外に出たら、日差しが強く暖かだった。車に乗ったら、車内はまるで夏のように暑かった。家の中に居た時はまるで冬のように寒かった。「寒い」のはどうしてなのだろう。そう思って体温を測ってみると、やはり35.8度しかない。身体を動かすことがないと、自然に体温は下がるようだ。それならと、役所に提出する書類を持って出かけた。せっかく出てきたのだからと、孫娘がアルバイトをしているスーパーに立ち寄ってみた。
孫娘はここのタコ焼き屋で働いている。初めてのアルバイトだ。ガラス張りの向こうで、せっせと手を動かして、タコ焼きを作っている姿が見える。見る限りではなかなか手際よく働いているようだ。昨日まで、春スキーに行っていたからか、それともタコ焼きの暑さのせいか、顔を真っ赤にして器用に千枚通しを動かし、次々とタコ焼きを丸めている。私たちがガラス張りに近づくと、「いらっしゃいませ」と声を上げて、ビックリした表情をした。
同僚の先輩らしい女性に、「おばあちゃんとおじいちゃんです」と説明している。タイ焼きとタコ焼きを注文し、出来上がるまで孫娘のタコ焼きづくりを見ていた。孫娘の方は、私たちが見ていることが気になるのか、何となくぎこちなくなってしまった。ちょっと悪いことをしてしまったと思い、出来上がったタイ焼きとタコ焼きを受け取ると、「じゃー、頑張ってください」と声をかけて帰って来た。
5時過ぎ、今日の勤務を終えた孫娘が、「疲れた」と言いながら我が家に立ち寄った。「疲れた。もう、タコ焼き屋のバイトはしない」と悲鳴を上げている。立ちっぱなしの仕事なので「疲れる」と言うのだ。「あのねえ、仕事で楽なものはないよ」と教えるが、働いたことの無い孫娘には理解できないようだ。孫娘の友だちの中には、高校生になった時からアルバイトをしている子もいて、楽に働けて時給がいい話を聞いているので、「もっと、楽にお金が入る仕事がしたい」などと言う。
私がしたアルバイトで一番辛かったのは、デパートのお歳暮売り場で、鴨の味噌漬けを担当した時だ。朝から閉店まで売り場にいたが全く売れなかった。「いかがですか?」と声をかけても見向きもされなかった。説明することも無く、ただ立っているだけというのは本当に辛かった。昼過ぎになると睡魔が襲ってきて、眠ってはイカンと身体を動かすのに必死だった。売り場には他に人はなく、贈答品が売れるか否かは私ひとりにかかっていたので、何とか売りたかった。
人からお金を貰うということは決して楽ではないことを、孫娘も知るようになるだろう。しかしまた、働いて自分が役に立つことの喜びも知るようになるだろう。人生はまさにこれからなのだから。