Maria Callas Diary

着物・ドール・お料理・お家・家族など、日々のことを日記として書いています。

別誂え訪問着、刺繍&仕立て前の反物が届きました / 工房紹介

2012-08-06 23:58:20 | 着物
春から別誂え(フルオーダー)をお願いしている黄色の袷訪問着ですが、
友禅の後、金彩の工程が終わったということで、刺繍の作業に入る前に、
一度手元で色などを確認させて頂くため、反物をお送り頂きました

届いた反物は...
くるくると広げた瞬間、思わず「わぁっ、すごく綺麗~」と叫んでしまった
ほど、感動のため息が出るような、本当に素晴らしい出来ばえでした
心配だった地色も、指定した色どおりのとても綺麗で上品な黄色です。

色数を抑えてはあるものの、全体的に可愛くかなり華やかな仕上がりで、
20代前半から着てもおかしくないけれど、強い色を全く使っていないので、
帯次第で40代でも着られるような、本当に長く楽しめる着物です

こちらの工房は、百貨店に卸すような着物ではなく、もっと専門店向きの、
より高い技術を必要とされる着物を得意とされています。「専門店向き」
という言葉の意味がよく分かる、素晴らしい着物になっていました


裾の柄全体はこんな感じ。
まるで一幅の絵のように、美しい束ね熨斗文様が流れるように描かれて、
周りを牡丹・菊・梅・桔梗・菖蒲・松・藤など四季の花が彩っています。
画像の上方に窓があるので、着物の上半分は少し白めに写っていますが、
裾の方の色が実物の地色に近いと思います。



上前と、後ろ身頃のアップです。
工房からお送り頂いた写真では少し暗く写っていましたが、実物を見たら、
「地味かも...」と心配していたのはまったくの杞憂で、オレンジ系の赤を
効かせた、とても優しく綺麗な色使いでした。写真で色を正確に出すのは
難しいのですが、この写真よりももう少しオレンジ味のある色使いです


こちらは左肩&左袖の前部分。
肩から袖にかけても大きな束ね熨斗が描かれ、金彩もたくさん使われて、
とっても豪華な印象になっています。熨斗の1本ごとに違う種類の金彩が
施されていて、近くで見ないとわからない部分までこだわり抜いています。
ここに繋がる左衿部分は、延びた熨斗の先端と、梅が描かれていました。


こちらは右袖&右肩の後ろ部分。
後ろだからと言って柄を少なくしたりせずに、前にも負けないほどの量です。
たくさんの種類のお花を描いていても、色数を抑えているのでとても上品
(この写真の地色が一番実物に近いかもしれません)


右袖、左袖の、それぞれメインにはならない側です。
既成の廉価版の着物などは、この部分は無地にする場合が多いのですが、
うるさくならない程度に柄を入れてくださり、ここにもしっかりと金彩を施して、
手のかかった着物に仕上げてくださいました

この後は刺繍を施してから、ようやく仕立てとガード加工に取り掛かります。
今の段階でもこんなに豪華なのに、さらに刺繍が入ると思うとワクワク~

春から準備を進めてきたこの着物、9月初旬には仕立てあがりそうです


この訪問着の製作を請け負ってくださった「公庄工房」さんについては、
以前のブログで掲載していますので、そのままの転載でご紹介します

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昨年から私が訪問着の別誂えをお願いしているのは、こちらの工房です。
今までは許可を頂いていなかったので名前を掲載していませんでしたが、
先日京都に行ってお話をして許可を頂いたので、ご紹介させて頂きます

「公庄工房(ぐじょうこうぼう)」さん
http://www.yuuzen.jp/

今までの職人悉皆仲間問屋前売り問屋小売店顧客という、
驚くほどに多くの中間業者を通して行われてきた古い慣習的流通を見直し、
職人顧客というダイレクトな流通にする事により、中間マージンを抑え、
着物をより身近なものにするとともに、職人さんの生活も支えていくという、
まったく新しい手法を取り入れられた工房です

過去数十年、欧米文化や洋服が入ってきたという背景はあったものの、
着物の値段が上がっていったことも一因となり、民族衣装にも関わらず、
自分で着物を着られる人がほんの一握りとなるほどの着物離れが起き、
それにより仕事を失った職人さん達は、次々と廃業に追い込まれました

そんな中で問屋さんが打った手は、安価な「プリント着物」の量産でした。
最近の安い着物の多くは、インクジェットプリントで作られているのです。

これによりなんとか残っていた職人さん達も更に仕事がなくなってしまい、
このままでは後継者も育たず、数十年後には数えるほどになるでしょう。
そんな状況に異を唱え、新しい風を吹き込もうと頑張っていらっしゃいます

私は百貨店での別誂え経験もありますが、それと比べてもかなり質の高い、
そしてセンスも良い、素晴らしい着物を作っていただけます

気になる事にはとことん答えて下さいますし、密にコミュニケーションを取り、
アドバイスもして下さり、安心して製作をお任せする事ができる工房です。
業界内でも質が高いとされる染匠さんの仕事を任されている職人さんで、
その腕は確かです

何でもそうですが、モノは業者を通せば通すほどマージンで値段が上がり、
最終的に顧客に渡るときには数倍の値段になることもしばしばあります

流通を変える事で、顧客は質の良いものをコストを抑えて買うことができ、
職人さんは「プリント着物」に奪われてしまった仕事を取り戻すことができ、
着物業界は大切な伝統技術を継承し守っていくことができます。

昨年秋に作った流水花筏文の単衣の訪問着も、こちらでお願いしたもの。
現在私が別誂えをお願いしてる訪問着も、百貨店を通せば150万以上の
値段になるものだとおっしゃっていました。

私のような庶民が数百万単位の着物をちょくちょく作ることはできませんが
こちらの工房でお願いできるくらいの予算であれば、毎年でも可能です。
(そこは夫の理解があるので、ありがたいと思っています。ありがとう

きちんと予算に合わせて、その範囲内で最大限の努力をしてくださいます。
百貨店では最初に伝えた予算から十万以上あがることもしばしばですが、
こちらではそんなことはありません。

それでも洋服と比べると数十万という価格は大きく感じるかもしれませんが、
着物は洋服と違い数十年単位で着られますし、子供に譲ることも出来ます。
私は着物が大好きなので、「プリント着物」は苦手ですし(持っていますが)、
私の子供の世代まで、手描きの着物が残っていって欲しいと願っています

私は公庄工房さんの考えに全面的に共感し、その新しく素晴らしい活動を、
今後も着物をお願いする事で、出来る限り応援していきたいと思っています。
小紋以外は、今後こちらに一任するつもりでいます。

店頭に置いてある在庫の中から選ぶことが普通になっている現代ですが、
昔は多くの着物が別誂えでした。好きな柄を好きな色で好きな生地に。
そんな楽しい着物が出来上がったら、本当に大切に出来るものです。

もし別誂えに興味はあるけれども躊躇しているという方がいらっしゃったら、
是非一度、お問い合わせだけでもしてみてください。
きっと誠実にお答え頂けます