公園で散歩させ、木陰でシートを敷いて休んでいると
黒とベージュの縦縞模様のチュニック姿の70代半ば?と思しき小柄な女性から
「あらぁ…かわいいのがいるねぇ」
と声をかけられた。
「だいぶ年なんじゃない?」
と、
彼女はHalを見ながら言う…
「実際のところは、わかんないんだけどね」
と夫は、ややぞんざいに応えた。
夫が初対面の年上女性に、いわゆるタメ口で
そういうものの言い方をするのは、
飲みに行ったスナックで、
偶然、横に座った見ず知らずの女性から声をかけられた時と同じだ…。
「もとは、保護犬なんですよ」
と私が言うと、
女性は細めの眼を見開いて、興味ありげに近づいてきた。
「ふう〜ん、よかったじゃないの。ウチにも昔、シェットランドがいてサ」
と、
彼女は、私たちが反応したことに気を良くしたらしく
私たちの側に座り込んで自分の事を話し始めた。
「大きな家で、アッチが飼っていたんだけどサ、
向こうの言うことは、きくのに私の言うことはきかないんだよ」
アッチとは、かつてのパートナーらしい。
今は、独り暮らしだという彼女は笑いながら
「ある時、私にそのシェットランドがじゃれついたら、どうもへんなんだよね…腹のあたりが膨れてんの…キムラ医院で診てもらったらコウガンガンだったんだよね」
( 犬にも、そういう癌があるんだ…)
頷きながら黙って聞いていると、
「こっちの病院では手術できないっていうもんだから、東京の大学病院で手術して、医者は大丈夫だっていったのに、その晩に死んだんだよ!」
だんだん当時を思い出したのか、憤った口調で興奮気味に話す。
それに合わせるように夫が私の方を向き、
「うちに昔いた雑種もガンだったなぁ」
と、私に同意を求めた。
夫の実家で飼っていたミックス犬が、乳ガンになって死んだのは、もう20年も前の話だ。
座り込んだ彼女は、よほどHalが気になるのか
「いっぱい持ってるんだよ、この100何匹とかの犬の人形。大きいのと小さいのをね…」
Halが、骨型の歯磨きガムを噛む様子を見ながら彼女は続けた。
「その様子じゃぁ、やっぱり、かなり年なんじゃないの?」
と…。
そう言われると、なぜか急にHalのことが不憫に思えてきた。
「推定年齢は6才なんですけれどね」
と、言うと
「6才ってことはないよ!10才くらいなんじゃないの?私も犬が好きでよくここに来るんだよね」
( あぁ、余計なことを言うんじゃなかった…)
「だけど、おとなしい犬だねぇ、よっぽど可愛がられてたんだろうねぇ…」
( 本当に可愛いと思っていれば捨てたりしないが…)
と思いつつ、黙っていると
横から夫が、
「どうやら前の飼い主が病気になって飼えなくなったらしい…」
と、Halが保護犬になった経緯を話し始めた。
「ふ〜ん、ならよかったじゃないの!いい人に貰われて。私も飼いたいんだよね、でも子犬から飼うのは、もう年だし…ねぇ…」
そういう彼女に
「保健所に行けば、そういう犬はいっぱいいるよ。保護団体もネットで里親を募集している。ただし、この犬もそうだけど室内飼いが条件だけどね」
と夫が答えた。
「案外、条件が厳しいんだね」
と彼女は、びっくりした様子…。
「じゃ、そろそろ…」
と、
帰り支度をしはじめた私たちは、まだ名残惜しそうな彼女から離れた。(~_~;)
確かに、彼女が言うように
もう二度と捨てられないように…を大前提に里親を探すため、保護団体からの譲渡犬は条件が厳しい。
ついでに言わせてもらうと、
里親には年齢制限があって「高齢者不可」の条件付きの犬も多い。
ただ可哀想だから引き取ってやりたい、だけでは里親にはなれない。
それと、最期まで面倒をみる覚悟がないと里親にはなれない。
実年齢が、わからない犬を引き取るのは、あと何年一緒に居られるかわからない不安が付きまとう。
ただ、私も夫も
最期を迎える時に、この家に来てよかった…とHalに思ってもらえれば、それでいいと思っている。
Halに逢えて、本当に良かったと思っているから…。