「マイクを2本、貸していただけませんか?」「何にどう使うの?」「ええ、1本は代表の挨拶なのですが、どこで話してもらうかもありますし」「まだ、そんなことを言っているのでしたら、止めた方がいいですよ」。えっ?ここに来て止めた方がいいって、どういうこと?どうしてこの方は相談に乗ってくれないの?皆さんにおいでくださいとお願いして回っているのに、止めることなど出来ない。「止めた方がいい」とは何という無礼な言い方なのか。私はムカッと来た。ぶん殴ってやりたい衝動に駆られた。その気持ちを抑えるためにしばらく黙っていた。「止めた方がいいと言われてもねえー」と繰り返してみた。「催しを止めろと言ってるのではなく、そういう思い付きで言うのは止めろと言ってるんです」ときつい口調で言う。
昨夜はリハーサルで、私はホールの担当者といろいろ詰めるものだと思っていた。すでに1ヵ月半ほど前には進行の台本を渡して、「あなたは照明のプロだから、お任せした方がいいと聞いていますので、よろしくお願いします」と話している。それが「マイクが2本必要」と言い、「当日は反響板を降ろしてください」「照明はどうするのですか」と言ったことが、「そういう思い付きで言う」ことになると理解できなかった。彼にすれば、ホールでオペラを上演するというのに、今頃になって、マイクがどうの、反響板がどうの、照明がどうの、そんな素人のようなことを言うな、ということなのかも知れない。渡した進行台本を見てプロと思ったのかも知れない。けれども、残念ながら私たちは始めてホールを使う。素人には使えないということなのか。
「ですから、前もって進行台本をお渡しして、教えていただこうと思って来ました」「あんなものは何の役にも立ちません」「いや、そうであるなら、あなたの方から“ここはどうするのか”と言ってもらわなければ、私たちにはさっぱり分かりません」「だから、何がどう必要なのか、キチンと言ってください」「マイクは2本要ります」「それから!」‥。どうして、叱られているような状態で話さなくてはならないのか。ここは公共の施設で、私たちは納税者で、話している相手は施設の職員、たとえ派遣会社から来ている専門の方だとしても、市民にサービスする側にいる人である。ホールを借りに来る人はみんながプロではないだろう。いいやむしろ、プロならツー、カーで打ち合わせは出来てしまう。よく分かっていない一般市民の、わけの分からないことの相談に、彼のような専門の方が知恵を貸してくれてこそ、催し物を成功させる力強い存在となるはずだ。
腹を立てて喧嘩しても私たちの5周年記念事業は成功しない。最悪の状態にならないためには彼に頼るしかない。結局、舞台の照明についてはオペラの原作者に彼と話してもらい、自前で用意してもらうことになった。その他の手配については、私の「生涯の同志」が彼と話して決めてもらった。私は日頃はそんなに腹を立てる方ではないけれど、こういう彼のようなタイプの人とはうまく付き合えないので、接触を避けることにした。けれども、感情が昂ぶって、なにやら闘志がわいてきた。ああ、うつ状態にある、などと言っていた気持ちが吹っ飛び、絶対に大和塾5周年記念・第23回市民講座「ひとりオペラ 異聞道成寺縁起」を成功させるぞと、熱い思いがこみ上げてきた。そして恐ろしいことに、成功した暁には‥とますます興奮して眠れなかった。