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高橋秀実『トラウマの国』

2008-09-30 21:40:35 | ノンジャンル
 高野秀行さんがエンタメ・ノンフ界の横綱と呼ぶ、高橋秀実さんの'05年作品「トラウマの国」を読みました。「からくり民主主義」と同じく、様々なトピックスについて現地取材、調査をしています。
 今回取り上げられているテーマは「トラウマ」「夢を失った子供たち」「ゆとり教育」「資格」「話し方学校」「ビジネスマンの英語」「地域通貨」「妻の暴力」「セックスへの欲求不満」「日本共産党」「田舎暮らし」「自分史」の12項目です。どれも世間的に考えられているものと現実は微妙にずれていて、何も苦しんでいないのに自分にトラウマがあるはずだとセラピーレッスンに通う中年女性とか、土曜が休みになってかえって平日の負担が増えたので、できれば土曜日だけでなく日曜日も学校に通いたいと言う小学生だとか、地域通貨を導入したことが全国的に報道されたにもかかわらず、商店街の人が誰一人その通貨のことを知らない町であるとか、英語を公共共通語とした日産の社内会議で、「Sorry」と言って日本語で話したり、英語のイーメールに、念のためとして日本語のイーメールを添付したりしていることとか、無理矢理笑ったり、石焼き芋の売り子になったり、アホ面をしたりしてユーモリストを目指す話し方教室とか、あけすけにセックスで何をしてほしいかを話す妙齢の女性たちとか、刺繍をしたりカラオケをしたりしてばかりすることによって党員を日本一増やした日本共産党の支部とか、のんびりするために田舎に移住したところが、都会にいた時よりも忙しくなったり、精神的に不安定になったりする定年後の人々とか、自分の生涯に手にした書類全てのコピーを取って資料として自分史に添付する人とか、とにかく意表をつかれる事実ばかりで、とても楽しめました。
 もちろん楽しむばかりでなく、「からくり民主主義」のように、この本によって初めて知る事実も多く、そこも面白さの一つでしょう。
 この本の面白さをこのスペースで紹介するのは難しいので、「Favorite Books」の「高橋秀実『はい、泳げません』」のコーナーに詳細をアップしておきました。興味のある方は是非ご覧ください。
 とにかく楽しめます。文句無しにオススメです。

森一生監督『てんやわんや次郎長道中』

2008-09-29 17:13:32 | ノンジャンル
 スカパーの707チャンネル「日本映画専門チャンネル」で、森一生監督の'63年作品「てんやわんや次郎長道中」を見ました。
 次郎長(市川雷蔵)は小金の長兵衛親分を訪ね、自分も長兵衛と名乗り、わらじを脱ぎます。次郎長は百両の賞金のかかったお尋ね者でした。隣の部屋には備州屋という女郎屋に売られようとしている女たちがいました。そこへ坊主姿の石松(藤田まこと)が現れます。代官(名和宏)は備州屋に来て次郎長を捕らえろと言い、木こりの九介の土地で金が出たと聞きます。長兵衛親分は九介に土地を50両で売ってくれと言いますが、他のやくざの親分が100両と言い、九介が売りそうになると、次郎長の偽者が現れ、親分たちを追っ払います。その頃小金に、法印の大五郎(芦屋小雁)と大政(芦屋雁之助)がやってきます。長兵衛親分は女たちを備州屋に連れていくと、備州屋は代官にいい女を選ばせ、生娘のおきん(坪内ミキ子)が選ばれます。おきんは、年貢を納められなかったばかりに水牢で殺された父の仇と、代官にかんざしで突きかかってケガをさせますが、次郎長に助け出され、地元の女親分のお安に匿まれた後、九介に預けられます。備州屋は九介に200両で土地を買うと言いますが断られるので、暴行しようとしますが、現れた法印と大政に止められます。代官がお安に言い寄っていると、次郎長が邪魔します。小金の3人の親分は皆で300両を出し合って土地を売れと九介に迫りますが断られるので、九介を殺し、証文に拇印を押させます。それをおきんが次郎長に知らせに行くと、次郎長を追って来た役人たちに囲まれますが、次郎長一家の者たちが戦います。親分たちが証文を代官に渡しますが、次郎長の偽者が代官を脅して奪います。そこへ次郎長一家が現れて、次郎長は自分が本物だと告げ、役人たちと大立ち回りをします。翌日、おきんと九介の孫娘をお安に預けて、次郎長一家は大勢の子分を従えて旅立つのでした。
 当時の人気者のお笑い芸人(上記以外にも、ミヤコ蝶々、茶川一郎、白木みのるなど)が総出演していて、吉本新喜劇のようなギャグ満載の映画になっています。市川雷蔵も主演にしては出演場面が少なく、お笑い中心の演出がなされていました。石松がどもりなのは、マキノ雅弘監督の森繁久弥の石松の影響でしょう。どうってことないプログラム・ピクチャーですが、結構楽しめました。次郎長ものの好きな方にはオススメです。

豊島ミホ『カウントダウン ノベルズ』

2008-09-28 15:06:00 | ノンジャンル
 豊島ミホさんの最新刊「カウントダウン ノベルズ」を読みました。シングルチャートのベストテンに入っているミュージシャンたちを描いた短編集です。
 「あたしはいい子」は、歌姫と呼ばれる主人公が同じ事務所の後輩にその座を譲らんとしていますが、新曲も1位になってスタッフから祝福を受け、泣いてしまう話。
 「ぜんぶあげる、なんでもあげる」は、貧乏長屋に住んでいた幼馴染みの恋人に、自分の手に入れられるものはすべてあげようと思っている新進アイドルが、先輩の歌姫と呼ばれる人が力ない顔をしていたので、自分もこうなるのかと不安になりますが、恋人と一緒だと元気になれるという話。
 「話があるよ」は、忙しすぎて精神的に不安定になっているバンドのメンバーが一時行方不明になりますが、無事に仕事先に現れる話。
 「楽園が聞こえる」は、忙しすぎて頭の中の音楽が消えてしまったDJが、休養して音楽を取り戻す話。
 「きらめくさだめ」は、アイドルユニットに入っている主人公が他のメンバーに辞めたいと相談され、次のシングルがベスト5に入らなかったら協力すると言い、無事にベスト5に入るという話。
 「きたない涙」は、路上ライブからメジャーデビューした主人公が、自分を取り戻すため、路上ライブをしていた場所に行き、その頃を観客を探すという話。
 「ピクニック」は、娘だけのために書いた子守唄なのに、やはり発表したくてしょうがなくなる自分を責めるが、夫に慰められるという話。
 「永遠でなくもないだろう」は、昔ギターデュオを組んでいた女性に25年ぶりに会うと、その後の主人公の成功を恨んでいたと言われ、自分の気持ちを彼女に歌で届かそうとライブに臨むという話。
 「ラストシングル」は、オーディションからデビューまでを追うラジオ企画でデビューした3人組が、売れなくなって会社から解散に追い込まれる話。
 「絶望ソング第全集」は、いじめのうっぷんを嫌がらせのつもりで歌ったら、これが当たってしまい、メジャーデビューの話も来るが断り続けていた主人公が、他の人の演奏を聞いてメジャーデビューをしようと決意する話。

 それぞれの話の中に、他の話の主人公の名前が出て来たりして、うまくできているなと思いました。どれも面白かったのですが、特に良かったのは「ピクニック」と「永遠に~」でしょうか。「絶望~」のいじめのシーンも身につまされました。豊島さんの小説は昔から色あいが変わりなく、安心して楽しめます。これからもスタンスを変えずにいい小説を書き続けてほしいと思いました。
 なお、「Fovarite Novels」の「豊島ミホ」に詳しいあらすじを掲載しておきましたので、興味のある方はぜひご覧になってください。

マキノ雅弘監督『離婚』

2008-09-27 13:37:38 | ノンジャンル
 スカパーの707チャンネル「日本映画専門チャンネル」で、マキノ雅弘監督の'52年作品「離婚」を見ました。
 吹雪の中の山小屋に武田ケンサク(田崎潤)とその従妹で白百合女学院の理事長の息子の嫁である相馬ミチコ、それに佐久間ダイスケ(佐分利信)がいます。眠って体が冷えていくミチコをどうすればいいかケンサクがダイスケに聞くと、裸になって抱いてやるしかないと言われ、ケンサクはその言葉に従います。ミチコたちは助かりますが、ケンサクがミチコを裸で抱いた話が相馬家に伝わり、ミチコは責められ、ケンサクとミチコと一緒に男がいた証拠を求められ、ミチコはその男を探すために家を出て、ケンサクの住む下宿屋にやっかいになります。ミチコが家を出たことがマスコミに騒がれたので、相馬家は無条件でミチコに帰ってくれと言いますが、相変わらず自分が疑われているのでミチコは断ると、相馬家は不貞を理由に離婚手続きを始めます。ミチコは偶然にダイスケに出会い、ダイスケは相馬家を批判しますが、山小屋で一緒にいたことは証言してくれません。ケンスケの元に相馬家に密告した女性が来ていたので、ミチコは下宿屋を出て兄(江川宇礼雄)のところへ行きます。するとケンサクからの手紙で、今回の一件の前から、学園に融資してもらうために相馬家はミチコを離婚し、密告した女性を嫁に迎えるつもりだったことを知ります。兄は知り合いのダイスケにミチコを託そうと、ミチコをダイスケの牧場に行かせますが、ダイスケは山へ行っていました。ミチコもその後を追い、山小屋でまた一緒になり、ダイスケはミチコの兄からの手紙を読み、二人は将来を誓いあうのでした。
 陳腐な脚本であり、ダイスケが山彦で「ダイスケだ」とか「山よ」とか叫ぶのはかなり見ていて恥ずかしいものでした。性的なモラルも今から見ると古めかしいもので、映画が古びてしまっているのは如何ともしがたいものがあります。しかし、ちょっとした女性の仕種などにマキノ節が感じられ、やはり作家主義は生きていると思いました。斉藤達雄や江川宇礼雄といった小津映画の常連が出ているのも見どころでしょう。マキノファンに見て損はない映画だと思います。

高橋秀実『はい、泳げません』

2008-09-26 18:17:10 | ノンジャンル
 高橋秀行さんが推薦する高橋秀実さんの'05年作品「はい、泳げません」を読みました。
 著者は子供の頃からプールが怖くて仕方がなく、泳げるようになって人生が変わったという友人の勧めで、スイミングスクールに通うことになります。コーチは「水をかくな、水を押さえろ」「浮こうとするな。浮いてくるのを待て、死体と同じように」などとむちゃなことを言います。息継ぎの方法を教えてくれないので質問すると「苦しいのを我慢しろ、呼吸しようと考えるな」とまたむちゃなことを言われます。そして著者は段々泳げるようになっていくのですが、何かを習得する度に嬉しくなって立ち、コーチから怒られます。コーチは小さい頃から泳がされてきたので、泳ぐのは嫌いなのだと言います。泳ぐのでいいことは、泳いでる最中に思いっきり泣けることだとも。アドバイスに従って骨盤の位置を変えずに泳ぐと、楽々50m泳げ、コーチに「泳げる人」として認定され、これから人に見せびらかすためにどんどん泳いでほしいと言われるのでした。
 泳げなかった著者が泳げるようになるまでのことを書いて1册の本にしてしまうことがすごいと思いました。内容もとても面白く、特にいろんな理由で著者がすぐに立ってしまうところがつぼに入ってしまい、ついつい笑ってしまいました。文体もこれまで読んだ「素晴らしきラジオ体操」「からくり民主主義」とは違ってユーモラスで、宮田珠己さんの文体と甲乙つけがたい面白さでした。他の本にないこの本の特徴は、1章ごとに高橋さんを実際にコーチした高橋佳さんの一言が添えられていることです。高橋佳コーチのレッスンはとても変わっていて、段階を踏んでバタ足、息継ぎのように習得させるのではなく、泳ぎ全体に対してその日ごとにテーマを決めて教えていくというもので、この本も高橋コーチがいなければ面白さが激減していたと思います。そうした点でも著者は出会いの才能を持っているのでは、と思いました。まだ読んでいない方、文句無しにオススメです。なお、詳細は「Farorite Books」の「高橋秀実『はい、泳げません』」に掲載しておきましたので、是非ご覧ください。