昨夕の日経一面に、中国の実質GDP成長率が2012年通年で前年比7.8%と、13年ぶりに8%を割り込んだことが報じられていました。一面記事を飾るほどのことはないように思いますが、「世界の工場」として海外の景気の影響を受けやすく、世界の景気を連想させるという意味で極めてシンボリックであるのは事実です。昨日に引き続き、中国経済を巡る最近の日経記事3つを紹介します。
一つ目、一昨日の日経には、日経・CSISバーチャル・シンクタンクがビジネス・パーソンを対象に実施した日中関係に関するアンケート調査が紹介され、「生産拠点や市場としての中国の重要性に対する認識が著しく低下し、中国へのビジネス心理が急速に冷え込んでいることが裏付けられた」と報じていました。「生産拠点として」日本経済に対してもつ意味は、「必要不可欠」(14.3%)を抑えて、「必要不可欠だったが今後はそうとも言えない」(76.8%)が圧倒し、「市場として」も、「必要不可欠で、今後重要性を増す」(27.9%)を、「必要不可欠だが重要性は減る」(56.4%)が上回りました。新興国投資で最も有望な国・地域は、「中国」(3.6%)に対して、「インド」(41.9%)と「タイ・インドネシアなどASEAN諸国」(47.9%)が多くなっているのは、今の日本人のムードを反映しているとは言え、これほどまでかとちょっと驚かされます。
二つ目、中国商務省は、世界から中国への直接投資(実行ベース、2012年)が前年比3.7%減の1117億ドル(約10兆円)になったと発表しました。リーマン・ショック後の2009年以来、3年ぶりに前年実績を下回ったのだそうです。債務危機の影響が長引く欧州からの投資は3.8%減、海外資金の経由地でもある香港を含めたアジア10ヶ国・地域からの投資も4.8%減となった一方で、米国からの投資は4.5%増、日本からの投資に至っては16.3%増と、5割近く増えた前年から伸びが鈍ったとは言え、尖閣諸島を巡る対立で対中投資リスクが浮き彫りになったにも関わらず、堅調だったようで、世界からの対中投資が落ち込む中で、日本からの投資が全体を支える皮肉な構図となっていると伝えています。もっとも10月まで対中投資を手控えていたが、年末にかけて遅れていた分を含めた投資の実行に動いたとみられていますが、先ほどの日経・CSISバーチャル・シンクタンクを見る限り、先行きは明るくなさそうです。
三つ目、一週間くらい前の日経によると、台湾の対中投資にもブレーキがかかり始めているようです。昨年11ヶ月間の実績ですが、対中投資は前年比21%減となった一方、中国を除く対外投資は前年の2倍強に増加しており、昨年来「中国離れ」が鮮明になっていると報じています。背景として、中国の人件費上昇や労働力不足があり、中国政府が2015年までの5カ年計画で最低賃金を毎年13%以上引き上げる方針で企業の負担増が懸念されています。中国当局や提携企業との契約や安全を巡るトラブルも多発しているようです。代わりに投資が向かったのは、やはり人件費の安い東南アジアで、ベトナム向けは87%増、マレーシア向けは79%増に拡大したそうです。日本や欧米の投資は、台湾や香港経由のものも少なくない、いわば中国投資の牽引役だったという意味で、一つの転機を示しているようにも思います。
東大大学院の伊藤元重さんによると、30~50歳はベビーブーマーで(0~30歳は一人っ子政策の時代の子)、日本のベビーブーマーが50歳になったのは2000年だったのに対し、中国のベビーブーマーの最期の人が50歳になるのは20年先と、日本ほど急速に高齢化していくわけではないものの、中国の経済成長率が低くなるのは当然、と見ておられます。そして何より中国の経済成長を支えてきた三点セット(①輸出への依存、②低い賃金水準、③外資系への依存)が崩れ始めていることから、中国の先行きはについては余り楽観的ではないが、それでも大きく躓くことはない、というのも、中国は何よりも社会の安定を重視する国家である、それが共産党一党独裁国家というものであると述べておられます。
昨日に続いて再び登場して頂く浜矩子さんは「中国経済 あやうい本質」(集英社新書)の中で、中国経済が抱える数多い問題点の中で最も深刻なのはインフレだと述べておられます。中国経済がインフレになる要因の一つには、人民元の上昇を抑えるために中国の通貨当局が凄まじいばかりの為替介入を行っていることが挙げられます。中国は経済成長8%以上を達成するため、「世界の工場」として輸出に依存するビジネス・モデルを維持するべく、人民元を人為的に低く抑えたい。そのため、中央銀行がドルを民間市場から買い上げて、その見返りに人民元を放出しています。結果として、景気の過熱と物価上昇で経済のバランスがどんどん崩れていくことになるのは、様々なメディアやチャイナ・ウォッチャーが報じている通りです。
日本は、かつて輸出競争力の高まりとともに円高が進行し、国内生産を海外にシフトするなど、円高に耐えられるよう構造調整しながら、今に至っています。そして中国も人民元高が進むことは中国経済にとって理にかなっているにも係らず、アメリカからプレッシャーを与えられようが世界と妥協しない共産党一党独裁国家は、飽くまで人民元安にこだわり、イビツな経済に苦しんでいると見るわけです。日経新聞の記事を引用しながら見てきた外資の引き揚げは、反日暴動などに見られる政治リスクもさることながら、まさに中国においても、経済という複雑系あるいは化け物を手なずけるべく、構造調整に着手せざるを得ない、その一端が始まっている(あるいは人件費上昇という形で矛盾が噴出している)証拠だと思います。果たして中国は将来的に人民元高を受け入れて構造調整に耐えられるのか。実はこれこそが中国経済のより根源的な「あやうい本質」です。さて、どうなりますことやら。
一つ目、一昨日の日経には、日経・CSISバーチャル・シンクタンクがビジネス・パーソンを対象に実施した日中関係に関するアンケート調査が紹介され、「生産拠点や市場としての中国の重要性に対する認識が著しく低下し、中国へのビジネス心理が急速に冷え込んでいることが裏付けられた」と報じていました。「生産拠点として」日本経済に対してもつ意味は、「必要不可欠」(14.3%)を抑えて、「必要不可欠だったが今後はそうとも言えない」(76.8%)が圧倒し、「市場として」も、「必要不可欠で、今後重要性を増す」(27.9%)を、「必要不可欠だが重要性は減る」(56.4%)が上回りました。新興国投資で最も有望な国・地域は、「中国」(3.6%)に対して、「インド」(41.9%)と「タイ・インドネシアなどASEAN諸国」(47.9%)が多くなっているのは、今の日本人のムードを反映しているとは言え、これほどまでかとちょっと驚かされます。
二つ目、中国商務省は、世界から中国への直接投資(実行ベース、2012年)が前年比3.7%減の1117億ドル(約10兆円)になったと発表しました。リーマン・ショック後の2009年以来、3年ぶりに前年実績を下回ったのだそうです。債務危機の影響が長引く欧州からの投資は3.8%減、海外資金の経由地でもある香港を含めたアジア10ヶ国・地域からの投資も4.8%減となった一方で、米国からの投資は4.5%増、日本からの投資に至っては16.3%増と、5割近く増えた前年から伸びが鈍ったとは言え、尖閣諸島を巡る対立で対中投資リスクが浮き彫りになったにも関わらず、堅調だったようで、世界からの対中投資が落ち込む中で、日本からの投資が全体を支える皮肉な構図となっていると伝えています。もっとも10月まで対中投資を手控えていたが、年末にかけて遅れていた分を含めた投資の実行に動いたとみられていますが、先ほどの日経・CSISバーチャル・シンクタンクを見る限り、先行きは明るくなさそうです。
三つ目、一週間くらい前の日経によると、台湾の対中投資にもブレーキがかかり始めているようです。昨年11ヶ月間の実績ですが、対中投資は前年比21%減となった一方、中国を除く対外投資は前年の2倍強に増加しており、昨年来「中国離れ」が鮮明になっていると報じています。背景として、中国の人件費上昇や労働力不足があり、中国政府が2015年までの5カ年計画で最低賃金を毎年13%以上引き上げる方針で企業の負担増が懸念されています。中国当局や提携企業との契約や安全を巡るトラブルも多発しているようです。代わりに投資が向かったのは、やはり人件費の安い東南アジアで、ベトナム向けは87%増、マレーシア向けは79%増に拡大したそうです。日本や欧米の投資は、台湾や香港経由のものも少なくない、いわば中国投資の牽引役だったという意味で、一つの転機を示しているようにも思います。
東大大学院の伊藤元重さんによると、30~50歳はベビーブーマーで(0~30歳は一人っ子政策の時代の子)、日本のベビーブーマーが50歳になったのは2000年だったのに対し、中国のベビーブーマーの最期の人が50歳になるのは20年先と、日本ほど急速に高齢化していくわけではないものの、中国の経済成長率が低くなるのは当然、と見ておられます。そして何より中国の経済成長を支えてきた三点セット(①輸出への依存、②低い賃金水準、③外資系への依存)が崩れ始めていることから、中国の先行きはについては余り楽観的ではないが、それでも大きく躓くことはない、というのも、中国は何よりも社会の安定を重視する国家である、それが共産党一党独裁国家というものであると述べておられます。
昨日に続いて再び登場して頂く浜矩子さんは「中国経済 あやうい本質」(集英社新書)の中で、中国経済が抱える数多い問題点の中で最も深刻なのはインフレだと述べておられます。中国経済がインフレになる要因の一つには、人民元の上昇を抑えるために中国の通貨当局が凄まじいばかりの為替介入を行っていることが挙げられます。中国は経済成長8%以上を達成するため、「世界の工場」として輸出に依存するビジネス・モデルを維持するべく、人民元を人為的に低く抑えたい。そのため、中央銀行がドルを民間市場から買い上げて、その見返りに人民元を放出しています。結果として、景気の過熱と物価上昇で経済のバランスがどんどん崩れていくことになるのは、様々なメディアやチャイナ・ウォッチャーが報じている通りです。
日本は、かつて輸出競争力の高まりとともに円高が進行し、国内生産を海外にシフトするなど、円高に耐えられるよう構造調整しながら、今に至っています。そして中国も人民元高が進むことは中国経済にとって理にかなっているにも係らず、アメリカからプレッシャーを与えられようが世界と妥協しない共産党一党独裁国家は、飽くまで人民元安にこだわり、イビツな経済に苦しんでいると見るわけです。日経新聞の記事を引用しながら見てきた外資の引き揚げは、反日暴動などに見られる政治リスクもさることながら、まさに中国においても、経済という複雑系あるいは化け物を手なずけるべく、構造調整に着手せざるを得ない、その一端が始まっている(あるいは人件費上昇という形で矛盾が噴出している)証拠だと思います。果たして中国は将来的に人民元高を受け入れて構造調整に耐えられるのか。実はこれこそが中国経済のより根源的な「あやうい本質」です。さて、どうなりますことやら。