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乙一『失はれる物語』

2007-06-30 18:48:19 | ノンジャンル
 吾妻ひでお氏が推薦する乙一氏の「失はれる物語」を読みました。8編の短編からなる短編集です。
 第一話「Calling You」は、高校生で友達のいない私は、頭の中の携帯電話で他人と話せるようになりますが、そこで知り合った人の死に立ち会い、過去の自分と話し始めるという話。
 第二話「失はれる物語」は、交通事故で右腕の触覚以外の感覚を全て失った私に、元音楽教師だった妻は、腕に文字を書いて私に情報を提供し、私の右腕をピアノにみなして演奏をしてくれます。私は唯一動く右手の人さし指を動かさないことによって、自殺を演出し、妻を自分から解放してあげる、という話。
 第三話「傷」は、父の虐待を受け、母に捨てられて暴力的になったオレは、特殊学級に入れられます。母に父を殺され、自分も殺されかけたアサトも入ってきますが、彼は人の傷を自分の体に移動させる能力を持っていました。アサトはいろんな人からもらったケガを、入院して意識のないオレのオヤジの体に移して行きますが、オヤジが死ぬと、彼の体には傷一つありませんでした。アヤトは自分の体に傷を残したままだったのです。親しかったお姉さんの顔のひどい火傷痕も引き取り、病院でありとあらゆる人の傷を引き受けるアサトは死ぬ覚悟なのをオレは知ります。オレが止めるのも聞かず、交通事故で血まみれになっている少年の傷を引き受けたアサトはその場に崩れ落ちますが、アサトは命を取り留めます。いつも優しく他人のことばかり考えているアサトは神様がこの汚れた世界に作った救いなんだ、とオレは言い、希望を持ってこれからは生きて行こうとオレは思う、という話。
 第四話「手を握る泥棒の物語」は、自分がデザインした時計を売り出す資金を得るために、映画撮影の見物に来ていた伯母の宝石と現金を盗もうと、壁に穴を開けますが、部屋を間違え、映画のヒロインの手をつかんでしまい、自分が売り出そうとしていた時計を残して逃げます。後日、ヒロインがしていた映画の中でしていた時計が話題になり、自分の時計が売れ始め、同僚と行った彼女の握手会で握手した瞬間、俺があの時の泥棒だと見破られる、という話。
 第五話「しあわせは子猫のかたち」は、世界を暗いものと考えるぼくは、引っ越した家で、前の住人で殺された女性に世話してもらったり、いたずらされたりして、彼女の愛猫と過ごし、彼女から世界を明るく見ることを教えられる、という話。
 第六話「ボクの賢いパンツ」は、物知りでしゃべるパンツとボクとの友情と別れの話。
 第七話「マリアの指」は、姉の友人で美人のマリアが列車に飛び下りて自殺し、死体は数多くの肉片と化します。その夜マリアがかわいがっていた猫がマリアの指をくわえて来ます。ホルマリン漬けにして保存しますが、その際指に青い塗料が付いていたことから、高校の友人がマリアに弄ばれて自殺する一方でマリアが結婚することが許せない姉がマリアを殺したことが分かる、という話。
 「あとがきにかえて-書き下ろし小説 ウソカノ」は、彼女がいるとウソをついていた二人が、架空の彼女に励まされ、新たな人生を歩んで行く、という話です。
 屈折した話、暗い話が多い中で、一番良かったのは、第三話の「傷」です。アサトの優しさ、先が見えない展開、そして「他人の傷を引き受ける」という着想、ハッピーエンドと、他の話と比べてずば抜けて素晴らしいと思いました。近々この本は映画化されるそうですが、第何話が映画化されるのでしょう? 文庫本の帯を見た限りでは、第一話は少なくとも映画化されるようです。第三話は、映画化はちょっと無理っぽいですね。
ということで、ぜひ第三話だけでも読んでほしい、と思った短編集でした。

笹公人『念力家族』

2007-06-29 17:12:40 | ノンジャンル
 吾妻ひでお氏が推薦し、「トンデモ本の世界T」でも紹介されていた、短歌集です。ただ、普通の短歌集と違うのは、超能力を持つ家族と超能力者が通う学校について書かれた短歌であふれている点です。
 例えば、「落ちてくる黒板消しを宙に止め3年C組念力先生」とか、「わが校の守り神なり百葉箱の中の初代校長ミイラ」とか、こういう短歌が一ページに一つずつ書かれているそうです。
 私が特に気に入ったのは「注射針曲がりてとまどう医者を見る念力少女の笑顔まぶしく」というのと「やりすぎのダイエットにてOLが即身仏になりゆく夕べ」というものです。
 笹公人氏は、こうした笑える短歌ばかり書いている人ではなく、まともな(?)短歌の方でも数々の賞を受賞されている方で、どちらが余技なのかは分かりませんが、とにかく守備範囲の広い方のようです。短歌の革命を起こしたのは俵万智さんでしたが、笹公人さんも別の意味で短歌の革命を起こしているのではないでしょうか? 笹氏に続く人が続々と現れることを期待しています。

と学会『トンデモ本の世界T』

2007-06-28 16:03:15 | ノンジャンル
 吾妻ひでお氏が「いろいろ参考になった」と話されている、と学会の「トンデモ本の世界T」を読みました。
 本の中で、トンデモ本とは、世の中の常識から外れた故に笑われる本、との定義がされていましたが、実際に取り上げられている本はもっと広い範囲のものです。
 まず、狂信的な本。イスラム原理主義を擁護するウソだらけの本から、日本への無知をさらけだした国粋主義の韓国の本、間違った結論を語るインチキ本、クローン人間を肯定する本、兄弟子が犬だったという仙人入門書、水の結晶の形が人の心によって替わると主張する本、妄想としか思えない世界や予言を語る霊能力者の本、フォトン・ベルトという訳の分からないものに2012年に地球が滅ぼされると警告する本、船井幸雄の確信犯的インチキ本、アンティークカメラを擁護する著者がカメラ業界から命を狙われているという被害申そうに陥った本、などなどです。
 次が、変わった題材を扱った本。自らのオカルト体験を語った佐藤愛子さんの「私の遺言」、オーラが見える著者が書いた「オーラブックQ&A」、新しい暦を提唱する本、ブッシュの失言を集めた本、聖書の中の残酷なエピソードを集めた本、楽しいオカルト本、終戦直後のブラジルで日本の敗戦を信じなかった人々の話、などです。
 そして、面白い本。塩むすびへの思いを語るアントニオ猪木の「闘魂レシピ」、カリフォルニアのカルト集団を解説した本、娘が性的虐待を受けたと親を告訴するアメリカの風潮を述べた本、妖怪の生物学の本、中国の野人に関するノンフィクション、自業自得の死亡事故を集めた本、天文台に電話でされる質問集などです。
 本の紹介以外に、パナウェーブ研究所の解説とか、終戦後の兵士の攻撃性を沈めるのに機能した残酷本の話などもあり、盛り沢山の内容です。
 この本で分かったのは、編集者が金になると思ったら、どんな内容のものでも本になり、本屋に並んでしまう、ということで、これは恐ろしいことだと思いました。
 そして、あとがきにこの本の著者「と学会」の代表の方が面白いことを書いていました。「考えてみるにアメリカという国は、自分たちがかつてネイティブなアメリカ原住民に対して虐殺を行ってきたことがコンプレックスとなって意識下に定着した結果、自分たちもいつか異なる文化圏にいる者たちに襲われ、征服されるという極端なパラノイア幻想にとらわれているのではないか」したがって「危機感が本当にの危機から生まれたものか、それとも妄想によって形づくられたものなのか、きちんと見極める必要がある」(引用者改編)
そうなのかもしれませんね。言われてみると、なるほど、と思いました。
 ということで、いろんな本を紹介した本なのですが、ここで考えさせられるのは、「裸者と裸者」でもそうだったのですが、いかにこうした多様な人々と共存していくか、ということです。排除するのは簡単ですが、そこからは抑圧されたエネルギーがはけ口を求めて残虐な行為に走る可能性を考えなければなりません。「共存」、しばらく世界はこれをキーワードとして進んでいかなければならないでしょう。

瀧本智行監督『犯人に告ぐ』

2007-06-27 15:57:28 | ノンジャンル
 WOWOWで瀧本智行監督の'07年作品「犯人に告ぐ」を見ました。
 2000年、一人息子の誘拐事件の身代金の受け渡しの指揮をとる県警の巻島(豊川悦司)の妻は難産で死にかけていますが、彼は現場を離れることができません。巻島の子どもは無事産まれましたが、妻は危篤状態です。そんな中、誘拐された子どもの死体が、警察への挑発文とともに発見されます。
 6年後、巻島は足柄に左遷させられていましたが、本部長に呼び出され、BADMANを名乗る者による児童連続殺人事件の捜査責任者とスポークスマンを任せられます。彼はテレビで直接犯人に語りかけ、挑発します。その挑発が新たな犯罪を誘発するのではないか、と批判にさらされ、息子もイジメにあいます。巻島はテレビ出演を断られ、本部長からは3日のうちに結果が出なければ足柄に帰れ、と言われます。そして、BADMANが巻島への手紙を落とした場所から住所が限定され、巻島は無理にテレビ出演をお願いし、犯人に最後通牒を突き付けます。ローラー作戦が始まると、息子を誘拐したという電話が巻島に入ります。横浜の埠頭におびき出された巻島は、息子を誘拐したのが、6年前に息子を誘拐され殺された父親だということを知ります。巻島は男に刺されますが、その男をかばい、嘘の情報を警察に述べます。そして、ローラー作戦が功を奏してBADMANは捕まり、巻島を刺した父親は自首するのでした、という話です。
 この映画、ほとんと豊川悦司の魅力によって成り立っている映画です。新宿西口での身代金の受け渡しの部分は結構緊迫感があってよかったりもするのですが、話はありふれた話だし、警察内部の対立も紋切り型だし、子役の演技は最悪だし、いい女は出て来ないし、‥‥あまり誉めるところが見つかりません。少なくとも豊川悦司ファンの方にはオススメです。

金井美恵子『目白雑録』

2007-06-26 15:43:53 | ノンジャンル
 吾妻ひでお氏が「島田雅彦をネチネチいじめるのが笑える」と評した、金井美恵子さんのエッセイ集「目白雑録」の紹介です。
 まず感じたのは、「一つの文が長いなあ」ということでした。昔の蓮實重彦氏の文章を思わせるような、長い長い文章で、最後まで読み切らないとどっちを誉めてるのか分からない、という文が非常に多く、慣れるのに時間がかかりました。
 内容は大きく分けて、「文壇の話」「身近な話題」「その他」です。
 「文壇の話題」では、次々と文章を書くことを生業としている人々が切って捨てられて行きます。平岡篤頼、養老孟司、蓮實重彦、津島祐子、渡部直己、橋本治、大塚英志、島田雅彦、加藤典洋。小森陽一、車谷長吉などなどです。それも相手が立ち直れないようなことをズバズバ言って、ある種爽快、ある種「そこまで言わなくても」と読んでて複雑な気分になります。
 ここで知って得したことは、金井さんの好きな本で、マーク・トウェイン、ヘンリー・ミラー、カフカ、「デイヴィッド・コパフィールド」などを愛読されているそうです。
 そして「身近な話題」に関しては、特に面白い話題もなく、気の強い金井さんの口撃と愚痴におつき合いさせていただいた、といった感じです。
 で、実はこの本で一番の収穫は、金井さんがしてくれたフレデリック・ワイズマンの映画の話で、これは面白く、また私が未見の映画ばかりだったので、それを何回も見ている金井さんがうらやましかったです。そしてロシアの偉大な映画監督アレクセイ・ゲルマンの代表作「戦争のない二十日間」、インドのグル・ダッド監督の「紙の花」にも触れていて、見たい映画が増えました。特にアレクセイ・ゲルマン氏については、以前蓮實重彦氏から教えてもらって以来、ずーとマークしていた監督なので、監督本人が来日までしていたことを知りびっくりしました。DVDでの発売を願おうと思います。
 ということで、歯に衣きせぬ文章を読みたい方には、オススメです。