恒例となった、水曜日の東京新聞に掲載されている、斎藤美奈子さんのコラム「本音のコラム」の第12弾。
まず、3月8日に掲載された「マイホーム幻想」と題されたコラム。
「先週最終回が放映された『お母さん、娘をやめていいですか?』(NHK)と、今週最終回を迎える『就活家族』(テレビ朝日系)はよく似た設定のドラマだった。
夫婦は五十代。子どもは成人しているが親と同居。家族はみな問題を抱えており、特に夫はリストラの瀬戸際にある。にもかかわらず、二つの家族は新居を建設(購入)するのである。
近代文学と住まいの関係を読み解いた秀逸な文学論、西川祐子『借家と持ち家の文学史』(1998年)の中にドキッとする指摘がある。日本の近現代文学には『家を建てたら幸せになると思ったのに不幸ばかり起こりました』という物語がすごく多いのだそうだ。
一例が小島信夫『抱擁家族』(65年)で、ここでは妻の不貞で崩れかけた家族を立て直そうと夫が新居の建設に没入するが、家は結局ムダになる。ドラマと同じ!
戦後の住宅政策は『持ち家こそが幸せの証し』というマイホーム幻想を育て、高度経済成長はその夢を実現させた。21世紀の現代でも、新居幻想は生きているのだろうか。子どもを家に引きとめたい? 子どもに家を引き渡したい?
あるいは、もうこんな形でしかホームドラマは成立しないのかも。老後を控えた50代での新居建設(購入)はリスキーに思えますけどね。どうせ近い将来、空き家になるのに。」
また、3月15日に掲載された「豊洲と豊中」と題されたコラム。
「東の豊洲」と「西の豊中」ってなんだか似てない? 多くの人が感じていることだろう。
豊洲は東京都が破格の高額で買い上げた築地市場の移転予定地。豊中は国が不当な安値で払い下げた森友学園の小学校建設予定地だった土地。
疑惑がらみの土地売買である点も、背後に政治家の関与がちらつく点も似ているが、さらなる共通点は土壌汚染や地下のゴミなど、問題の多い土地だった点である。
片や卸売市場、片や小学校ですからね。通常以上にクリーンであるべきなのに、なぜこんなダーティーな土地が選定されたか理解に苦しむ。
豊洲の場合は、銀座に近くて利用価値の高い築地を有効活用するため、市場を移転させたかった都と、洗浄が必要な工場跡地が高値で売れるならラッキーと考えた東京ガスの思惑が一致した?
豊中の場合は、学校用地を早く安く取得したい学園と、使い道のない国有地を手放したい国の思惑が一致した? ここは伊丹空港の元騒音対策対象地で、過去にはゴミの投棄が絶えない池沼だったという説もある。
いずれにしても『訳あり物件』だからこそ生じた政官民の不正疑惑。そこで鮮魚を扱う業者や学校生活を送る児童のことはまるで考慮されていない。もしかしてこれは氷山の一角ではないのか。二カ所であったことが三カ所であっても不思議ではない。」
また、3月22日に掲載された、「首相夫人の行動」と題されたコラム。
「安倍昭惠氏は二つの行動指針を持っている。
『ちゃんと自分の目で見なさい』と『寄付をするときは、必ずしかるべき人に直接、手渡さなければならない』だ。
彼女はこれを聖心女子学院の先輩で、かねて親交のある曾野綾子(そのあやこ)氏に教わった。以来〈現地に行ってみて(略)そのなかで直接的に『取り組みたい』と思ったことを、次の活動につなげる〉形で行動しているという。
昭惠氏の著書『「私」を生きる』(海竜社・20154年11月刊)に出てくる話だ。自分の目で見て納得した活動を彼女は積極的に支援していること、支援には(手渡しの)寄付も含まれることが類推できる。
著書では昭惠氏が発足に関わり、自ら名誉会長を務める『鈴蘭(すずらん)会』の活動も紹介されている。
06年、ある全寮制の私塾で『大学』の素読をする少年たちに感動した昭惠氏は〈主人の提唱する『美しい国づくり』に参画するものである〉ことから〈その場で『協力したい』と申し出ました〉。どうです、この決断力。ちなみに鈴蘭会は四書五経の素読を広める会で、後に森友学園の幼稚園も同会の教材を使っていると報道された。
首相は関与を全否定したが、昭惠氏は昭惠氏の判断で動いているのだ。教育勅語を唱和する園児に感動し、志を同じくする学園への協力と寄付を申し出ても、不思議ではない。」
今回も鋭い指摘に胸がスカッとする思いでした。
まず、3月8日に掲載された「マイホーム幻想」と題されたコラム。
「先週最終回が放映された『お母さん、娘をやめていいですか?』(NHK)と、今週最終回を迎える『就活家族』(テレビ朝日系)はよく似た設定のドラマだった。
夫婦は五十代。子どもは成人しているが親と同居。家族はみな問題を抱えており、特に夫はリストラの瀬戸際にある。にもかかわらず、二つの家族は新居を建設(購入)するのである。
近代文学と住まいの関係を読み解いた秀逸な文学論、西川祐子『借家と持ち家の文学史』(1998年)の中にドキッとする指摘がある。日本の近現代文学には『家を建てたら幸せになると思ったのに不幸ばかり起こりました』という物語がすごく多いのだそうだ。
一例が小島信夫『抱擁家族』(65年)で、ここでは妻の不貞で崩れかけた家族を立て直そうと夫が新居の建設に没入するが、家は結局ムダになる。ドラマと同じ!
戦後の住宅政策は『持ち家こそが幸せの証し』というマイホーム幻想を育て、高度経済成長はその夢を実現させた。21世紀の現代でも、新居幻想は生きているのだろうか。子どもを家に引きとめたい? 子どもに家を引き渡したい?
あるいは、もうこんな形でしかホームドラマは成立しないのかも。老後を控えた50代での新居建設(購入)はリスキーに思えますけどね。どうせ近い将来、空き家になるのに。」
また、3月15日に掲載された「豊洲と豊中」と題されたコラム。
「東の豊洲」と「西の豊中」ってなんだか似てない? 多くの人が感じていることだろう。
豊洲は東京都が破格の高額で買い上げた築地市場の移転予定地。豊中は国が不当な安値で払い下げた森友学園の小学校建設予定地だった土地。
疑惑がらみの土地売買である点も、背後に政治家の関与がちらつく点も似ているが、さらなる共通点は土壌汚染や地下のゴミなど、問題の多い土地だった点である。
片や卸売市場、片や小学校ですからね。通常以上にクリーンであるべきなのに、なぜこんなダーティーな土地が選定されたか理解に苦しむ。
豊洲の場合は、銀座に近くて利用価値の高い築地を有効活用するため、市場を移転させたかった都と、洗浄が必要な工場跡地が高値で売れるならラッキーと考えた東京ガスの思惑が一致した?
豊中の場合は、学校用地を早く安く取得したい学園と、使い道のない国有地を手放したい国の思惑が一致した? ここは伊丹空港の元騒音対策対象地で、過去にはゴミの投棄が絶えない池沼だったという説もある。
いずれにしても『訳あり物件』だからこそ生じた政官民の不正疑惑。そこで鮮魚を扱う業者や学校生活を送る児童のことはまるで考慮されていない。もしかしてこれは氷山の一角ではないのか。二カ所であったことが三カ所であっても不思議ではない。」
また、3月22日に掲載された、「首相夫人の行動」と題されたコラム。
「安倍昭惠氏は二つの行動指針を持っている。
『ちゃんと自分の目で見なさい』と『寄付をするときは、必ずしかるべき人に直接、手渡さなければならない』だ。
彼女はこれを聖心女子学院の先輩で、かねて親交のある曾野綾子(そのあやこ)氏に教わった。以来〈現地に行ってみて(略)そのなかで直接的に『取り組みたい』と思ったことを、次の活動につなげる〉形で行動しているという。
昭惠氏の著書『「私」を生きる』(海竜社・20154年11月刊)に出てくる話だ。自分の目で見て納得した活動を彼女は積極的に支援していること、支援には(手渡しの)寄付も含まれることが類推できる。
著書では昭惠氏が発足に関わり、自ら名誉会長を務める『鈴蘭(すずらん)会』の活動も紹介されている。
06年、ある全寮制の私塾で『大学』の素読をする少年たちに感動した昭惠氏は〈主人の提唱する『美しい国づくり』に参画するものである〉ことから〈その場で『協力したい』と申し出ました〉。どうです、この決断力。ちなみに鈴蘭会は四書五経の素読を広める会で、後に森友学園の幼稚園も同会の教材を使っていると報道された。
首相は関与を全否定したが、昭惠氏は昭惠氏の判断で動いているのだ。教育勅語を唱和する園児に感動し、志を同じくする学園への協力と寄付を申し出ても、不思議ではない。」
今回も鋭い指摘に胸がスカッとする思いでした。