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黒沢清監督『予兆・散歩する侵略者』最終話・その2

2018-06-09 10:46:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。
 車を降りて歩く二人。工場の廃墟の床で転げ回って痛がるタツオ。「タツオ!」と駆け寄るエツコ。「エツコ、痛み止めが切れた。もう一本早く。頼む!」「山際君、それは自業自得なんじゃないかなあ。あんなにうまくやっていた関係を踏みにじったのは君だ」。タツオ、やっと立ち上がりふらつきながら鉄パイプを持ち真壁を襲おうとするが、軽くいなされる。「くそ、あの時殺しておけばよかった」「そうだねえ。痛かったよ。僕は君のスコップで力一杯殴られた」「待って! この人を解放するって約束しましたよね。守ってください。その約束」「エツコ、もういい。これは罰だ。自分じゃ何もできない。俺に下された罰だ」。注射するエツコ。「もう大丈夫。エツコ、ごめん。行けるところまで行きたかったんだけど、ここまでみたいだ」「いいわ。もう十分。いろいろやったじゃない。それでここまで来たんじゃない」。タツオの上半身を抱き起すエツコ。その場を離れる真壁。「それが愛か。分かったよ。山際君。今から君を解放する」。右手同士で握手する二人。つかんだままの真壁。ふりほどくタツオ。「何だ? 感覚がおかしい」「言ったろ? それは心の問題だって。君の心のどこかで僕の力を求めている限り、何も変わらない。山際君。死ぬまできっと僕のガイドなんだね。君たちを見ていて愛とは何か大抵見当がついたよ」。真壁、エツコの腕をつかみ、「俺は今、山際君の中に入っている痛み止めみたいなものだ。本当の痛みを忘れ、一時の嘘のやすらぎに浸ることができる。人類の最大の弱点の一つだろう」。タツオ、エツコをかばう。(中略)「僕は心から君に服従する。その代わりに一つ頼みを聞いてくれるか?」「何だ?」「君は外科医だったよな?」「うん」「じゃ、あそこの斧でせめてこの手を切り落としてくれ」「そんなことしても何も変わらないんだけど」「君ならできるだろう? あれで頼む。出血はなるべく抑えてくれ」。エツコ「そんなこと!」「いいんだ」「分かった。やろう。ガイドの望みなら」。タツオ、エツコに小声で「あそこのレバーを引けば落下する。ネジを緩めておいた。手伝って」。二人、レバーを引くが何も起こらない。上を向く真壁。「あ? 山際君、エツコさん、僕ら宇宙人はこんな仕掛けに引っかかりませんよ」。急にワイヤーが回りだし、真壁は巨大な鉄パイプに押しつぶされる。パイプから突き出た真壁の両足。
 二人、建物の外へ。右手を左手で触るタツオ。「感覚戻ったの?」「うん」「あー、よかった」「運転できそうだ」「いいよ、私がやる」「いや、大丈夫」。
 動き出す巨大パイプの山。真壁現れる。手には斧。
 右手を痛がりだすタツオ。「どうしたの?」「右手がまた」「え?」「くそ、真壁はまだ生きてるんだ。薬くれ。だめだ。耐えられない」。もつれあう二人。拳銃が地面に落ちる。「こんなもの持ってたのか。殺してくれ。それで俺を。すぐ楽になれる。簡単だ。頼む。お願い。お願いって言ってんだろ?」「10分だけ待って!」「そんなに待てない」「辛抱して」。駆け出すエツコ。もがき苦しむタツオ。
 真壁消えている。拳銃を構えながら先へ進むエツコ。撃鉄を起こす。手前に斧と真壁、奥にエツコの画面。エツコの背後から斧を降り降ろす真壁と、寸でのことでそれを交わすエツコ。「エツコさんですか? 危ないから近づかないでください。僕の心の中は今怒りで一杯なんです」「あたしを殺すの?」「まさか。僕が許せないのは山際君ですよ。片腕だけじゃ済まないだろうな。彼はどこです?」。その場を去ろうとする真壁にエツコは3発の銃弾を撃ち込む。「どうしてです?」。真壁が振り返ったとこへまた3発。「そうか」。巨大な月。「心臓が停まった。もうすぐ脳の機能も停止する。そして僕にも死が訪れる。想像するだけで恐ろしい。人類が共存を願う理由はこれだ。やっと分かった。でもその人類も失敗した。死はいつだってすぐ隣にある。これは運命だ。受け入れよう」。倒れる真壁。拳銃を落とし、コツコツと歩き出すエツコ。手前に目を開けたまま横たわる真壁。
 車を背にして座りこんでいるタツオ。歩み寄るタツオの手を両手で包むエツコ。抱き合う二人。上目遣いをする二人。エツコ「聞こえる?」「ああ、聞こえる」「そう、タツオにも」「そろそろ始まるのかなあ」「うん、そろそろ始まる」。涙をこぼすタツオ。すぐに激しい雨が降り出し、二人はずぶ濡れに。エツコの声で「こうして侵略が始まった」と語られ、ドラマは終わる。

 カラー化した戦前のフリッツ・ラング映画の画調を思わせる色づかい、『ターミネーター』を思わせる真壁の全能さ、黒沢監督特有の廃墟で戦い、見どころがたくさんあるドラマシリーズでした。

黒沢清監督『予兆・散歩する侵略者』最終話・その1

2018-06-08 09:53:00 | ノンジャンル
 車椅子に拘束されている真壁に正対して椅子に座るエツコ。「真壁さん、少し変わりましたね」「分かりますか? 僕は死の恐怖を知っている。これで少し人間に近づけたかな?」「そんなに興味があるんですか? 人間に」「はい」「ひょっとして真壁さん、人間が好きになってきたんですか?」「はあ、そうかも」「あなたと交渉してなんとか共存の道を探ってほしい。そう言われました」「エツコさんは人類の代表なんですね」「まさか」「僕に言わせれば人類の代表どころか人類の頂点に立っている」「他の人間とどこが違うんでしょう?」「僕はすっかりあなたに興味を持ってしまいました」「そんなあたしの言うことなら少しは聞いてもらえますか? サンプルにでも何でもなります。だから私の願いを聞いてくれますか?」「どんな?」。エツコ、真壁の近くに椅子を移動させて座り直し、「山際の手の痛みを取ってやってください。彼をガイドから解放してやってください。お願いします」「でもそれは全部山際君の心の問題なんだけどな」「人の心は弱いものです。彼はあなたに支配されていると信じています。そこから逃げ出すにはあなたの力を借りるしかありません」「分かりました。エツコさん、手を」「え?」「右手を」。真壁は右手で握手して「約束します。あなたを通して山際君の手を握りましょう。それで彼は解放されます」。握った手を放さない真壁に「放して!」。西崎「真壁さん、やめなさい」。警察官たち、一斉に銃を構える。「早く! そこから離れて」。真壁やっと手を放す。逃げ出して、真壁と距離を置くエツコ。
 西崎「大丈夫ですか?」。坐りこんだエツコ「はい」「あなたはやはり特別な人間のようだ。人類が滅亡してもあなただけは生き残るかもしれない」「そう言われてもピンときません」「本来なら我々が全力をあげてあなたを守らなきゃならないんですが、残念ですが今はそれができません。それでと言ってはなんですが」。西崎、鞄を棚から取り、チャックを開く。「何ですか?」「いざという時に。申し訳ない。これで自分を守ってください」。拳銃を見て「そんなの無理です」。西崎、装填し「弾は入りました。あとは撃鉄を上げて引き金を引けば撃てます」。
 ニュース「今日、天体科学研究所の発表があり、月の軌道の不規則な乱れは極度の重力異常によるものと分かりました。ただこれほどの重力異常の原因となると、付近に何らかの巨大な物体が存在している以外に考えられないようです」。スピーカー「緊急警報が発令されました。ただちに避難してください」と繰り返される。割れる月。エツコ、悪夢から目覚める。ベランダから外に目をやるタツオ。起きてきたエツコの方を振り返り、「誰もいない。俺より先に街が死んだみたいだ。(中略)だめだよな。きっと。ここから飛び降りても」。駆け寄るエツコ。「大丈夫、やんないから。君がいる」。抱き合う二人。不吉な音楽。「エツコ、逃げよう」「逃げられるの?」「ああ、やってみる」「どこへ?」「どっか遠くへ」。
 あわてて避難する人々。二人は車のキーを見つけると、タツオが運転して車を発車させる。右手を痛がるタツオ。「タツオ、大丈夫?」。車、停車。車から出て転げ回って痛がるタツオ。「だめだ。エツコ。逃げられない。俺はやっぱり真壁に服従するしかないんだ」。注射するエツコ。静かに横たわるタツオ。「ここで待ってて。真壁を連れてくる。(中略)」。急いで車に乗り込み、Uターンするエツコ。
 「エツコさん、待ってました。これ、外してもらえますか?」「他の人は?」「みんな逃げてしまいました。僕が概念を奪える範囲が前よりもずっと広がったんです。(中略)」「山際を解放してください」「分かってます。人間は最後の人類全体のことなんかどうでもよくなって自分自身の目的に向かって動き出す生物なんだ」「いいえ」「面白い。あなた、きっと山際君のためなら平気で人類を裏切りますね」「どうとでも」。拘束をほどかれ、「ううーん」と背伸びして、歩きだしたエツコの後をついていく真壁。
 車中の二人。「エツコさんは何でそこまでして山際君を救おうとするのですか?」「彼のことが好きだから」「好き?」「愛してるんです」「愛かあ。ずっと気になってたんですよ。その言葉。ちょっとイメージしてくれませんか?」「今ここで?」「ええ、もちろんあなたから概念を奪うことはできないんだけど、知りたいんです。それを知らないと、どうにも不完全な気がするんですよ」「あなたのことを愛せということですか?」「僕を愛する必要はありません。ただ何でもいい。どういう方法でもいうから、そう、愛って奴を」「分かりました。もし本当に山際を解放してくれたら、その時はほんの少しだけあなたを好きになるように努力します」「是非お願いします」。(明日へ続きます……)

黒沢清監督『予兆・散歩する侵略者』第四話・その2

2018-06-07 08:54:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。
 エツコ「何してるの?」タツオ「いや、君のためにと思って」「それ何?」「これ痛み止め」「習慣性のあるものじゃないの?」「ああ、でもその分強力だ」「中毒になっちゃうよ」(中略)痛みを抑えるにはこれしか方法がないんだ」(中略)「分かった。でもこれは最後の手段にしよう。それまで私が持ってる」。うなずくタツオ。
 廊下を歩いている二人。「やばい。警察だ。俺は人を殺した」「でも味方かもしれない」「どうする?」「確かめてみる。タツオはここにいて」。エツコ、男に近づく。男(大杉漣)「おっと、そこでストップして下さい。無傷の者を発見したら、まだ何者かが分からない。(中略)」「私は普通の人間です」「ああ、そのようですね。失礼しました」「もう少し近づいてもいいですか?」「ええ、どうぞ。(中略)あなた、ひょっとして山際エツコさん?」「はい」「そうですか。私、厚生労働省の西崎と言います。ちょうど探していたんです、あなたを」「私を?(中略)」「あなたは特別かもしれない。小森先生から、そう報告を受けています」「小森先生が。そうですか。さっきロビーで見かけました」「ええ、ひどい状況ですね。一歩遅かった。それで山際さんはどういう目的でここへ?」「真壁先生に会う用事があって」「外科医の真壁ですか?」「はい」「彼はまだここに?」「いえ、もうここにはいません」「分かるんですね」「はい」「すごい人だな」。どやどやと男たち現れる。西崎「あー、心配いらない。真壁はもうここにはいない。それと、この人が山際エツコさんだ。(エツコに)すいませんが、ご同行願えますか?」「分かりました」。エツコ、男たちと去る。その様子を覗くタツオ。
 騒々しい中、車に乗り込むエツコ。
 右腕を抱えて走るタツオ。「あ!」。大勢の男たちが先を走っていき、去る。1台停まっているパトカーに近づき、無線で話している警官に「僕、ガイドなんです」「あ?」「ガイドです」「ガイドって何の?」「いや」。また無線で話す警官。背中を押して「すいません。人を殺しました」「あ?」「人を、殺しました」。警官、無線に「ちょっと待ってもらえますか」と言い、タツオに「えーと、じゃあね、わるいんだけど、君、名前と住所と電話番号を書いといてくれる? 後で連絡するから」と言い、また無線に「はい、大丈夫です。はい、防衛省? でもまだ米軍が。終わりってことですよね」。
 歩きながらタツオ「いよいよ終わりか、人類」。空を飛ぶ戦闘機二機。
 タツオ帰宅。ベッドに倒れ込む。
 警官たち、ファミレスを包囲。客は皆失神していて、真壁だけ食事をしている。警官たち、一気に入って来て無数の銃口を真壁に向ける。「あー、びっくりした。止めて下さいよ。僕は何もしませんから」。食事を終え、立ち上がり、両手を挙げる真壁。
 椅子に拘束された真壁。遠巻きにしている警官たち。「真壁さん、真壁さんですよね。私、西崎と言います。あっ、日本語分かりますか?」「ええ、もちろん。こんなに大声出さなきゃいけないんですか?」「申し訳ありません。一応安全な距離を持つ必要があるので」「あー、そうですか」「あなたたち、人間の概念を集めていますね」「はい」「差し上げますよ。どうしてもほしいとおっしゃるなら。何かもっと安全な方法が見つかるでしょう。コンピュータあるんだし、でもそれだけなら別に侵略する必要ないんじゃないですか?」「じゃあ、どうすればいいと思いますか?」「僕たちとあなたたちとは大分違う生き物のようだけど、違うからこそ、お互いを認める方がずっと得策だと思いますよ。地球上の生物は皆そうしています」「本当ですか?人類も?」「いや、正直うまくいっていない。私は認めます。でもあなたたちは随分理性的だ。交渉の余地はありませんか?」「何のための交渉ですか?」「共存のためです」「共存って何です?」「奪うつもりですか? 私から共存の概念を」
「いや、この距離じゃ無理ですね」「でしょ? いろいろ学習していますよ。我々も」「すごいじゃないですか」「ええ、そちらにも少しは弱みがありますよね。だとすると、もし全面戦争に勝っても、そちらにも犠牲が出るんじゃないですか?」「まあ、そうですね」「お互いに不幸になることは避ける。これが共存です。分かりますか?」「すいません。分かりません」「おやっ、共存の概念、まだ奪えてないんですか?」「やめよう! 疲れた。(中略)」
 エツコに西崎「やばいやり方かもしれません。でも他に思いつかない。山際さんにこの交渉の話をするのはどだい無茶なことは分かっています。そりゃ分かっていますが、あなたに賭けるしかない」「やってみます」「お願いします」。真壁へ向かうエツコは、近くの椅子に座る。「エツコさん、やっと会えた」。じっと真壁を見詰めるエツコ。(最終話に続きます……)

黒沢清監督『予兆・散歩する侵略者』第四話・その1

2018-06-06 07:49:00 | ノンジャンル
 ビルの屋上。柵を超える真壁。「あっ、高い。あー、怖いなあ」。つたい歩き。「すごいなあ。これが死の恐怖か」。
 眠りこけるタツオ。それを見つめるエツコ。
 出社するエツコ。「あの、笠谷さんは?」「倉庫なんじゃないかな?」。
 倉庫。エツコが忍び足で歩いていくと、笠谷があぐらをかいている。「あっ、笠谷さん」「君か」「何があったんですか?」「ダメだった。私は結局彼女から逃れられない。最後の日まで服従することに決めた。申し訳ない」「笠谷さん、諦めるんですか? 本当にそれでいいんですか? 何か他に方法があるかもしれないじゃないですか」。笠谷、右手を挙げると、向こうに妻が立っている。近づいてくる妻。逃げるエツコ。従業員、妻が通ると、次々と倒れる。追い込まれたエツコ。「いつもお世話になっております。笠谷の妻です」。エツコ、物を投げつける。「あなたが今イメージしているそれは? 何だろ? まず言葉にしてくれる? 頭の中でいいから。そうそう、あ、嫌悪感て奴ね。そう。嫌悪感。それ、いただきますよ」。エツコの額に指先をつけようとするが、止める。「どういうこと?奪えない。あなた一体何者?」。エツコ、笠谷の妻を突き飛ばして逃げる。
 葉子、病院へ。(中略)
 廊下で「第一外科 真壁」のプレートを見て部屋の中に入る。
 葉子「真壁さんですよね」「ええ、何でしょう?」「私、山際エツコの友人で佐伯葉子と言います」「ほう、それで?」「端的に言います。真壁さん、すごい秘密を隠してますよね。私どうしてもそれが知りたいんです。もちろん誰にも言いませんから」「僕の秘密ですか?」「ええ」「言ってもいいけど驚くんじゃないかな」「構いません」「じゃあ言いましょう。我々は地球を侵略しに来ました」「あー、なるほど。ということはあなたたちは」「宇宙人ですね。信じられます?」「ええ、信じます。そうですか。宇宙人。でもまるで人間みたいに見えますね」「あなたの目の前にいるのは真壁というれっきとした人間です。でも今は僕が彼の外見や記憶を借りて、こうやってあなたとしゃべっているんです」「ふーん、それであなたはエツコに興味を持ってますよね」「ええ」「どうしてです? どうして彼女が選ばれたんです?」「それ気になります?」「すごく気になります。エツコは私にはない何か特別なものを持っているんですか? それは何です? そんなものがあるって私エツコから聞いてません」「エツコさんは特別な人間です。だからサンプルとして生かしておくことに決めました」「私じゃダメなんですか? 私をそのサンプルにすることはできないんでしょうか?」「あなたはすごく大胆な方ですね。面白い。じゃあちょっとお話を聞かせてもらおうかな」「何でも話しますよ」「あなたのような人がもっている概念。興味あります」。
 急いで帰宅するエツコ。「タツオ?」。タツオ、横たわって苦しんでいる。「タツオ、どうしたの?」「痛い。耐えられない」。右腕を左手で握っているタツオ。「真壁を裏切ったからだ。俺が心から服従すれば痛みは収まる。でももうヤだ。エツコ、腕の付け根をきつく縛って。頼む」。タオルで縛るエツコ。「もっと、もっときつく。あ、ありがとう」「どうするの?」「(中略)エツコはここにいて」。台所に行くタツオ。「何してんの。止めて!」「大丈夫だ。失血さえ抑えられれば」「変なこと考えないで」「他にどんなこと考えられるんだよ」「あの男を強く拒否するの。心の底から」「そんなことできたら苦労しないんだよ。俺は自分でも嫌になるぐらい弱い人間なんだ」「分かった。真壁さんにその痛み、取ってもらう」「そんなこと無理だ」「ううん、私の願いだったら、きっと聞いてくれる」。
 病院。真壁が通ると、次々に人が倒れていく。
 病院へ向かうエツコとタツオ。
 病院内。倒れている人たちを見てタツオ「これはひどい。小森先生!」。小森は目を開けたまま失神。「あいつら、俺が選んだ人からしか奪わないって約束したのに」「真壁さんの部屋に行ってみよう」「ああ」。
 部屋へ向かう2人。
 ネームプレートを触り、エツコ「もういない」「分かるのか?」うん」。
 扉を開き、部屋に入る。「あいつ、何をする気なんだ?」「次の段階に進んだのかもしれない」「次の段階って? でも痛みは消えた。俺、ガイドから解放されたのかな?」「ほんと?」。微笑み合う二人。「あ、そうだ。エツコ、ちょっとここで待ってて」「え? 何?」「ひとつ用事を思い出した」「私も行く!」「ダメだ。君は待ってて」。扉を閉めるタツオ。残されたエツコは部屋の中を調べていると、目を開けたまま失神している葉子を発見する。葉子! どうして? ごめんね。ちゃんと説明しておけばよかったね」。毛布をかける。(明日へ続きます……)

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黒沢清監督『予兆・散歩する侵略者』第三話・その2

2018-06-05 06:06:00 | ノンジャンル
 昨日の続きです。
 チャイムの音。タツオ、ベッドから玄関へ。「エツコ」。鍵を開ける。真壁が入って来る。「山際君、病気なんだって。どう具合は?」「いや」「大丈夫みたいじゃない」「ああ」「じゃ、出かけよう。次は恐怖だ。恐怖って奴が欲しい。案内してくれよ」。
 エツコ、急いで帰宅。“ちょっと出てくる。すぐ戻るから心配しないで”のメモ。呆然とするエツコ。“葉子、さっきはごめん。私、やっぱり相談相手が欲しい。会社で待ってる”とメールを送信。
 エツコの職場。現れたエツコに上司「ちょっと話していいかな」「はい」「こんな話、うかつにしゃべっても頭がおかしいって思われるだけだけど、でも誰かに伝えなきゃいけない。ひょっとして君なら」「話して下さい」。
 倉庫。上司「浅川君を差し出したのは私だ」「そうですか」「あんなひどいことになるなんて思ってなかった」「笠谷さん、ガイドですよね」「知ってたのか?」「ええ、その手。(中略)私の夫と同じです」「まさか君が?」「いえ、私は普通の人間です」「分かるよ。君にはちゃんとした人間の良さがある。旦那さんの苦しみもきっと理解できるだろう」「はい」「わたしゃね、誰でもいいから近くにいる気にいらない人間として、なぜか浅川君を選んでしまった。別に彼女を嫌いだった訳ではない。ただ彼女は会社で一番若い。だから、つい。私を馬鹿にしてるに違いないって思ったんだろう」「誰が笠谷さんを?」「妻だよ。妻が私をガイドにしている。前から頭が上がらなかった」「ガイドを辞めることはできないんでしょうか?」「分からない。ただわたしゃほとほと嫌になった。妻にはっきり言うつもりだ。こちらの意思を正直に伝えれば、案外簡単にこの悪夢を終わらせることができるかもしれない」「そしたら笠谷さんは?」「自由だ。地球がこの先どうなるか知らないけど、でも少なくとも最後の日まで私は自由でいられる……また明日話そう。君の旦那さんも強い意志さえ持てば、きっと自由になれる」。
 車の中。真壁「早く選んでくれよ」タツオ「待って。今決めるから」「僕は別に誰だって構わないだけど」「ひとつ聞いていいか?」「何?」「侵略っていつ始まるんだ?」「へへへへ、何だよ、それ」「やっぱり気になるじゃないか」「まもなくだよ」「何日後だ?」「さあね、決めるのは僕じゃないし」「じゃ、10年先ってこともありえるんだな」「それ知ってどうする? 何が変わる? たった今僕たちはこういうふうにうまくやれてる。それで充分だろ」。男、車の脇を通り過ぎる。タツオ「見てろ。麻酔剤だ」。タツオ、車から出て男の許に。「あっ、すいません。市役所まで行きたいんですけど、カーナビ壊れちゃって」。男、地図を見る。真壁、そばにやって来る。
 車のトランクを開けると、口と手足をテープで巻かれた男がもがいている。男を車から降ろし、森の中で穴を掘るタツオと真壁。真壁が男の口のテープを剥がすと男「何かの間違いだろ? 人違いだって。僕の財布に免許証が入ってるからさ。それをよく見て」「何を怯えてるんだ?」「え? あんたらにだよ! だから人違いなんだって!」「山際君、掘れた?」「ああ」。2人で男を穴の中へ運ぶ。男「おい、止めろよ! やめて、やめて」「今から君を埋める」「やめて下さい。お願いです。何でもしますから」「ああ、分かった。君は死が怖いんだ。死ぬことに怯えてる。そうだろ?」「これ、何かの冗談か! ハハハハハ」。また口にテープ。真壁「埋めて、早く」。2人で埋め始める。もがく男。「これが死ぬ恐怖か。押さえて。もらった」。男の額に指先を置く真壁。「もういい」「これ、死んだのか?」。タツオ、必死に埋める。
 トランクに座る2人。「そうだ。今日君の奥さんに会ったよ。エツコさん、あの人はすごいなあ。特別な人間だ。サンプルにすることにした」「サンプル?」「何人か生かしておく。前にも言ったろ?」「ああ聞いた」「よかったな。君の奥さんは助かるんだ」。歩き、立ち止まる真壁。その後頭部をスコップで殴るタツオ。真壁は失神。車で去るタツオ。
 自宅のエツコ。タツオ帰宅。「タツオ」。倒れ込むタツオ。「エツコ、終わりだ。俺は人を殺した」「え?」「いつかこうなると思ってた。でも引き返せなかった」「何があったの? 真壁さんと一緒?」「そうだ、真壁。奴はきっと来る。どうしよう」。頭を抱えて怯えるタツオ。「心配はない。あたしが守る」「エツコ」。抱きつくタツオ。エツコ「あの男の好きにはさせない」。(第四話に続きます……)

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