風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

中国の反日デモ・続

2012-09-22 13:47:16 | 時事放談
 あれから一週間が経ち、いろいろ変化したことがあり、またあれこれ解説が出回ってもいて、癪にさわるテーマで甚だ不機嫌ではありますが、印象に残ったところを記します。
 中国当局によると、日中国交正常化40周年事業の記念式典を、予定通り27日に北京で開催すると、日本側に通告しているそうで、公式行事くらいはやってやると言わんばかりのようです。その一方で、北京市当局は日本作家の作品など日本関連の書籍出版を禁止する通達を出したことが明らかになっていますし、日本からの輸入貨物の通関検査を強化し結果として時間がかかっている事態が報告されるなど、相変わらずのゆすり・たかりには唖然とします。
 さて、尖閣諸島国有化を決定した9・11から激しくなった反日デモは、満州事変の発端となった柳条湖事件を「国辱」の日として記念する9・18を過ぎたあたりから、本格的に抑え込まれつつあるようです(しかし、この満州事変に関しては、そもそも今の中国共産党政権が云々すること自体がおこがましい。清は満州民族の国であり、祖国・満州の地とともに、伝統的に漢民族の地である正州(万里の長城の南)も支配しましたが、清帝国が滅んでから、満州国という日本の傀儡政権が誕生するまで、満州の地は権力の真空地帯であり、中国共産党政権が権利を主張する正当性はありません)。公安がただの傍観から完全な抑え込みに入ったのは、確かにデモの矛先が反政府に向かうことを恐れているのは事実のようですが、「ガス抜き」の必要性が、2005年や2010年の時とは格段に違ってきているようです。地方都市で多発する、社会不満に起因する暴動や反政府デモにせよ、今回の反日デモにせよ、もはや完全に押え込もうとは考えておらず、どうすれば管理できるかに重点を置いていると言われます。つまり、かつてのように暴力的に弾圧するだけでは「怒りと憎しみの連鎖」を生むだけだとして、暴動・デモに対して先ずは「容認」、そして「ガス抜き」、最後は拡大・暴徒化する前に「分断」させるという方向に転換しているのだそうです(城山英巳・時事通信北京特派員)。この7年ほどの間に、ツイッター等のSNSが広まったことが背景にあるとは言え、もはや可逆的ではない中国社会の変容が読み取れます。
 これに関連し、福島香織さんは面白い表現をしていました。
 (前略)マッチで火を付けたのが「官」であっても、そこに燃料がなければ燃え広がらない。焼き討ち・略奪の発生など「中央政府も制御不能」とされるほどデモが広がったのには、そこに燃料があって、それに燃え移ったからだ。それは簡単に言えば「社会不満」である。私はこういった「暴力的な反日デモ」が本当に訴えたいことが「反日」や「日本の尖閣(釣魚島)国有化」であるとは考えていない。それは「石炭」の上におかれた「麦藁」程度のもので、「麦藁」は火を付ければぱっと燃え上がるがすぐ消える。(中略)「反日の麦藁の炎」から「中国の社会不満の石炭」に火が移り燃え広がるリスクの方がありそうな気がする。(後略)
 しかし、中国で社会不満の空気が充満しつつある国内事情など、知ったこっちゃありません。官製デモの証拠として、長沙の平和堂を襲ったデモ隊は地元紙・株州日報の動員によるものだったという参加者の証言があるとか、西安のデモ隊のリーダーが地元派出所所長だったことが、制服姿の顔写真付きで、ツイッターで流れていた(後に人民ネットなどが事実でないと否定)とか、得意気に報じる事情通がいます。どうも日本のメディアは、希望的観測あるいは気休めに何かと分析して自ら納得させようとか、あるいは日本人の奥ゆかしい美徳で(あるいは親中か媚中のサガで)中国の気持ちを忖度しようとかしますが、だからと言って、破壊や略奪や放火などの違法行為が許されるものではありません。
 なぜここまで激しくなったかということに関して、中国政府自身が尖閣諸島の領有権に関して「勝負に出た」からだと分析する人がいます(遠藤誉筑波大名誉教授)。9月9日、ロシアのウラジオストックで開催されたAPEC会議で、胡錦濤国家主席が野田総理と15分間ほど立ち話をする機会があったことが報じられましたが、日本では殆ど報じられなかった立ち話の内容は、中国では、当日のニュースで広く報道されたそうで、この時、胡主席は、日本政府による尖閣諸島(中国名:釣魚島)の国有化を巡って厳しく抗議し、「日本は事態の重大さを十分に認識し、まちがった決定を絶対にしないように」厳しい表情で釘を刺したと言われます。すなわち、
 (引用)ここのところ、中日関係は釣魚島問題で厳しい局面を迎えている。釣魚島問題に関して、中国の立場は一貫しており、明確だ。日本がいかなる方法で釣魚島と買おうと、それは不法であり、(購入しても)無効である。中国は(日本が)島を購入することに断固反対する。中国政府の領土主権を守る立場は絶対に揺るがない。日本は事態の重大さを十分に認識し、まちがった決定を絶対にしないようにしなければならない。中国と同じように日中関係の発展を守るという大局に立たねばならない。日本が「尖閣は日本固有の領土だ」と確信しているのと同じ程度に、中国も「釣魚島は中国古来の領土だ」ということを、同じ程度に強く確信している。国民レベルで言うならば、中国の方がこの「確信」に対する熱意は熱い。(引用おわり)
 つまり、「日本が少しは事態の重大性に気づくだろう」という期待感を滲ませたものでしたが、日本政府は予定通り翌10日に尖閣国有化の閣議決定を宣言し、11日に実際に閣議決定し、胡主席は、日本に対する警告が踏みにじられたと感じて大いに怒り、「戦う」ことを決意したというわけです。日本は「現状維持」から一歩踏み出したからだと、専門家はこれみよがしに解説します。ここで言う「現状維持」とは、小平氏(当時党副主席)が1978年に来日した際、「解決を後世の叡智に任せよう」と、尖閣問題棚上げを日本人に提案したことに端を発し、その後、日本政府は日本国民にすら上陸を許さないなどの措置を講じて来た現状を言います。しかし、既に1992年に中国の法律として「海洋法」を一方的に定め、「法律で尖閣は中国と定めた以上、あそこは中国領」と言い出した(「迫りくる日中冷戦の時代」中西輝政著)などと聞くと、なんだ「現状維持」を破ったのは中国の方が先ではないかと思ってしまいます。因みに、東京都による購入を日本政府による国有化に切り替えることには、当初、中国政府も一定の理解を示していたが、韓国大統領が違法に竹島に上陸してから、中国国内の中で、中国政府の弱腰を批判する声が高まり、態度を硬直化せざるを得なくなったと解説する向きもあります。是非はともかくとして、中国政府が民衆を利用する一方で、中国政府も民衆の声を無視できない、微妙な緊張関係にあることだけは事実のようです。
 ことほどさように、中国は、自らのイデオロギーに沿って過去の経緯だけでなく歴史そのものを歪曲・捏造し、ああ言えばこう言う、しかもそれは西洋的な価値観を信奉していないものだから、話が通じないし、戦わずして勝つ、つまり「我々は軍事力で日本を征服する必要はない。大量の移民で日本を溢れさせれば、戦わずして日本は中国のものとなる」(1980年代の初めに小平氏談、中西輝政氏の同著書)といった現実を、再認識する必要があります。日本は、西洋的な価値観を奉ずる国であり、中国に対して、主張すべきことは主張する姿勢を貫く必要があると同時に、常に国際社会に対して日本の立場を主張し、中国の異様さを訴えていく努力を怠らない必要があります(既に世界は十分気づいていると思いますが)。
コメント (2)
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