風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

朝日新聞の弁明(補遺)

2014-08-12 13:55:30 | 時事放談
 日本維新の会の橋下さんは、朝日新聞の慰安婦報道の検証記事をめぐり、「朝日が本気なら、赤字覚悟で(検証記事の)国際版を毎日刷り、『強制連行はなかった』『性奴隷はやめて』と世界各国に配信するしかない」などと、ここぞとばかりに吠えまくっていますが、あれほど朝日新聞を筆頭に叩かれた身としては、ほれ言わんこっちゃないと言いたい気持ちは分かります。今さら朝日新聞ばかり責めても仕方ないのですが、もう一つ、産経Webに正論8月号の「日本を貶めて満足か! 朝日新聞へのレッドカード」と題した特集について触れていましたので引用します。

(引用) 彼らは東日本大震災の際、事態収拾に奔走した福島第1原発の東電職員の9割が「所長命令に違反」して「原発から退避」していたと報じている。独自に入手した政府事故調の「吉田調書」でそれが明らかになった-というのだ。この報道はニューヨーク・タイムズなどによって直ちに世界中を駆け抜けた。それまで日本人の勇気をたたえた外国メディアは次々と手のひらを返した。
 現場で指揮を執った吉田昌郎所長(故人)らの戦いを『死の淵を見た男』にまとめたジャーナリスト、門田隆将氏は「所長命令に違反して退避した人間など1人もいなかった」と断じる。彼らが報道の根拠にした報告書からも「所長命令に違反した」とは読み取れない。実際、吉田氏は退避命令を出しており、朝日は、そもそも大前提で間違っているのだが、門田氏は日本人を貶める彼らの目的は何か、「それがどうしてもわからない」といぶかるのだ。これは第2の「慰安婦報道」だろう。(引用おわり)

 日本を貶める朝日を貶めるのが趣旨ではなく、私たち一人ひとりが思っていることとは別に、メデァイが報道することが世界に拡散し、それが日本人が言っていることや考えていることだと理解され、日本のイメージが形成されることの危うさを思うからです。中国では、都会の人を中心に、メディアの報道は官製プロパガンダだと割り切ってネットを見る人の方が多くなっているのかも知れませんが、田舎ではそこまではないでしょうし、生真面目な、そしてまがりなりにも自由・民主制国家と見なされる韓国では、仮にファンタジーであってもメディア報道を信じる人は少なくないように思います。言語を異にする国民間では、相互のメディアが相互の国民間のコミュニケーションの重要な仲介役を担います。
 日本国内でも問題があり得ます。最近でこそ、ネットを中心に保守的な論説も含めて様々な意見が出るようになりましたが、もともとリベラルな思想が受け入れられやすい土壌に、戦後、GHQ史観が植えつけられ、進歩的知識人がオピニオン・リーダーとしてもてはやされ、進歩的であることこそ知的だとする雰囲気が長らく論壇を支配してきて、私の父のように、自民党支持のくせにテレビはNHK、新聞は朝日、書籍は岩波、というような家庭が多かったと思いますし、今なお(ネットは見ないで)朝日新聞しか読まない年配の方も多いだろうと想像されます。それで、国民の堅実な生活実感なり良識が反映されているのであれば問題ありません。しかし、そうではなく、イデオロギーにからめ捕られたリベラルなメディアが、現実の事象をありのままに見るというよりも、ある種のシナリオに沿って事実を検証することなく取り上げ、シナリオの上にさらに虚偽の事実を塗り重ねる作為に、人々がからめ捕られて、現実感覚を見失っているような気がしてなりません。朝日新聞は、国会招致までちらつかされて、さすがに逃げ切れないと思ったのか、今回の検証記事に応じざるを得なかったのでしょうが、古色蒼然としたイメージは拭いようがありません。
 「安倍叩き」は(三宅久之氏との会話の中で)「朝日の社是」と言ってのけた若宮啓文氏のような方もいました。氏が朝日新聞主筆を退任したのは2013年1月のことで、部数を落とした朝日新聞が「安倍叩き」はやめると公言したのもその頃でしたが、その後、氏は韓国・東西大学「碩座教授」、更に国立ソウル大学日本研究所「客員研究員」として招請されたのは有名な話で、ファンタジーの韓国、そしてプロパガンダの中国にも共通するのは、先ずシナリオありき、の奇妙な非現実的な性向です。
 今般の検証記事は、朝日新聞にしては快挙だと見る向きもあります。が、誤解を恐れずに言うと、これまで日本は、そもそも外交下手で争いごとが苦手な上に、日本の経済的優位を背景に精神的優位に立つからこそ、戦前の侵略戦争に対する贖罪意識のもとに、中・韓に対して遠慮し、下手に(時に卑屈に)出て、まともに付き合って来なかったのではないか、しかし中・韓が経済成長し、日本の相対的優位が失われるにつれて、中・韓が日本に対して自信をもつとともに、日本にも余裕がなくなり、衝突が未然に回避されず先鋭化せざるを得ない、それとともにリベラルも退潮を余儀なくされる、今般の朝日新聞の検証記事には、そんな社会の気分の変わり目を感じさせます。日・中・韓がまともに向き合って本格的に付き合って行くのはこれから、とも言えますが、他方で、外交は内政の延長で、中国にしても韓国にしても統治の正統性が揺らぐ中で、対外的に強硬になる傾向を強めていて、ここを凌げば将来的には良くなるのではないかと思わせるところもあって、諸相が交錯して、なかなか悩ましいところではあります。
コメント
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