先の就業規則が適用されることも、気を付けるべきポイントだ。すなわち、労働時間も、懲戒に関する事項も、出向先のルールに従わなければならない。ついでに言うと、時間外労働も出向先の三六協定に従うこととされ、その三六協定の締結(過半数労働組合または過半数代表者との間で締結する)にあたっては、出向者も出向先事業場の労働者として数えなければならない。

 以上を踏まえれば、会社は就業規則等による包括的同意のみで本人の個別同意が無くても出向を命じられるとされてはいる(東京地判S45.6.29、新潟地高田支判S61.10.31等)ものの、最低限、本人と出向先との雇用契約書は交わしておくべきであるし、費用負担その他の取り決めを出向元と出向先との間で明文化しておくことも必須と言えよう。
 これらを整備しておけば、関係三者(本人・出向元・出向先)がみな当該出向に係る条件を認識できるとともに、労働局の調査に際しても派遣に該当しないことを説明するための材料となりうるだろう。


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