退職金には、①賃金の後払い、②功労への報償、③退職後の生活保障、という3つの性格があるとされる。これらは従業員本人が死亡したことによっても否定されるものではない(③は「遺族の生活保障」と読み替えられる)ので、従業員が死亡退職した場合であっても、会社は退職金を支給しなければならない。その点、賞与には「将来の労働への意欲向上」という4つめの性格があるため「支給日に在籍しない者には賞与を支給しない」旨の定めを置くことが許されるが、それとは異なる。
では、本人が死亡してしまった場合、会社は誰に対して退職金を支給するのか。
それは、会社の退職金規程がどう定めているかによる。
もし退職金規程に死亡退職金の受取人について定めが無ければ、相続人全員による遺産分割協議が整った後に、各相続人に対してそれぞれの相続分に応じて退職金を支給することになる。
一方、退職金規程に死亡退職金の受取人が明記してあれば、遺産分割協議を待たずに、定められた受取人に退職金を支給すれば良い。その方が実務面で簡便であり、また、遺族間のトラブルも生じにくいので、一般的には定めを置いておくことが推奨されている。
ところが、その定めを「労働基準法施行規則第42条から第45条までに準じる」としている場合(実際このように定めている例が数多く見受けられる)は、これが新たなトラブルの火種となることが往々にしてあるので、要注意だ。
というのも、ここで準用する労働基準法施行規則第42条第1項は、「遺族補償を受けるべき者は、労働者の配偶者(婚姻の届出をしなくとも事実上婚姻と同様の関係にある者を含む。以下同じ。)とする」と定めており、事実婚を認めているからだ。
つまり、退職金規程にこれと同じ規定があったなら、死亡した従業員が戸籍上は独身であっても、あるいは戸籍上の配偶者がいたとしても婚姻が破綻しているとみなされる場合は、内縁関係にある者がいたなら、その者に対して退職金を支給しなければならないことになる。
なお、同規則第43条第2項には「労働者が遺言又は使用者に対してした予告で前項に規定する者のうち特定の者を指定した場合においては、前項の規定にかかわらず、遺族補償を受けるべき者は、その指定した者とする」とあるが、この規定は第42条に劣後するので、遺言等があっても配偶者(内縁を含む)が第1順位であることは揺るがないことも覚えておきたい。
死亡退職金の受取人について定めがあったらあったで、こういった事態も起こりうることを担当者は承知しておかなければならない。また、退職金制度の新設や改定を予定している会社は、こうした点も勘案して死亡退職金の受取人をどうするかを検討するべきだろう。
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