音楽の喜び フルートとともに

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黒い森の果てに

2008-08-15 01:17:03 | 名曲

これは日本の森ですが、クラッシック音楽で森といえば、まず、ドイツのシュヴァルツバルト(黒い森)を思い浮かびます。日本の森にズンダラボウや、風の又三郎、龍の小太郎、雪女がいるように、ドイツの森にも小人や、妖精がいます。この黒い森の奥、ドナウ川を舞台にした音楽と言えば水の妖精のお話。「ウンディーネ」があります。

「ウンディーネ」は1811年フーケーの創作ですが、発表されるや、数ヶ国語に翻訳され、画家や作曲家に取り上げられたりしました。ホフマンはオペラをドビュッシーや、ラベルもウンディーネをテーマに曲を書いています。そしてもちろんフルートもピアノとのデュオ、ライネッケの「ウンディーネ」があります。又戯曲はジャン・ジロドゥにより、日本でも「オンディーヌ」と言う発音で、劇団四季により何度も再演されています。

フーケーは音楽16世紀の古い文献を参考にしたそうですが、魂のない水の精 ウンディーネと人間の男との恋。妻となって初めて魂を得ますが、もし妻となった女を男が水の上で罵れば、女は水底の国に帰らなければなりません。そして、その男が他の女と結婚する時、水の娘は再び地にあらわれて、夫を殺すことがさだめられています。

湖にすむ老いた漁夫のところに騎士が迷い込んでくるところから、お話が始まりますが、その漁夫が住む土地は美しいにもかかわらず、他に一人として住む者がいなかった。というのは、背後に、鬱蒼とした森を控えているからである。陽の一筋射すことなく、路らしい路の一筋もまたない森はいくつもの恐ろしげなうわさをまといつかせていた。…とあります。その騎士フルトブラントは黒い森のそばの城に住んでいます。森に引き返すのも湖を渡ることもできず、漁夫に一夜の宿を借ります。

そこにすむ養い娘が「ウンディーネ」彼女は漁夫が実子を亡くした翌日、どこからかやってきたのでした。ウンディーネに恋をしたフルトブランとは彼女を城に連れ帰りますが、森の中では純粋に見えた彼女の美点は、城の中、人の世界では無知に見え、もう一人の人間の女ベルダルダとの確執もあり、ついにドナウ川の上で、フルトブラントはウンディーネを罵ってしまいます。ウンディーネは水に帰り、残されたフルトブラントは寂しさに耐え切れず、ベルダルダと結婚することにします。婚礼の日、水を避け続けたにもかかわらず、水柱の中からウンディーネが現れ、騎士は彼女をかき抱き、口づけし息絶えます。

ウンディーネは「あの人を涙で殺しました」と告げ、去ります。

*参照、引用 ウンディーネ M・フーケー 新書館


ドイツの深く暗い森と、ドナウ川の緑の流れはそういうお話を生んだとしても不思議ではありません。
バカな浮気男と、能力のある女。それを社会的に発揮しないで、取り殺す女…を描いたお話としてみれば日本ではお岩さんか安鎮清姫?でも、ドイツのそれはなんて美しいのでしょう。力を持つ女は化けものか妖精という時代のお話です。男と女と見るとこの曲の表現を現代に演奏する時は引っかかってしまう人もいるかもしれません。これは人間のもっている原初の力と、システム化した合理主義とのせめぎあいと考えた方がよいのかもしれません。