最大140億ドルのつなぎ融資法案が事実上廃案になることで、アメリカのビッグ3の命運が尽きかけております。
GMのワゴナー会長は、今回の経営危機は金融恐慌のためだとしておりますが、これは間違いでしょう。それは、これまで数年間に亘り、債務はふくらみ続け、GMに至っては430億ドルにも達していたことからも言えます。この債務超過状態が各社の格付の低下を招き、社債すら発行できなくなった末に、政府支援を求めざるを得なくなっただけと言えます。
では、なぜ債務は膨らみ続けたのか、理由ははっきりとしております。売れるクルマを作れなくなったためです。
例えばフォードのベストセラーのピックアップトラックFシリーズは、今年10月までの累計生産台数は、昨年の3分の2の49万3千台です。
稼ぎ頭のベストセラー車がこれでは会社が苦しくなるのは当たり前です。しかし、これまでビッグ3は、こうしたピックアップトラックやSUVそしてミニバンといったクルマに経営を大きく依存してきました。共通プラットフォームで倍以上の値段を付けて売れるという、非常においしいビジネスだったからです。(日経ビジネスオンライン、ビッグスリーが儲けてきた理由参照。)
しかし、プラットフォームの共通化・集約化なら日本車でも欧州車でも採用している戦略です。ビッグ3が異なるのは、共通プラットフォームの設計を、いわば大味なクルマ作りをしても、それなりにトラック野郎に対してはかつては人気があった、これらピックアップトラック、SUV、そしてミニバンにしか展開できなかったという点にあります。
「かつては人気があった」と過去形にしたのは理由があります。それは2年ほど前の、まだガソリンがうんと安い時でも、映画のアカデミー賞の受賞会場に、名だたる俳優がプリウスで乗り付けたということに象徴的に現れております。
つまり、アメリカ人と言えども、クルマに対する好みが、かつてのトラック野郎の時代から大きく変化していたのです。
しかし、ビッグ3はこれらの大味なクルマ作りによる旨いビジネスにすっかり依存した、ある種の麻薬中毒患者になっておりました。今更、日本車を上回る上質で繊細なクルマを作りたくても、それを実現する技術力が元来ありませんでした。
それは何故なのかを今日は少し紐解いてみたいと思います。
「日本のもの造り哲学」(藤本隆宏著)という本が2004年6月に発売されております。その中で著者は、世の製品をアーキテクチャ(設計思想)によって次の3つのパターンに分けております。
1.クローズド・インテグラル型(閉鎖型摺り合わせ製品)
2.クローズド・モジュラー型(閉鎖型標準製品)
3.オープン・モジュラー型(開放型標準製品)
自動車やオートバイ、軽薄短小の小型家電、ゲームソフトなどが1に該当します。2に該当するのはメインフレーム、工作機械、レゴなどです。3に該当するのがパソコン、自転車、インターネット製品、そしてある種の新金融商品です。
これらの例で、3つのアーキテクチャの違いがお分かりになった方は多いことでしょう。
アメリカは、どちらかというと3のオープン・モジュラー型の製品に強みを発揮するようです。
例えばHPやデルが市場を支配しているパソコンは、コモディティ製品と呼ばれておりますが、汎用CPUが載ったマザーボードと、MSのOS、シャーシーケース、キーボード、そしてディスプレイ等を市場から集めてくれば、誰でも造れます。
クルマなどはその逆で、構成部品はほとんどがクルマのサイズや設計に合わせての特注品です。外観デザインは差別化の大きなポイントです。そして、シャーシー(上述のプラットフォーム)と各部品、そして組み込まれた特殊な制御ソフトウェアなどと、運転性能、ドライビングフィールとのマッチング(摺り合わせ)技術が、そのクルマが売れるのかどうかを大きく左右します。
こうした、いわば細部に神を宿らせるような摺り合わせ製品は、いわゆる「統合型もの造り」と言われているものです。これを成功させるための条件は、
1.摺り合わせを忍耐強く行い、根気よく良いものに仕上げていく技術の錬磨と、止まることのない改善システムの構築。
2.自動車メーカー内の各部門はいうまでもなく、外注企業との間のシームレス連携。
3.世の中の変化、お客さんの変化を的確に捉え、それを自社の競争力の向上につなげていく心構えと実践力。
この3つに尽きます。
ビッグ3は、クルマ生産という分野に不可欠のこうした基本動作が、かつても今もほとんど出来ていなかったのです。
唯一、トラック野郎がまだまだ多かった時代に彼らに提供したピックアップトラック、SUV、そしてミニバンといった、現代の恐竜になりかかっているセグメントにだけ、しかもアメリカという風土においてのみ、優位性を発揮できていたに過ぎません。しかし、上の1、2項が弱い上に、最も難易度が高い3項の「心構えと実践力」がなかったものですから、このセグメントの縮小に対して、何らの対策をこれまでに取ってこれなかったのです。トヨタですら、この3項には今回タンドラで失敗しております。
従って今回、議会がつなぎ融資を承認するにあたり、しつこくビック3の経営陣に迫ったという、「それでどうやって競争力あるクルマをこれから出せるのか?」という素朴な疑問に対して、経営陣は説得力ある説明を展開できなかったに相違ありません。
こうしたことを考える時、これ以上ビッグ3を延命させることは、元来、無駄なことであると言うことが出来ます。
この意味では、1929年の世界恐慌時に、やはり当時の自動車メーカーが窮地に陥ったことが、その後の経済の悪化に心理的にも追い打ちをかけたとされておりますが、当時と今とでは、アメリカにおける自動車産業の社会におけるかけがえのなさは、大きく異なっていることに留意しておく必要がありそうです。
意外と、粛々と破綻処理をしても、アメリカ社会は以前ほどの動揺をみせないのかも知れません。
ビッグ3の救済に対する否定的な評価が、一般アメリカ人の6割にも達していたことからも、それは言えそうですね。
GMのワゴナー会長は、今回の経営危機は金融恐慌のためだとしておりますが、これは間違いでしょう。それは、これまで数年間に亘り、債務はふくらみ続け、GMに至っては430億ドルにも達していたことからも言えます。この債務超過状態が各社の格付の低下を招き、社債すら発行できなくなった末に、政府支援を求めざるを得なくなっただけと言えます。
では、なぜ債務は膨らみ続けたのか、理由ははっきりとしております。売れるクルマを作れなくなったためです。
例えばフォードのベストセラーのピックアップトラックFシリーズは、今年10月までの累計生産台数は、昨年の3分の2の49万3千台です。
稼ぎ頭のベストセラー車がこれでは会社が苦しくなるのは当たり前です。しかし、これまでビッグ3は、こうしたピックアップトラックやSUVそしてミニバンといったクルマに経営を大きく依存してきました。共通プラットフォームで倍以上の値段を付けて売れるという、非常においしいビジネスだったからです。(日経ビジネスオンライン、ビッグスリーが儲けてきた理由参照。)
しかし、プラットフォームの共通化・集約化なら日本車でも欧州車でも採用している戦略です。ビッグ3が異なるのは、共通プラットフォームの設計を、いわば大味なクルマ作りをしても、それなりにトラック野郎に対してはかつては人気があった、これらピックアップトラック、SUV、そしてミニバンにしか展開できなかったという点にあります。
「かつては人気があった」と過去形にしたのは理由があります。それは2年ほど前の、まだガソリンがうんと安い時でも、映画のアカデミー賞の受賞会場に、名だたる俳優がプリウスで乗り付けたということに象徴的に現れております。
つまり、アメリカ人と言えども、クルマに対する好みが、かつてのトラック野郎の時代から大きく変化していたのです。
しかし、ビッグ3はこれらの大味なクルマ作りによる旨いビジネスにすっかり依存した、ある種の麻薬中毒患者になっておりました。今更、日本車を上回る上質で繊細なクルマを作りたくても、それを実現する技術力が元来ありませんでした。
それは何故なのかを今日は少し紐解いてみたいと思います。
「日本のもの造り哲学」(藤本隆宏著)という本が2004年6月に発売されております。その中で著者は、世の製品をアーキテクチャ(設計思想)によって次の3つのパターンに分けております。
1.クローズド・インテグラル型(閉鎖型摺り合わせ製品)
2.クローズド・モジュラー型(閉鎖型標準製品)
3.オープン・モジュラー型(開放型標準製品)
自動車やオートバイ、軽薄短小の小型家電、ゲームソフトなどが1に該当します。2に該当するのはメインフレーム、工作機械、レゴなどです。3に該当するのがパソコン、自転車、インターネット製品、そしてある種の新金融商品です。
これらの例で、3つのアーキテクチャの違いがお分かりになった方は多いことでしょう。
アメリカは、どちらかというと3のオープン・モジュラー型の製品に強みを発揮するようです。
例えばHPやデルが市場を支配しているパソコンは、コモディティ製品と呼ばれておりますが、汎用CPUが載ったマザーボードと、MSのOS、シャーシーケース、キーボード、そしてディスプレイ等を市場から集めてくれば、誰でも造れます。
クルマなどはその逆で、構成部品はほとんどがクルマのサイズや設計に合わせての特注品です。外観デザインは差別化の大きなポイントです。そして、シャーシー(上述のプラットフォーム)と各部品、そして組み込まれた特殊な制御ソフトウェアなどと、運転性能、ドライビングフィールとのマッチング(摺り合わせ)技術が、そのクルマが売れるのかどうかを大きく左右します。
こうした、いわば細部に神を宿らせるような摺り合わせ製品は、いわゆる「統合型もの造り」と言われているものです。これを成功させるための条件は、
1.摺り合わせを忍耐強く行い、根気よく良いものに仕上げていく技術の錬磨と、止まることのない改善システムの構築。
2.自動車メーカー内の各部門はいうまでもなく、外注企業との間のシームレス連携。
3.世の中の変化、お客さんの変化を的確に捉え、それを自社の競争力の向上につなげていく心構えと実践力。
この3つに尽きます。
ビッグ3は、クルマ生産という分野に不可欠のこうした基本動作が、かつても今もほとんど出来ていなかったのです。
唯一、トラック野郎がまだまだ多かった時代に彼らに提供したピックアップトラック、SUV、そしてミニバンといった、現代の恐竜になりかかっているセグメントにだけ、しかもアメリカという風土においてのみ、優位性を発揮できていたに過ぎません。しかし、上の1、2項が弱い上に、最も難易度が高い3項の「心構えと実践力」がなかったものですから、このセグメントの縮小に対して、何らの対策をこれまでに取ってこれなかったのです。トヨタですら、この3項には今回タンドラで失敗しております。
従って今回、議会がつなぎ融資を承認するにあたり、しつこくビック3の経営陣に迫ったという、「それでどうやって競争力あるクルマをこれから出せるのか?」という素朴な疑問に対して、経営陣は説得力ある説明を展開できなかったに相違ありません。
こうしたことを考える時、これ以上ビッグ3を延命させることは、元来、無駄なことであると言うことが出来ます。
この意味では、1929年の世界恐慌時に、やはり当時の自動車メーカーが窮地に陥ったことが、その後の経済の悪化に心理的にも追い打ちをかけたとされておりますが、当時と今とでは、アメリカにおける自動車産業の社会におけるかけがえのなさは、大きく異なっていることに留意しておく必要がありそうです。
意外と、粛々と破綻処理をしても、アメリカ社会は以前ほどの動揺をみせないのかも知れません。
ビッグ3の救済に対する否定的な評価が、一般アメリカ人の6割にも達していたことからも、それは言えそうですね。