風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

韓国の自滅外交

2013-05-28 02:07:03 | 時事放談
 随分センセーショナルな表現ですが、もとより私が言ったものではありません。ご存じの方も多いと思いますが、ニューズウィーク5月28日版の真っ黒な背景の表紙に、朴大統領の、やや肩を落として元気なくトボトボ歩く姿とともに、でかでかと貼りつけられたタイトルをそのまま引用したものです。明らかに意図的な構成です。日本の日刊紙が、韓国大統領が訪米した際に議会演説したことを、韓国外交の勝利であるかのように、これ見よがしに報道したことへの、ささやかな対抗心の表れでしょうか。
 さて一つは、J.バークシャー・ミラーという、米戦略国際問題研究所太平洋フォーラム研究員が寄稿したもので、「日本外しを狙う韓国の誤算」と題し、「アメリカ依存から脱し、中国への接近と日本の孤立化を図る韓国の綱渡り政策はどこへ行く?」とのサブタイトルを付して、冒頭、いきなり、韓国大統領は、「5月7日の米・韓首脳会談で、日本政府は韓国植民地化の歴史を十分に認識し反省していないと非難した」ことを、「それは『あり得ない』展開だった」「なんとも思い切った、しかし子供じみた発言である」と断じています。もう一つは、ロバート・ケリー釜山大学準教授が寄稿した、「アメリカ頼みはもうやめて」と題し、「米軍のプレゼンスは地域内紛争を防ぐ一方で、無責任な愛国主義的外交を助長している」とサブタイトルを付したもので、米国が後ろ盾になることで、アジア諸国間の不和がいつまで経っても解決しない現状を皮肉るとともに、日韓は自分たちで見解の相違を解決するオトナになるべきだと批判しています。
 ミラー氏の寄稿を、もう少し仔細に見ます。韓国政府当局者は、「我々は本気で日本との包括的な協力関係を望んでいるのに、歴史と領土に関する問題でなかなか前に進めない」といったストーリーをしばしば口にし、歴史問題における日本の対応を非難するとともに、北朝鮮問題では、オバマ大統領が語る日・米・韓三ヶ国連携ではなく、中・米・韓三ヶ国協議にこだわり、北朝鮮への圧力を強化するという実質的な効果とともに、日本を足蹴にすることで自国民を喜ばせたいという意図も働いていると言います。そしてこれらの背景には、中・長期的に、日・米への依存度を徐々に低下させ、新興の中国に接近しやすい立ち位置を確保したいという本音が韓国側にあると見ています。しかし韓国の「日本外し」または「日本離れ」は、韓国が日本経済に如何に依存し、また密接に関係しているかを過小評価する一方、新たな地域秩序の構築において自らの力を過大評価していると、ミラー氏は批判的です。
 因みに、ミラー氏が所属する研究所は、ヘンリー・キッシンジャー氏のほか、知日派で、国防戦略の専門家であり共和党穏健派の重鎮として知られるリチャード・リー・アーミテージ氏や、カーター政権で国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたズビグネフ・ブレジンスキー氏を評議員として擁する、保守系シンクタンクとして有名です。私は双方に偏らない比較的冷静な見方だと思いますが、少なくともアメリカにはこうした保守的とはいえ公正な見方が一定数存在することは知っておいてよいと思います。
 先日、日経新聞社の韓国通・鈴置高史さんの講演を聴く機会がありました。実は鈴置さんも、「韓国は米国と中国の間で、綱渡りのような際どい外交に乗り出している」こと、そして韓国による反日は、日本憎しという直接的な理由ばかりでなく、例えば「北朝鮮から守って欲しいなら、米国が主導するミサイル防衛(MD)に、日本同様に参加しろ」といった米国の要求を、中国からは「MDに参加したら中国包囲網に加わったと見做す」と脅されるために、かわそうとして、方便として使っているとまで解説されています。今回の米・韓首脳会談でも、米国は、日・米・韓三ヶ国の軍事協力体制強化を狙って、あらためて日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)締結を求めたと言われますが、もともとこの協定は、中国が自らへの包囲網として嫌っているため、昨年、韓国は、反日を口実に、ドタキャンし宙に浮いたままになっていたものでした。
 ミラー氏は、米・中二股をかける韓国の動きについて、「中国の台頭によって、韓国は米・中間で戦略的ジレンマに陥った。伝統的に韓国はアメリカの同盟国であり、米・韓同盟は韓国の安全保障と政治的・経済的成功の主要な要因だった。しかし中国の着実な成長と市場の拡大により、韓国は中国への経済的依存を高めている。従って韓国は米・韓同盟に支えられる安全保障と、中国との戦略的協力関係に基づく経済的繁栄を同時に維持しなければならないのだ」という、延世大学・韓碩煕教授の発言を引用して説明します。他方、鈴置氏は、保守派の論客だったはずの金大中氏(元大統領ではなく、朝鮮日報の論説顧問)が「アメリカ一辺倒の外交ではもはや限界」と言い始めている事実や、かつて親米派だった韓昇洙元首相も「韓国の中国への接近は、本来の姿に戻る過程」とまで言う現実に注目されます。「本来の姿」というのは、言うまでもなく1000年の長きにわたって韓国が中国の属国だった柵封体制を指すのでしょう。最近は、中国が米国の帝国主義を非難し、中国の柵封体制は良かったと主張するのに対して、韓国内で同調する人が出て来ているそうです。以前、ブログで「明清交代」という言葉に触れたことがあったと思います。これも鈴置さんからの請け売りですが、かつて朝鮮は、従順な宗属国として「明」に仕える一方、女真族のことは蛮族として見下したため、覇権を握った「後金(後の清)」から二度にわたって侵攻され、屈辱的な降伏を余儀なくされたという、「覇権国家の交代に際して変化を見誤り、国が存亡の危機に陥った」苦い過去のことを言います。米国の低迷と対照的に台頭する中国を前にして、日本よりも先に、中国の尻馬に乗ることを目指すべしとする声が高まっていると言われます。
 ことほどさように、東アジア情勢は流動的になって来ました。韓国の事大主義は伝統的なもので、大国の力に頼ることに何の後ろめたさを感じることはなく、日本を抑え込むのに、かつては米国を利用し、今後は中国を利用しようとするのでしょうか。韓国大統領は6月には中国を訪問します。中・韓首脳会談の中身が注目されます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする