20数年ぶりに、いきなり我が家を訪れたのは、亡き父の従兄弟だった。
父が3歳の時に亡くなった生母の弟の息子さん。
私からみれば、伯従父という血縁になるらしい。
血縁の少ない父にとって、唯一親しくしていた父方の親類だった。
私も子供の頃には、ドライブに行ったり、釣りに連れて行ってもらった。
70をとっくに過ぎているが、面影が変わらないので、会った途端にSおじさんだとすぐ分かった。
懐かしい顔。
父とは、仕事上で互いに持ちつ持たれつの関係だったが、それぞれの仕事が忙しくなると、だんだんとその関係が希薄になり、気がつけば20年以上の月日が経ってしまっていたのだ。
「久しぶりだね、お父さんいる?元気」と訊かれ、父が去年に亡くなった事を知ると大きく表情が変わった。
父は、静かに逝きたいから葬式には誰も呼ばないで欲しいと、生前に折にふれ話していた。
私は父のたった1人のその従兄弟に知らせるべきか迷ったけれど、母は父の意思を尊重したいからと言い、結局知らせなかったのだ。
それに、そのうちに、そのうちに訪ねようと思っているうちに、20年なんてあっと言う間だった、とSおじさんは言った。
そのSおじさんが、我が家にみえるきっかけになったのは、年月が経ち敷居が高く感じていた背中を押してくださる方があったそうだ。
「思い切って会っておいでよ」の言葉で、それこそ思い切って訪ねてきたのに、肝心の父はもうこの世になく…。
父に無沙汰を謝り「もっと早く来れば良かった。会いたかった」と仏壇に向かって話していた。
私も友達と旅行がてら、いつか会いに行きたい人が遠くにいた。
しかし、その人は数年前に60代で亡くなり、とうとう会う機会を逸してしまったことが、返す返す残念だった。
逝く人の意思もあり
そして、残された人の限りない想いもあるのだ。