朝日新聞で紹介されていた、手塚治虫さんの’81~82年作品『七色いんこ』全5巻を読みました。天才的代役・七色いんこが、代役をやりながら観客の中から高価な宝飾品を盗み出すという物語で、1話完結ものです。それぞれの話に実際の劇の名前が使われていて、ストーリーも実際の劇と重なり合うように作られていました。七色いんこを追う若い女性刑事が鳥アレルギーで、鳥と聞いただけで体が小さくなってしまうところとかも、同じく’73~’83年の手塚さんの作品『ブラック・ジャック』のピノ子を思わせ、主人公が並外れた能力の持ち主ということでも似た設定となっているのですが、話の終わりがほっこりとした感じで終わる回が多く、ジャグも豊富で、読んでいてとても幸せな気分になれる作品でした。
なお、第4巻の解説を女優で著作家でもある斉藤由貴さんが書かれているので、一部引用させていただきたいと思います。
「私が手塚さんの作品と初めて出会ったのは、『リボンの騎士』というテレビアニメでした。
そのころ、私は小学生。大好きなサファイア姫にものすごく憧れていて、テレビは毎週欠かさず見ていましたし、マンガの本もずいぶん買いました。
それ以来、とにかくマンガは好きで、高校時代にはマンガ研究会にも入っていました。ただ読んでいたのは、もっぱら少女漫画ばかり。(中略)
少年マンガにはあまり興味のなかった私でしたが、そのなかで例外的に読んでいたのが、手塚さんの作品でした。
この『七色いんこ』はわりと最近になって知った作品ですが、主人公の七色いんこは、私にとって、ある種、羨望のまなざしで見てしまうキャラクターです。
というのも、彼、七色いんこは名だたる名優が挑戦し、いろんな逸話まである有名な戯曲に次々に出演して、しかも、その度ごとに世紀の名優だと絶賛されるからです。
私自身が俳優として活動しているからかもしれませんが、正直、とてもうらやましく感じました。だって、そうじゃないですか。俳優なら一度はやってみたいと思うような名作に次次と挑戦できるなんて、普通ではめったにありえないことなんですから。
天才役者の七色いんこ。でも、彼はそれだけの存在ではありません。見事な演技で観客を感動させつつも、裏では泥棒もしてしまうんです。
けれど、それこそが、手塚さんの作品の特徴かもしれません。人を純粋に感動させる芝居をしながら、犯罪行為である泥棒もしちゃう。そんな“背中合わせみたいな感じ”が、手塚さんの作品には欠かせない要素になっているような気がします。
手塚さんの描くキャラクターはみんな独特です。それぞれ必要な役割をきちんと担って登場し、人物関係の在り方やキャラクターの置き方さえも絶妙で緻密。ものすごく完成された構成力みたいなものを読んでいて感じます。(中略)
そして、驚くべきことは、それらが今の時代にあっても、全然古くないことです。
例えば、お金持ちの御曹司でハンサムという男の人がいる。実は、その男、裏では別の顔を持っていて……なんて、そんな設定の仕方っていうのは、すごく古いような気がするんですけど、でも、手塚さんが描くと、なぜか心に残る。なぜかいつまでもいつ見ても新鮮さのあるキャラクターになっているんです。
それはストーリーにしても同じことがいえると思います。
なんでなんでしょう。
それもこれも、手塚治虫という人のすごさに、私が飲み込まれているのかな?
手塚治虫が描いたものなんだから間違いはない、みたいな目で見ちゃう部分っていうのが、もしかしてあるんじゃないかな?
そんなふうに考えもしました。でも、そうじゃないんです。
この『七色いんこ』にしても、ほんおちょっと演劇をかじったからって描けるものじゃないと思います。医学のことも歴史のことも雑学にも詳しい。手塚さんはお医者さんでもいらっしゃったから、医学のことは別と考えても、その知識量に敬服しました。よくまぁ、本当にたくさんのことを知っていらっしゃるなぁと。
そんな膨大な知識に裏打ちされて語られる話は、絵空事のようでただの絵空事ではないドラマとして存在できる。だから、今でもこうして古さを感じることなく読めるのだと思います。だけど、それだけじゃない。
やはりなによりも素晴らしいのは、この作品にも描かれていますが、『究極的に一番大切なものは、博愛的な広い人間愛なんだよ』っていう手塚さんのメッセージが、話の根底に一本、力強く流れているからじゃないかなって思います。
作品自体が面白いということだけでなく、私は、手塚さんの人徳とかそういうもので好かれ、慕われて、ずっと指示され続けているんじゃないかという気がしてなりません。(後略)」
今まで私の中での手塚作品ナンバーワンは『アドルフに告ぐ』か『火の鳥』だと思っていましたが、これからは『七色いんこ』と言おうと思いました。
→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)
P.S 昔、東京都江東区にあった進学塾「早友」の東陽町教室で私と同僚だった伊藤さんと黒山さん、連絡をください。首を長くして福長さんと待っています。(m-goto@ceres.dti.ne.jp)
なお、第4巻の解説を女優で著作家でもある斉藤由貴さんが書かれているので、一部引用させていただきたいと思います。
「私が手塚さんの作品と初めて出会ったのは、『リボンの騎士』というテレビアニメでした。
そのころ、私は小学生。大好きなサファイア姫にものすごく憧れていて、テレビは毎週欠かさず見ていましたし、マンガの本もずいぶん買いました。
それ以来、とにかくマンガは好きで、高校時代にはマンガ研究会にも入っていました。ただ読んでいたのは、もっぱら少女漫画ばかり。(中略)
少年マンガにはあまり興味のなかった私でしたが、そのなかで例外的に読んでいたのが、手塚さんの作品でした。
この『七色いんこ』はわりと最近になって知った作品ですが、主人公の七色いんこは、私にとって、ある種、羨望のまなざしで見てしまうキャラクターです。
というのも、彼、七色いんこは名だたる名優が挑戦し、いろんな逸話まである有名な戯曲に次々に出演して、しかも、その度ごとに世紀の名優だと絶賛されるからです。
私自身が俳優として活動しているからかもしれませんが、正直、とてもうらやましく感じました。だって、そうじゃないですか。俳優なら一度はやってみたいと思うような名作に次次と挑戦できるなんて、普通ではめったにありえないことなんですから。
天才役者の七色いんこ。でも、彼はそれだけの存在ではありません。見事な演技で観客を感動させつつも、裏では泥棒もしてしまうんです。
けれど、それこそが、手塚さんの作品の特徴かもしれません。人を純粋に感動させる芝居をしながら、犯罪行為である泥棒もしちゃう。そんな“背中合わせみたいな感じ”が、手塚さんの作品には欠かせない要素になっているような気がします。
手塚さんの描くキャラクターはみんな独特です。それぞれ必要な役割をきちんと担って登場し、人物関係の在り方やキャラクターの置き方さえも絶妙で緻密。ものすごく完成された構成力みたいなものを読んでいて感じます。(中略)
そして、驚くべきことは、それらが今の時代にあっても、全然古くないことです。
例えば、お金持ちの御曹司でハンサムという男の人がいる。実は、その男、裏では別の顔を持っていて……なんて、そんな設定の仕方っていうのは、すごく古いような気がするんですけど、でも、手塚さんが描くと、なぜか心に残る。なぜかいつまでもいつ見ても新鮮さのあるキャラクターになっているんです。
それはストーリーにしても同じことがいえると思います。
なんでなんでしょう。
それもこれも、手塚治虫という人のすごさに、私が飲み込まれているのかな?
手塚治虫が描いたものなんだから間違いはない、みたいな目で見ちゃう部分っていうのが、もしかしてあるんじゃないかな?
そんなふうに考えもしました。でも、そうじゃないんです。
この『七色いんこ』にしても、ほんおちょっと演劇をかじったからって描けるものじゃないと思います。医学のことも歴史のことも雑学にも詳しい。手塚さんはお医者さんでもいらっしゃったから、医学のことは別と考えても、その知識量に敬服しました。よくまぁ、本当にたくさんのことを知っていらっしゃるなぁと。
そんな膨大な知識に裏打ちされて語られる話は、絵空事のようでただの絵空事ではないドラマとして存在できる。だから、今でもこうして古さを感じることなく読めるのだと思います。だけど、それだけじゃない。
やはりなによりも素晴らしいのは、この作品にも描かれていますが、『究極的に一番大切なものは、博愛的な広い人間愛なんだよ』っていう手塚さんのメッセージが、話の根底に一本、力強く流れているからじゃないかなって思います。
作品自体が面白いということだけでなく、私は、手塚さんの人徳とかそういうもので好かれ、慕われて、ずっと指示され続けているんじゃないかという気がしてなりません。(後略)」
今まで私の中での手塚作品ナンバーワンは『アドルフに告ぐ』か『火の鳥』だと思っていましたが、これからは『七色いんこ』と言おうと思いました。
→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)
P.S 昔、東京都江東区にあった進学塾「早友」の東陽町教室で私と同僚だった伊藤さんと黒山さん、連絡をください。首を長くして福長さんと待っています。(m-goto@ceres.dti.ne.jp)