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桜井哲夫『フーコー 知の教科書』

2009-05-25 18:12:00 | ノンジャンル
 三好春樹さんが「関係障害論」の中で分かりやすいと推薦していた桜井哲夫さんの「フーコー 知と権力」をもっと分かりやすく書いたという、同じ著書の'01年作品「フーコー 知の教科書」を読みました。
 先ず、フーコーの生涯について語られ、次いでキーワードの解説。時代のあらゆる発言行為を集め、そこからその時代に生きていた人々の行動を規制していたもの(規律)を探すという「考古学」、その規律(ディシプリン)によって軍隊、学校、病院、工場などに秩序が生まれ、そこから臨床医学、精神医学などが生じたということ、規律を守らせる一方的な視線(=監視)の究極の形としての「パノプティコン」(一望監視施設)などについて語られます。次は様々なテーマで。サルトルとの確執、同性愛者としての遍歴(バルトも同性愛者でフーコーと付き合っていたことを初めて知りました)、花輪和一のマンガ「刑務所の中」による刑務所の実態の検証(刑務所の搾取はひどく、3年の懲役での報酬は何とたった6万円なのだとか!)、フーコーがアメリカのゲイ社会に共感した話などについて語られます。そして各著作に関する説明。「狂気の歴史」では、狂人という概念が、労働を行なわない者を隔離するために17世紀に発生したこと、「臨床医学の誕生」では、医学的なまなざしがいかにして人々の身体を支配する概念を作り上げたか、「言葉と物」では、人間科学もまた近代になって生まれ変遷してきたこと、「監視と処罰―監獄の誕生」では、かつては君主権力の正当性から刑罰は残酷を極めたが、18世紀以降は社会秩序を守らせるために精神的な刑罰になっていったこと、そして何が正常で何が異常かを決定する権力が裁判官だけでなく、教師、医師、行政委員にいたるまで行き渡っていることが重要だということ、「知への意思(性の歴史1)」では、この3世紀ほど性について語られ、そして抑圧されてきた時代はないということなどが述べられます。そして最後のまとめとして、規律に抵抗する手段としてのダンディズム(異端をかこる姿勢)などが語られます。
 例が分かりやすく、最後まで抵抗なく読めました。今生きている世界が抑圧的であり、そこからはじきとばされた登校拒否児、引きこもり、精神障害者、自殺者などはあくまで相対的に生じてしまった人たちであり、正常、異常といった物差は絶対的なものではないと分かるだけでも、読む価値はあると思います。分かりやすい哲学書、新たな人生の指針を求めている方にはオススメです。

ヴィカス・スワラップ『ぼくと1ルピーの神様』

2009-05-24 14:50:00 | ノンジャンル
 朝日新聞の特集記事「2008年 感動と発見の一冊」の中で推薦されていた、ヴィカス・スワラップさんの「ぼくと1ルピーの神様」を読みました。今年のアカデミー賞を独占した「スラムドッグ&ミリオネア」の原作です。
 18才のウェイターである僕はクイズ番組で史上最高額の賞金を獲得しましたが、不正をしたとして警察に逮捕されます。番組のプロデューサーと懇意な警視総監の命令で僕は拷問にかけられ、無理矢理調書に署名させられそうになるところを、女性弁護士に助けられ、僕はなぜ12問の問題に答えられたかを説明します。二人の人気映画俳優が初めて共演した映画を知っていたのは、親友が男優の方のファンだったが、その男に映画館で痴漢されたから。2問目は番組を盛り上げるために司会者に教えてもらったから。太陽系で一番小さな惑星がプルート(冥王星)と知っていたのは、隣の部屋のアル中の男が娘の飼っていたプルートという名前の猫を殺したから。盲目の詩人についての質問は、以前預けられていたところで盲目の乞食になるためにその詩人の詩を教えられていたから。外交用語「ペルソナ・イン・グラータ」の意味を知っていたのは、以前雇われていた大佐がこの処置を受けていたから。パプアニューギニアの首都を知っていたのは、バーテンをやっていた時に客がハイチの首都の話をしていたから。リボルバーの発明者を知っていたのは、列車強盗を拳銃で殺したことがあったから。インドの軍隊で最も栄誉ある勲章を知っていたのは、同じアパートの住人にそれを授勲させてあげようとしたことがあったから。有名なクリケット選手の成績を知っていたのは、以前の雇い主がクリケット賭博をしていたから。ある女優が最優秀女優賞をもらった年を知っていたのは、以前にその女優に雇われていたことがあったから。そしてシェークスピアについての問題は、息子を助けてあげた英語教師へのテレフォンでクリア、その後に出された問題は正解しますが、司会者に騙されて別の問題に変えられ、休憩中に脅されると僕は逆に司会者が以前に僕が思いを寄せる女性を虐待したことから復讐するつもりであると言い返し、結局改めて出された問題にフィフティ・フィフティを使った上でコインの裏表で正解します。この話を聞いた女弁護士の活躍によって僕は無事に賞金を獲得し、司会者は自殺し、思いを寄せていた女性と結婚し、知り合いの名誉も回復されるのでした。
 よくできた物語ですが、嫌な話が延々と続き、文体もねちっこいので、途中で読むのを諦め、飛ばし読みしました。映画ではどのように処理されていたのか見てないので分かりませんが、あまり期待できないと思いました。インドの悲惨な階級社会の話を読みたい方にはオススメです。

ルキノ・ヴィスコンティ監督『白夜』

2009-05-23 18:31:00 | ノンジャンル
 WOWOWで、代々木体育館で行われたパフュームのコンサートを見ました。中に肉声で歌う曲がいくつかあったのですが、それだとひと昔前のアイドルグループでしかなく、まったくパフュームの魅力が失われていました。やはりあの独特のフリと共に、ボイスチェンジャーを通した歌声が彼女らの魅力の本質なのだと再認識しました。

 さて、スカパーの260チャンネル「シネフィル★イマジカ」で、ルキノ・ヴィスコンティ監督の'57年作品「白夜」を見ました。
 マリオ(マルチェロ・マストロヤンニ)は帰宅途中、路上で泣くナタリア(マリア・シェル)に出会い、家まで送って翌日会う約束をします。翌日マリオを見かけたナタリアは逃げ、マリオはそのことに怒りますが、ナタリアは謝って自分の身の上話を始めます。彼女は下宿人の男(ジャン・マレー)に惹かれ、彼に祖母とオペラに連れて行ってもらった夜に恋に落ちますが、彼はどうしても済ませなければならない用事のために1年間留守をすると言って翌日に発ち、1年後に同じ場所で会おうと言ったのだと話します。そして既にこの町に戻ってきていて、手紙を書いたというので、マリオはその手紙を届けるために預かりますが、ナタリアと別れた後に破って捨ててしまいます。「第一幕終了」、「第ニ幕」の字幕。マリオはナタリアを夜の町で見かけますが、手紙を捨てたことを後ろめたく思い、隠れます。それをナタリアに見つかり、マリオはごまかして彼女をダンスホールに誘いますが、男との待ち合わせの時間になると、彼女は血相を変えて帰っていきます。マリオはケンカに巻き込まれて川の水で顔を冷やしていると、ナタリアが現れ、男が現れなかったことを報告しますが、マリオは手紙を捨てたことを告白し、まだ望みがあると言います。しかしナタリアはもう男のことを忘れると言い、マリオは愛を告白し、ボートに乗って語らっていると雪が降ってきます。そして帰路についた時、男が現れ、ナタリアは男のもとに走っていってしまいます。マリオは彼女との幸せな思い出を糧にこれから生きて行くと言って、一人帰っていくのでした。
 イタリアの町を再現したセットが素晴らしく、カメラが振れるだけで時制が変わるシーンにも瞠目しました。それにしても、マリア・シェルはかわいい顔をしているのに、なぜ薄幸のイメージから逃れられないのでしょう? 不思議です。イタリア映画が好きな方にはオススメです。

谷崎潤一郎『細雪』下巻

2009-05-22 18:25:00 | ノンジャンル
 谷崎潤一郎が'47年に発表した「細雪」下巻を読みました。
 雪子の見合いを兼ねて蛍狩のために、鶴子の夫の姉に誘われて、名古屋まで三姉妹と悦子が行きますが、見合い相手に断られて嫌な思いをし、そこから東京へ行った雪子は以前の見合い相手に出会い、これまた気まずい思いをします。そんな時、奥畑の母が死に、奥畑が店のものの無断の持ち出しを理由に兄から勘当され、妙子はそれに同情してまた付き合いを再開します。母の23回忌で神戸に行った鶴子は、東京に帰ってから貞之助にそれを知らされ、妙子を勘当にするか東京へ寄越すかするようにという夫の意向を幸子に伝え、結局妙子は芦屋の家を出てアパートで暮らすことになります。幸子の知り合いの紹介で、井谷の立ち合いのもと雪子の見合いが行なわれ、貞之助が相手の家を突然訪ねるなど、双方ともに乗り気になりますが、相手からの突然の電話に雪子が対応できずに相手を怒らせ、結局破談になります。そんな折り、奥畑の家を訪問中に、妙子が赤痢で倒れ、幸子らは病院に引き取りますが、そのことから、妙子は芦屋の家を出てから奥畑の家にほとんど寄生していたことが分かり、無理に家を出したのがいけなかったと思った貞之助は妙子の芦屋の家への出入りの禁を解きます。幸子夫婦は久しぶりに水入らずの旅で奈良に行きますが、南京虫の被害に会い、富士五湖へ行き直します。旅から帰ると、奥畑に満州行きの話が出ていて、妙子はこれを機に縁を切ろうと言い出したので、幸子は説教します。やがて井谷がアメリカに渡ることになり、東京での送別会へ三姉妹に来てもらえる機会に定職を持たない公家の男性を雪子に紹介することになり、この縁談はまとまりますが、妙子がバーテンの子供を妊娠していることも分かり、妙子は女中をつけられて有馬温泉に身を隠すことになります。そして雪子の結婚式が迫る中、妙子は難産の末に死産し、その後はバーテンと所帯を持つことになるのでした。
 妙子の死産、そして最後のシーンでは東京での結婚式に向かう雪子の下痢が止まらないという記述で終わるなど、悲惨なラストを迎えました。2回に及ぶ見合いでも、田舎を馬鹿にし、また容貌に必要以上にこだわるなど、ブルジョワの見栄が横溢していて、読んでいて楽しいものではありませんでした。それでも幸子夫婦のやりとりや、姉妹同志での会話などは生き生きとしていて、捨てがたいものでした。長い小説でしたが、明るい終わり方だった上巻が一番オススメです。

谷崎潤一郎『細雪』中巻

2009-05-21 14:24:00 | ノンジャンル
 谷崎潤一郎が'47年に発表した「細雪」中巻を読みました。
 妙子は奥畑の生活力に疑問を持ち、人形作りを止めて洋裁を本格的に習い始める一方、舞の師匠に教えに来てもらい踊りの会に参加します。そんな折り、大雨で山津波が起き、妙子は寸でのところを写真家の板倉に助けられます。隣人の家族の一部がドイツに帰るのを横浜で見送るために、幸子と悦子が上京し、鶴子の家で台風に会って恐怖を味わい、旅館に移ったところへ奥畑から妙子と板倉の仲を疑う手紙が届き、幸子らは芦屋に帰ります。隣人の残りの家族がドイツに帰った後、妙子が洋裁を習うためにフランスに行きたいという話に本家が反対したのをきっかけに、妙子が奥畑に愛想尽かしをして板倉と結婚約束をしていることを幸子は知り、妙子にそれを断念することを説得してもらうため、舞の会を口実に雪子を芦屋に呼びます。妙子の人形作りの弟子だったロシア人の旅立ちを幸子たちは見送り、その帰りに馴染みの鮨屋で楽しい時間を過ごします。恒例の京都への花見の後、悦子が猩紅熱を発症し、その看病のために雪子の帰京が遅れます。そしてその病気が峠を超えた頃、妙子は本家が預かる自分の財産を取り戻すために、幸子とともに上京しますが、板倉が耳の手術の後具合が悪くなったとの報があり、妙子はすぐに病院に駆けつけます。その後、幸子は鶴子から板倉と妙子との噂が雪子の縁談に影響している事実を知らされますが、ほどなく板倉は壊疽で片足を切断されたあげくに亡くなってしまうのでした。
 ここでは板倉の酷い死だけでなく、舞の師匠も亡くなり、また山津波でも多くの死者が出たことに言及されます。加えて、階級、身分といった問題が前面に出ていて、板倉と妙子との関係では「丁稚上がり」という差別的な言辞も飛び出し、上巻でのほんわかした感じとは違って、何かえげつなさを感じさせるような文章も見られます。執筆が戦時中であったことも影響しているのかもしれません。ただ、そうした中でも次々に起こる出来事が飽きさせず、先へ先へと読ませる力を持っている文章でもあります。下巻に期待です。