もうなごり雪といってから、3度か4度、雪が降っている。春は気候の変動が激しいというものの、春がためらいがちにやってくる。俳句の季語に「冴え返る」というのがあるが、これはずいぶん暖かくなって、これからはもう春だと思っていると、急に冬のような寒さに見舞われることである。いよいよ畑に行って、少し野菜のための準備をしようか、という思いをくじかれてしまう。
冴え返り冴え返りつつ春なかば 西山 泊雲
畑の地主さんから電話がきた。伐り倒した柿の切り株を取り除いたらしい。雪は降ったが春の作業は始まっている。本棚から「3月の園芸家」を拾い読みしてみる。まだ手足を動かさない園芸家の頭のなか。
防寒のためかぶせてあったそだをとりのけ、植物を直接大気にふれさせ、土を掘りおこし、肥料を入れ、鋤きこみ、耕し、ひっくりかえし、土をほぐしてやわらかにし、レーキでひっかき、平らにし、潅水をし、取り木をし、挿し木をし、剪定をし、植えつけをし、植え替えをやり、支柱をあたえ、スプレーをし、追肥をほどこし、除草をし、枯れた植物のあとに代わりを植え、種をまき、掃除をし・・・・
その作業のあとに、腰を伸ばして少しくつろぐ。3月の園芸家の頭のなかは、エンドレスの作業が続く。新鮮な野菜を収穫する楽しみのために、また長い一年が始まる。