階段の途中まで来ると、二階の陽当りの良い部屋にいる、父の匂いが漂っている。病人の匂いではなく、どこか懐かしい健康的な匂いだ。
来週に、父は入院、手術を控えているが、果たしてどのくらいまで回復する見込みがあるのだろうか。頑固な父は母のそしてわたしの健康に対する忠告をきかず、その結果がこれだった。
子供が小さい頃、家を探していたわたしたちに、父は一緒に住まないかと提案した。
正直なところ、わたしは父と再び同じ家で住むのはもう嫌だった。しかし、当時お金の無かった私たちは、その申し出を受け入れることにした。そろそろ増えてきた二世帯住宅のはしりだった。
今朝テレビで、竹下景子が急死をした父親への想いを語っていた。「いつも父に褒められたいと、その思いで演技をしていたと思います」
わたしも子供の頃から父と反目をしながらも、あの頃の自分を思い返すと父に愛されたいと思っていたのかもしれない。可愛くて利発な家のアイドルだった姉と違って、わたしは親にお上手が言えず可愛げがなかった。親は単純に、自分を喜ばせてくれる子供が好きなのだ。
しかし、父からは沢山の無形のものを与えられた。芸術も文学もわたしの仕事も、みんな父から影響を受けた。多分わたしは父と性格が似ているのだろう。同じところで腹を立て、互いに一歩も譲らないからいつも激しくぶつかった。間に入った母がおろおろするほど。
今年になって急に体調を崩した父は、すっかり性格が変わり温厚で優しい父になった。
りこ、りことわたしを呼んでいたのに、先日はいい年の娘にありがとうりこちゃんだって・・・。
わたしには、それが今では不満だ。優しい父とどう向き合ってよいかわからない。
父を病院へ連れて行き、服の脱ぎ着に手を貸すときに、ふとあの匂いが鼻をかすめる。
子供の頃にかいだそのままの、懐かしい父の匂い。
そして、わたしの鼻の奥が、つんと痛くなる。
来週に、父は入院、手術を控えているが、果たしてどのくらいまで回復する見込みがあるのだろうか。頑固な父は母のそしてわたしの健康に対する忠告をきかず、その結果がこれだった。
子供が小さい頃、家を探していたわたしたちに、父は一緒に住まないかと提案した。
正直なところ、わたしは父と再び同じ家で住むのはもう嫌だった。しかし、当時お金の無かった私たちは、その申し出を受け入れることにした。そろそろ増えてきた二世帯住宅のはしりだった。
今朝テレビで、竹下景子が急死をした父親への想いを語っていた。「いつも父に褒められたいと、その思いで演技をしていたと思います」
わたしも子供の頃から父と反目をしながらも、あの頃の自分を思い返すと父に愛されたいと思っていたのかもしれない。可愛くて利発な家のアイドルだった姉と違って、わたしは親にお上手が言えず可愛げがなかった。親は単純に、自分を喜ばせてくれる子供が好きなのだ。
しかし、父からは沢山の無形のものを与えられた。芸術も文学もわたしの仕事も、みんな父から影響を受けた。多分わたしは父と性格が似ているのだろう。同じところで腹を立て、互いに一歩も譲らないからいつも激しくぶつかった。間に入った母がおろおろするほど。
今年になって急に体調を崩した父は、すっかり性格が変わり温厚で優しい父になった。
りこ、りことわたしを呼んでいたのに、先日はいい年の娘にありがとうりこちゃんだって・・・。
わたしには、それが今では不満だ。優しい父とどう向き合ってよいかわからない。
父を病院へ連れて行き、服の脱ぎ着に手を貸すときに、ふとあの匂いが鼻をかすめる。
子供の頃にかいだそのままの、懐かしい父の匂い。
そして、わたしの鼻の奥が、つんと痛くなる。