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阪本順治監督『団地』その9

2018-03-03 11:32:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。
 正三「なんだよ。置いてけぼりかよ。どこ行ったんだ?」「え? え? 何これ?」。地面に丸い装置。「君子さーん」「こっから声がした。まさか。ヒナ子さん、いるのー?」「声だけ聞こえまーす」「何よ、急におらんようになって」「私にもよう分からんのです。こっちも遠いとこで」「ほな、もう会われへんの?」「らしいですー」「うーん、顔見て言いたかったのに」「言うてください。今―」「ほな言うよ」「はーい」「ナオヤ君におうたらね」「おうたら?」「ちゃーんと言うんよ」「何をですかー!」「負けへんかったでーって。悔しかったけど、負けへんかったでーって。聞こえた?」「聞こえました。そうナオヤに言いまーす」「ほなー」「ほなー」「旦那に変わるね」「電話と違うんですけどー」「ヒナ子さん、清治君、お元気でー」「そっちも2人、仲ようやってくださいやー」「愛人との手を切ってやらー」「何よりでーす」「人生はサバンナだー」「よく分かりませーん」。真城「まだでしょうか? お別れの儀式」ヒナ子「せかさんといて」「忘れものないかー?」「ありませーん」「ありまーす」「あんた、何を?」「へその緒忘れた」「へその緒忘れましたー」。
 玄関の上に置かれたへその緒の入った木箱。
 「どないしたらいいー?」「どないしたら?」「境界を越えた以上、もう戻れません」「行徳さんに取りに行ってもらうとか」「船はもう木星のそばです」「ええ?」「船が離れるとともに境界は消えます」「ほなナオヤには会えんの?」「時空を戻せば」「戻せば?」「船が私たちを迎えに来た、その日までさかのぼれば、境界は再び」「取りに帰れるんやな。へその緒」君子「何も聞こえないでーす」ヒナ子「お願い。何たらが何たらで何たらして」真城「ハハハハハハ」「何で笑うの?」「怒ってるんです」。
 正三「聞こえないぞ! 帰っていいのかー?」「聞こえますか?」「聞こえたぞー!」「時空とやらを戻しまーす。分かりますか? 時空でーす」「俺の得意な科目は物理だぞー。就職はひな人形の会社だけど。で、いつまで戻るんだー?」「2,3日戻りまーす。すいませーん」正三「りょうかーい」君子「りょうかーい」。正三「今日は久しぶりに休もうと思ったけど、魚が一杯なので、りょうかーい。ん? 答えがないけど。今―でしたかー。いまーでしたかー」「今だな、うん」「今―でしたかー」「また何か言ってる」。行徳夫婦、帰路につく。
 犬が吠えている。ヒナ子「何やろ?」清治「何やろ?」とベランダへ。見上げて「あっ、ヒナ子、ヒナ子」。空を指差す。紙がひらひら降りてくる。「あっ、何かええことありそうやな」「ああ、ごはんにしよう」「うん、スキヤキやったな」。
 食卓の準備をする2人。「お帰りー」「ただいまー」。ナオヤが帰ってきて、映画は終わる。

 個性豊かな登場人物の丁々発止の会話が楽しめ、すぐれた“演出の映画”でした。

阪本順治監督『団地』その8

2018-03-02 13:55:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。
 清治「君も彼に会ったんやな。どこの誰か知らない彼に」キタロー「うん。ここにいる時、声をかけられた」「彼に何を?」「自分たちは歌というものを知らないって」「そうか」「誰も殺したないから俺は遠いところに行く」「遠いとこ?」「ほんまのお父さんに会いに行く」「ほんまの?」「教えてもらった場所があるんや」「ほな、そうやったんか」ヒナ子、現れ「もう帰りはった。最初何を言うとるかさっぱり分からんかったけどなあ。真城さんとしゃべってたら頭痛い」「そやけど嘘は言いへんな、真城さん」「あたしおさらばする。こんな世の中と」「そうか」「あの子に会いたい」「明日からえらいこっちゃ。5000人分」「もうくよくよせんでええな」「そやな」「ええ方に考えよ」「僕もな」「せや、これから井戸端会議にも入れてもろたろうかな」「えー?」「ダジャレの一つも言いたろうかな」「えー?」「あたしのお母さんにも会えるかなあ」「えー?」「今のえー、ちゃうやろ」「お前鋭いな」「あんたはアホや」。笑い合う2人。「で、へその緒がどうやて?」「説明聞いたけど、さっぱり分からん。何たら星雲の何たらという惑星の軌道を回る何たら衛星のそばで、その重力を何たらし、ただ何たらしすぎると、へその緒がペチャンコになるので、何たらしすぎないように注意を払いつつ、その微妙なバランスが何たらしたときにナオヤは必ず何たらという方法を使おて声をかけてくると」「どこがとてつもなく簡単やねん」。笑い合う2人。見上げる2人。フェイドアウト。
 ヒナ子「あたし、憎しみを食べて生きてきたのかもしれません。けど、これからは大丈夫です。もう」君子「ごめんね。裏切り者やなんて。(中略)ここらへんウロコだらけで乳首がないのに、ほんまにビックリした」「男にはいらんようになったそうです。進化しすぎて退化したとか」「はあ、こうやって生きてる方が神秘なんやってねえ。あっちの世界の方が現実なんやってねえ。短い間だったけど、ヒナ子さんと知り合えてよかった」「どんくさいだけの女です」「どんくさいってことは強いってことやん」「強いんですか? わたし」「うん」。笑い合う2人。「ヒナ子さん」「はい」「ナオヤ君に会えるんね」「はい」「あんね」「はい」「あはっ、やめとく」「何で?」「明日言う」「何で?」「別れ際に言う」「何で?」「何でも」「何で?」「眠たい」「はい、寝ましょ」「うん」。
 警官「はい、確かに様子が変なんですけど、あっ、いえいえ、事件性は。ただここの住民大分変ってます。怖い怖い言いながら。はい、はい、了解」。吉住「おう、何や? キタローが? 知らんがな。お前の子やろ。今頃何心配しとんねん。考えすぎや。考えすぎや。俺のせい言うんか? ちゃうやろ?」。
 山下宅へ向かう鞄を持った真城、宅配便の青年、女性を見て、吉住「バラバラやん」「多すぎへん?」。
 「うちのキタロー見へんかった?」「見てないよ」「バッグの中身なんやねん?」キタローの母、鞄に向かい「キタロー、ご免やでえ」吉住「違うがな」清治「これは天に輝く星くずや。手土産に見えるかいな。星くずや」「何やあれ?」。皆、見上げる。巨大なUFO。「あの船が私たちの故郷です。5000人の同郷人が暮らす、私たちの」正三「そんなこと、ありえない。というのがありえるのは団地ってか?」「誰か付いてきたら、うまくしばいてください」「さばいてください」「さあ」。真城ら去る。山下夫婦、行徳夫婦も後を追う。
 3人は林の中へ。
 途中で出会った地元の農家の人に昌三「あっああ、すいません。すいません。私たち、文部科学省の者で、この先に古墳を発見したものですから、関係者以外は入れません。あの許可証をお持ちですか?」「あのこっから出ないでください」と足で地面に線を引く。
 木漏れ日。
 原っぱに囲まれた湖に出る。「こんな林あったん。あっ、キタロー君」「いらっしゃい」「ご免やで。おばちゃん、ずっと何もしてやれなかった。聞いてたのに」「あん時おばちゃんがおれへんやったら、俺、もっと殴られてたから」「もしかして、この子も?」「はい、ここはもう船の中です」。真城、地面に手を触れ「空を」。宇宙船の巨大な天井が現れる。「何で?」「もう地球を離れました」「えー?」宅配便の青年「キタロー君、行こう。トイレが限界」「うん」。
 大気圏外からぐるぐる回る地球の姿。(また明日へ続きます……)

阪本順治監督『団地』その7

2018-03-01 06:16:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。
 正三「強行突入しろよ」警官「噂だけで強行突入なんか」「遺体を運び出すかもしれないんだぞ」「想像で物言われても」「強行がダメなら突入しろよ」「突入したら強行でしょ」「じゃあピザをお届けに来ました、とかいくらでも手があるだろう」「他に責任者はいないんですか?」君子「初めてのことで動揺してるんです。それに心臓にヘルスメーター入ってるんです」吉住「ペースメーカーやろ」。
 薬を鞄に詰める真城らと清治。「これで全部です」「そこ置いといて」。ヒナ子、赤ん坊を抱く女に「抱かせて」「顔みない方がいいです」「お願い」。赤ん坊の顔を見たヒナ子、眼を見開き、倒れる。真城「すみません。鼻だけ大人の大きさのまま生まれてくるものですから。大丈夫ですか?」「形がナオヤにそっくり。あんな鼻してた」。
 警官、ブザーを押す。「そこの交番の者ですが」。コンコンコンコン。「山下さーん」。ヒナ子、ドアを開け「一歩でも入ったら何が起こるか知らんから」君子「白状しなさい。裏切り者」「君子さんまで」「一部始終全部洗いざらい何もかも」「いつか分かってもらいます」「いつかじゃダメなんよ。みーんな、おかしくなりそうなんよ。あたしらに何か恨みがあんの?」「そのお二人さんだけ入ってください。明日、協力者が必要です。ほな行徳さんも」。正三、警官に「ピストル貸して」「アホか」。行徳夫妻、入っていく。
 清治を見て驚く2人。「会えなくて淋しかったです」。真城を見て倒れる君子。正三「君子、しっかりしろ」。清治「不思議な力を持っているんです、彼ら」宅配便「いえ、ただのおまじないです」正三「おまじないはいいから水を飲ませてくれ。水、水」「はい」と女性。
「まじないはいいって」。水をコップに汲み、自分で飲む女性。「君じゃないだろ」真城「妻はここの生活に慣れていませんから」正三「おっ、今プチっと頭がいった」。君子、起き上がり「あー、お花畑がきれいやった」「え?」。
 「清治君、これは新手の詐欺じゃないのか?」「裸になって証拠を見せたでしょ?」「俺はこう見えても科目で一番得意なのは物理だった。就職したのはひな人形の会社だけど、いいじゃないか」「そんなこと、こっちから聞いてませんけど」「物理的にありえない。俺はこう見えても科目で一番得意なのは物理だった。就職したのはひな人形の会社だけど、いいじゃないか」「行徳さん、大丈夫ですか?」「漢方薬詐欺だよ。これは。お前ら知らんだろうけど、な、科目で」「もうよろし。休んで。明日になったら分かりますよって。僕も最初信じられへんだったのですから」。
 “真城の来た、あの日”の字幕。「私たちにはそれができるんです。信じてください」「ナオヤに会えるやなんて。そんなこと、ありえへん」「じゃあ、なぜあなたは漢方薬が効くのか説明できますか? 心臓がなぜ電力もないのに動くのか説明できますか? ただ生存している。その神秘に身を任せれば、何の動揺もないんです。争い事も起きません」「ほな、死んだら、その神秘とやらも、なくなるんですか?」「はい、肉体を持って生きていること。それこそが最大の神秘です」「死んだナオヤより僕らの方が非科学的やと?」「はい、だからナオヤ君は誰かに会いたくても会えない。こっちの世界こそが非現実の世界ですから」「その~すべをあんたらが?」「はい、とてつもなく簡単な」「とてつもなく簡単って?」「へその緒があれば、ナオヤ君の」「へその緒?」「床下の収納にこもっていては、ナオヤ君には会えません」「その収納で不思議なことがあったんや。生薬に囲まれて、その匂いに包まれているとな。体が消えていくような気がしたんや。ほんの一瞬やけど。ナオヤがそばにいるような」「よく行かれるは林の中はどうです?」「その時も、そんな気に」「肉体を意識しない時間は誰にでもあります。自分が歩いていることにさえ気づかない。そんな瞬間が本来の私たちの姿です。つまり生きているのは私たちの肉体ではなく意識です」「あんたらもか?」「はい」。青年、裸の胸を山下夫婦に見せる。「こうやって貧相な皮膚をまとっています。進化しすぎて免疫力が衰えたのに、まだ肉体を捨てきれずにいます。すべては欲のせいです。誰かから何かを奪いたいという」清治「ちょっと頭を整理していいか? 林の中に行ってくる」「もう死んだふり、できへんで」「もうええ」。
 林へ向かう清治。(また明日へ続きます……)