風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

アルジェリア人質事件(後編)

2013-01-28 22:21:48 | 時事放談
 今回の事件では、日揮という当地でのビジネスのプロが、それなりに警備を厚くしてなお事件に巻き込まれてしまったという事実は重いと思います。報道では、犠牲者を悼むとともに、日本国として、またグローバルに事業展開する日本企業として、情報収集・分析と危機管理のありようが論じられています。政府は、現在36ヶ国に49人、アフリカにはエジプトとスーダンだけで、アルジェリアにはいなかった防衛駐在官(駐在武官)の拡充を検討しているようで、それはそれとして(軍関係の繋がりが中心で、儀礼的とも言われますので)、いざという時のためには普段から情報“収集”する仕組みを、軍だけでなく様々なチャネルで構築しておくという意味では、やはり外交官の役割は大きいと思いますし、組織的に情報“分析”する仕組みを築くこともまた重要だろうと思います。企業の側でも、事情は同じです。
 今回の報道で、一番印象に残ったのは、時事通信が21日に伝えたもので、「日本は世界で持つ影響力は大きく、人質となれば日本人にも利用価値がある」と警告する地元(アルジェリア)メディアの方の言葉でした。日本政府に対する要求は確認されておらず、日本人を人質に取り殺害する理由も見当たらないと考えるのが日本人の一般的な受け止め方だと思いますが、首謀者とされる国際テロ組織アルカイダ系組織の元幹部は武装勢力に「フランス人と英国人、日本人の計5人を人質にしリビアへ出国せよ」と指示したと伝えられます。今回、アメリカの影は薄いとして、何故、日本人が名指しされたのか、英・仏であれば、政府軍としても恨みがあるので攻撃を躊躇せず人質にはなり得なかったのか(つまり消去法で日本人が選ばれたのか)そのあたりの事情はよく分かりません。先の時事通信の記事から、別の部分を引用します。

(引用はじめ)
 中東では、トヨタ自動車などに代表される日本ブランドが各地で浸透しているほか、唯一の原爆被害を受けた国として知られ、同情や親近感を抱く人が多い。今回の事件でも、イスラム武装集団は「殺すのはキリスト教徒だけだ」と語っていたとされ、欧米人を標的に襲撃したようだ。
 人質事件の犯行を認めた国際テロ組織アルカイダにつながる武装集団は「フランスによるマリへの軍事介入への報復だ」と表明した。イスラム過激派の欧米敵視について、エジプトのアルアハラム政治戦略研究センターのアイザベウイ研究員は「欧米による植民地支配や軍事的な占領という歴史的背景以外にも、自由で開放的な欧米文化がイスラム圏に大きな影響を与えているという危機感がある」と指摘する。
 一方で「日本などアジア諸国は奥ゆかしさや保守性という観点でイスラム圏と似通った価値観を共有しており、アジア系に対する扱いはより穏便なものとなるケースが多い」と解説する。
(引用おわり)

 こうして見ると、安倍総理が「無辜の市民を巻き込んだ卑劣なテロ行為は決して許されるものではなく、断固として非難する。わが国は、引き続き国際社会と連携して、テロと戦う決意である」(22日)と述べたのは、国際協調という意味では全く正しいと思う反面、欧米のキリスト教国と常に足並みを揃えるだけで良いのかということでは疑問なしとしませんでした。福山大学客員教授の田中秀征さんは、日本が、幾千年と続いてきたユダヤ、キリスト、イスラムの「三大一神教」の抗争と無縁であったという、世界の有力国でも唯一の歴史的特性があると指摘されていました。これによって、日本はユダヤ、キリスト、イスラムのどれも排除せずに受容できる立場にある、逆に、ユダヤ、キリスト、イスラム側からも安心して友好関係を結ぶことができるのであって、今世紀も激しく続くこの歴史的抗争の一画に、日本は軽々しく組み込まれてはいけない、常に貴重な調停者としての資格を維持することが世界のために何よりも必要なことである、と述べておられたのは、これからの日本の国のありようを考えるにあたって、重要な示唆を含んでいるように思います。
コメント
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