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豊島ミホ『檸檬のころ』

2006-09-30 17:30:05 | ノンジャンル
 昨日と同じく、有隣堂ヨドバシAKIBA店の店員さんの推薦する豊島ミホさんの「檸檬のころ」を読みました。「タンポポのわたげみたいだね」「金子商店の夏」「ルパンとレモン」「ジュリエット・スター」「ラブソング」「担任授業」「雪の降る町、春に散る花」の7つの短編からなっている本です。どれも高校生の生活が題材になっています。
 私が一番面白かったのは「ルパンとレモン」です。中三の時、吹奏楽部の指揮者だった秋元という女の子が、野球部だった主人公の西に「応援の時の自分のテーマ曲は何がいい?」と聞かれ、何でもいい、と答えると、「じゃあ、『ルパン』にするね」と言われ、「何で」と聞くと「だってクールじゃん。」と答えられます。実際に試合の時に流れるルパンの曲はかっこよく、その後も、「受ける学校が西と自分だけだから、一緒に勉強しよう」と秋元に誘われ、一緒に勉強するうちに秋元はレモンの匂いがすることに気付き、やがてそれはリップスティックの匂いだと分かります。二人は無事に高校に合格します。そして高三の夏。秋元とは徐々に疎遠になり、美しくなった秋元は、野球部でサルのような顔の陽気な佐々木とつきあうようになっています。帰りの電車で偶然一緒になった主人公と秋元はお互いに思いのたけを語り合い、秋元は主人公も好きなのだが、佐々木の天真爛漫さにどうしても引かれてしまうと言います。そして別れの記念にリップスティックを秋元は主人公に渡すのでした。
 なんかちょっと切なくて、また秋元と佐々木と主人公の関係がスリリングで読みごたえがありました。
 その他にも「ラブソング」「担任稼業」が良かったと思います。少なくとも昨日紹介した「マルコの夢」よりは、こっちの方が買いだと思いました。皆さんは、どう思われるでしょう?

栗田有起『マルコの夢』

2006-09-29 16:48:40 | ノンジャンル
 有隣堂ヨドバシAKIBA店の店員さんの推薦する栗田有起さんの「マルコの夢」を読みました。
 日本で無職だった主人公は、パリで日本食財の輸入代行の仕事をする姉に、パリに来て手伝ってほしい仕事があると言われ、断りきれずにパリに行きます。頼まれたのは、キノコ料理が売りのレストランのキノコ担当者でした。ある日、レストランのオーナーからマルコという珍しいキノコを見せられ、これの在庫が一ヶ月分しかないので、原産地の日本へ行って一年分買ってきてほしいと言われます。姉からもらった「菌食推進委員会」の電話番号だけを頼りに、マルコを探し続けてますが、なかなか見つかりません。実家に寄ると、母に、別居している父のところに物を届けてくれるよう頼まれます。父の家を尋ねて行くと、何とそこには巨大なキノコが家の中に屋根を貫いて生えているのでした。巨大な幹に湿り気を常に与え、表面を少しずつ剥がして食べるのだそうです。これがマルコの正体でした。そしてマルコの魅力に取り付かれてしまう主人公なのでした。
 文体としては読みやすいと思いました。しかし、話となると、かなり難があると思いました。大体、父の家に探してるキノコがあった、というのが安易すぎます。サブストーリーとして、父に離婚届への判を押してもらう、というのがあるのですが、これもメインのストーリーとうまく溶け込んでいないように思いました。ヒビが入った眼鏡をわざとかけるシェフ、強引な性格の母など変わった人物も出てくるのですが、どうもストーリーの中で空回りしているように思いました。
 推薦者は「栗田作品の魅力は一度はまったら抜けだせないこと。」とのことですが、私ははまらなかったので、しばらくは栗田さんの作品とはお会いできないと思います。はまるか、はまらないか、皆さん、ご自分で試してみませんか?

金城一紀『対話篇』

2006-09-28 16:57:00 | ノンジャンル
 金城一紀さんの「対話篇」を読みました。3篇の短編からなる本です。
 第一話「恋愛小説」は、自分とかかわる人が次々に死んでいく男の話。第二話「永遠の円環」は、ガンの末期症状の青年が、自分の恋人を自殺に見せ掛けて殺した大学教授を知り合いに頼んで殺してもらう話、第三話「花」は、脳に動脈瘤が見つかり、いつ死んでもおかしくないと言われた主人公は会社もやめ、司法試験の勉強を始めますが、ちょうどその時、鹿児島のポスピスで死んだ、別れた妻の遺品をもらいに行く弁護士が東京から鹿児島までの車の旅のドライバーに主人公を雇い、一緒に旅して、最後には妻はその弁護士を死ぬまで愛していたことが分かる、という話です。
 こう書くと味も素っ気もありませんが、様々な物語が含まれていて、一気に読ませます。また、どの話もラストが素晴らしく、「明日も元気に生きよう」というようなメッセージが読めて、とてもいい読後感が得られました。
 金城一紀さんの小説は、どれも私は大好きで、このサイトでも「Favorite Novels」のコーナーに彼を取り上げていますが、他の作品が非常に活動的でさわやかな小説であるのに対し、この短編集は静かな小説が多く、金城さんの作品の中では異色だなと思いました。
 

ポール・オースター『ルル・オン・ザ・ブリッジ』

2006-09-27 18:01:22 | ノンジャンル
 今日の本はポール・オースター氏の「ルル・オン・ザ・ブリッジ」です。これは同氏の監督した同名の映画についての本で、スタッフ・キャストの一覧、シナリオに加えて、脚本・監督を担当したポール・オースター氏、撮影を担当したアリク・サハロフ氏、美術を担当したカリーナ・イヴァノフ女氏、衣装を担当したアデル・ルッツ女氏、編集を担当したティム・スクワイヤーズ氏、プロデューサーのピーター・ニューマン氏、各氏へのインタビューからなっています。
 映画の内容は、次のようなものです。ハーヴェイ・カイテル演じるサックス奏者イジー・マウアーが、演奏中に流れ弾に当たり、肺の半分を切除されてしまいます。サックスの演奏ができなくなったイジーを恋人のシリアが慰め、生きる希望を与えます。シリアは映画の端役に出たりしていましたが、「パンドラの箱」のルルの役を射止めます。イジーはシリアの紹介で働いていたバーで店主とケンカになり、シリアともども首になります。シリアは映画の撮影のためにニューヨークを離れ、イジーは一人残されますが、イジーは殺し屋たちのケンカに巻き込まれ、怪我を負います。シリアの映画の撮影は順調に進みますが、イジーは謎の男に拉致され、尋問されます。イジーと連絡が取れないシリアは不安の中で毎日を過ごします。イジーは監禁場所から何とか脱出し、自分の部屋で目を閉じると、あの銃撃を受けたシーンが蘇ります。救急車の中で、死んでしまうイジー。そしてその救急車とすれ違うシリアは、速度を落とした救急車を見て、人が死んだことを理解し、右手で十字を切ります。画面が暗くなると、クレジットとともにジーン・ケリーが歌う「雨に唄えば」が聞こえてきます。
 映画は見ていないので何とも言えませんが、ちょっと不思議な映画であるようです。ハーヴェイ・カイテルは、ポール・オースターが脚本を提供した「スモーク」と「ブルー・イン・ザ・フェイス」でも主演していて、ポールのお気に入りの俳優です。私は「タクシー・ドライバー」の彼しか知りませんが、味のある俳優さんですよね。「スモーク」は何年か前に日本でも公開されたので、「スモーク」が気に入った方には、この本もオススメです。

宮本輝『五千回の生死』

2006-09-26 17:31:11 | ノンジャンル
 丹波哲郎氏が亡くなりましたが、私にとっての丹波氏は加藤泰監督の'65年作品「明治侠客伝・三代目襲名」での、正義感が強く、堂々としている建設業の社長や、同じ年のマキノ雅弘監督の「日本侠客伝・関東篇」の、親分衆の集まる場で主人公を「えらい!」とあの張った声で誉め、映画の観客の笑いを誘った、突出した存在として心に残っています。御冥福をお祈り申し上げます。

 さて、昨日に引き続き、今日も宮本輝氏の作品「五千回の生死」です。これは短編集で、「トマトの話」「眉墨」「力」「五千回の生死」「アルコール兄弟」「復讐」「バケツの底」「紫頭巾」「昆明・円通寺街」の9編の短編からなっています。
 何となく心に残ったのは最初の「トマトの話」でした。大学生のアルバイトで夜間の道路工事の車の誘導の仕事をやった主人公は、飯場で体調不良で一人で寝ている男から「トマトを買ってきてくれ」と頼まれます。約束通りトマトを買ってきてやるのですが、その男はいっこうに食べる気配がありません。ただひたすらトマトをなでているのです。そしてある夜、この男は血を噴水のように吹いて死んでしまいます。何ごともなかったように、血のついた畳みを洗う工事夫たち。結局、トマトがその男にとって何だったのか、謎のまま話は終わってしまいます。
 私も道路工事の現場で交通誘導の仕事を夜間したことがあるので、当時のことを思い出しました。ちょっとへまをすると工事夫から罵声が飛び、この小説のように殺気立った現場でした。ただ、血を吐いて死ぬ人がいるほど、ひどくはなかったですが‥‥。
 この短編のように、あることが謎のまま終わる短編が他にもあって、これが宮本氏の特徴かな、と思いました。どれもちょっと日常からそれたところに舞台を設定していて、読んでいて迷路に迷い込むような感じがしました。
 そんなちょっと不思議な気持ちを味わいたい方には、オススメの短編集です。