救急治療室の前で待っていた時、私と同じように待機している家族がいた。看護師に呼ばれて男が診察室に入って行ったが、外にいる私にまで聞こえるような大きな怒鳴り声がした。かなり長い時間興奮してわめき散らす怒声が続いた。何を言っているのかと気になったが、「これではさらに遅くなりそうだ」と自分の都合ばかりを考えていた。
やがて診察室から出てきた男は、「全く責任逃れだ。話にならん」と残る家族に言う。救急車で運ばれてきたが、診断の結果、この病院では手術が出来ないので、専門医のいる病院に行く必要があるということらしい。男が怒っていたのは、患者を移すのは無責任で、手術をしないことについての医師の話は「見殺しにする」ということのようだ。
それだけを聞く限りでは分からないが、専門医がいなければ手術が出来ないことや、高齢の患者に手術を行った場合はリスクが伴うという説明は当然の話ではないかと思った。結局、手術の出来る病院へ転送することになったが、医者に激しく文句を言う人を私は初めて見た。医者は患者の治療を考え最善を尽くしてくれると考えるのは「甘い」とは思う。けれど、そうあって欲しいと思っているのに、医者を自分本位で無責任などとは考えたくない。
金を払うのはコチラなのだからと、無理なことを言う人もいる。タクシーの運転手が道を間違えて(中にはわざと遠回りする者もいるが)高い料金を請求され、「間違ったのはそちらだろう」と払わない人、レストランで注文した料理とは違うものが出てきて激怒する人、最近キレやすい人が多くなった。確かに間違ったのは相手の方だから謝らせて当然と思うのだろうが、自分だって間違えることはあるのだから、「私の言い方が悪かったかも知れないからごめんなさい」と言った方が傷つけないで済む。
金を払うのは優位さを手に入れるためではない。相手の行為に落ち度があっても、まずはありがとうの感謝を伝えるべきだろう。運んでもらう、食べさせてもらう、診察してもらう、世の中は全て相手からいただくことで成り立っている。キリストが言うように、「憎まず恨まず感謝しなさい」と心掛けているのだが‥。