「救急車を呼んでもらった方がよいと思います」。倒れた男の脈をみていた女性がハッキリと言う。私はおカミさんに救急車の手配をお願いする。昨夜の同学年の「集い」は5時から始まり、本来なら7時までのところ、店は8時30分まで延長させてくれる。それが田舎の店のよいところ、いつもながら甘えさせてもらった。
8時近くは宴たけなわである。「カラオケの合間でいいからしゃべらせて」といつもは無口な男が言う。「カラオケはダメだが漫談もどきを一発やる」と。『尾張名古屋は城で持つ』で始まるどどいつ(?)の歌詞を変えてうなりだした。今日はずいぶんハイテンションだなと感じた。しばらくすると、席を立って歩き出したが尋常ではない。トイレに行くのか?と思いながら、私も席を立って後ろを追った。
すると、立ち止まって前を見ているが目がうつろだ。危ないと思った時はもう遅かった。右手を椅子の背を捕まえたまま前のめりに倒れた。倒れた時、テーブルで顎を打ったが、ゆっくりだったのでそんなに強打ではなかった。前の席の女性が「体を横にしてください」と言うが早いか、脈をとり、顎の様子をうかがった。聞けば元看護婦だった。
彼女の素早い判断で救急車は来たが、誰かが付き添う必要がある。彼のことを知っている私が適任だろうと決め、「あとのことはよろしく頼む」と救急車に乗り込んだ。救急病院に搬送され、救急隊からは「私どもは帰ります」と声をかけられて以来、何も説明もなく2時間ほど診察室の前で待った。午後10時半近くになって、診察室から彼が出てきた。顔色は元に戻っていた。
ひとり暮らしだから安静が確定するまで、明日の朝までは病院に置いてもらった方がいい。院長は知り合いだから頼もうか、そんなことを考え巡らしていたが、元気な姿を見て話していると心配はないと感じた。昔話などしながら一緒にタクシーで帰宅した。酔いも醒めてしまい、冷蔵庫にあったワインを飲む。大変な「集い」になってしまったが、大事にならなくて本当によかった。