風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

日米蜜月?(上)

2015-05-06 22:58:42 | 時事放談
 安倍首相のこの度の訪米を不思議な気持ちで振り返ります。
 昨年のこの時期、オバマ大統領は、国賓として来日しながら、元赤坂の迎賓館ではなく都内の老舗ホテルに宿泊し、皇居訪問の際には宮内庁が差し回す御料車ではなく自前で用意した大統領専用車を使用し、国会演説も行なわず、記者会見では“Prime Minister Abe”と呼んだ、いわば“よそよそしさ”と比べると、今回は、気味が悪いほどの歓待ぶりでした。昨年は、プラグマティックなアメリカにあっても更にビジネスライクな(そのせいか政界にはお友達がいないと言われるほどの)オバマ大統領の本領発揮といったところ・・・と書きましたが、その彼にして、この一年で一体何が変わったのでしょうか。
 一年前、オバマ大統領のアジア歴訪は、アメリカの同盟国と中国という、二つの異なる聴衆を意識し、双方に向かって語りかける微妙なものだったと伝えるNY Times電子版の分析を紹介しました。しかし、オバマ大統領が如何に気兼ねしようと、中国は、韓国を利用して日本の誤った歴史認識を非難し、安倍政権を戦後秩序に挑戦するものと咎めながら、自らやっていることはベトナムとの衝突であったり、また南シナ海の環礁埋め立てであったりして、九段線(または牛の舌)内での「不沈空母」構築を止める気配はなく、戦後秩序に挑戦し力で現状変更しようとしているのは中国自身であること、こうしてアメリカを遠ざけ、日本を孤立化させることで、中国がアジアの覇権確立を狙っていることもまた、いよいよ明らかになって来ました。かたや韓国は、アメリカの安全保障の傘にいながら、経済的のみならず政治的にも中国の磁場に引き寄せられ、米・中の間の二股外交が明らかになりつつあり、日・韓関係の障害になっているのは日本の誤った歴史認識だと一方的に非難しますが、日・米・韓同盟の障害になっているのは実は韓国の方ではないかという疑念がアメリカにも芽生えつつあります。ロシアとの間は、クリミア併合を機に冷え込んだままです。そして同盟国であるイギリスやカナダやオーストラリアのほか欧米諸国は、アメリカの再三の牽制にも関わらず、中国が主導するAIIB参加になだれ込み、アメリカを裏切らなかった主要国は日本だけの有様でした。その日本は、安倍首相が歴史修正主義者ではないかと警戒したものの、中・韓(及び中・韓が騒ぐことで東アジアの緊張が高まることを嫌がる欧米諸国)の反発を受けて表面上の対決姿勢は弱める大人の対応を見せつつ、内実は戦後の消極的平和主義から積極的平和主義に転じ、限定的ながら集団的自衛権を容認して、安保法制の整備を着々と進めるなど、財政上の制約により米軍の前方展開能力を削減せざるを得ないオバマ政権にとって、東アジアにおいて利害を共有する(日本にとっても自らの国益に従って防衛政策を進められるチャンスだと思います)かけがえのない同盟パートナーとなりつつあります。アメリカ国内に目を転じると、上下両院で野党が過半数を占めレームダック化していると揶揄される政権第二期で、なんとかLegacyを残そうと、仇敵イランやキューバとの関係改善という荒業に触手を伸ばしていますが、いずれにおいても内外に反対が根強く、うまく行く見通しが立たない上、こうした数十年の地域の安定を揺るがす禁じ手によって国際情勢(とりわけ中東の同盟諸国との間)は不安定化するばかりです。そして誰もいなくなった・・・ではありませんが、そんなオバマ大統領にとって、一年の時を経て、安倍首相の、ひいては日・米同盟の存在感が格段に高まっているのは、不思議でもなんでもなさそうです。
 そこで注目を集めたのが安倍首相の演説です。中・韓だけでなく、そもそも中・韓をけしかけたようなものでもある日本の一部左傾メディア、そして中国から買収でもされているのではないかと疑いたくなるようなアメリカのリベラル系政治家やメディアから、盛んに牽制されていましたが(例えば有名なマイク・ホンダ議員など25人の下院議員は、安倍首相が訪米中、慰安婦問題に関する河野官房長官談話、過去の「植民地支配」や「侵略」を謝罪した村山首相談話を尊重するよう首相に促し、歴史問題に言及することに期待を示す書簡を、駐米大使に送付していました)、安倍首相本人の思いとオバマ大統領の期待に応えることが出来たでしょうか。
 たかが「侵略」や「従軍慰安婦」といった言葉の使用が、「たかが」と言っては怒られそうなほど衆目を集め話題になるのも、一歩引いて眺めて見れば誠に奇異に映りますが、これも東アジアの特殊な事情を反映します(特殊な・・・と言うのは、先ほども触れたように、一部左傾メディアに共振するように、ただの国内問題に過ぎない歴史認識問題をまんまと外交カードにしてしまう中・韓を結果としてのさばらせてしまった戦後日本の歪んだ言論空間と、儒教文化が根強い東アジアの特殊な国際環境を言います、為念)。しかしそこはアメリカ議会上下両院合同会議であり、「侵略」や「従軍慰安婦」を謝罪する場ではありません(だからこそ記者会見のトップバッターにいきなり「従軍慰安婦」で謝罪を要請されたのは、どこかの国に金をつかまされたのか!?と疑ってしまいます、笑)。しかし、安倍首相は終始冷静でした。
 朝日新聞Digitalが伝えるところによると、「政府は演説の実現に向け年明けからオバマ政権への打診を始め、米議会関係者にも接触」し、「3月上旬に首相のスピーチライターを務める谷口智彦・内閣官房参与が訪米して文面の調整に入り、帰国直後から演説内容の検討が始ま」り、「今回の演説草稿には首相が何度も自ら手を入れ」、「日本との関係強化の好機とみたオバマ政権も演説実現に動き、ベイナー下院議長(共和党)が3月末、正式発表に踏み切った」ということです。準備は、環境の変化も幸いして、周到に進められました。
 演説の前日、ワシントン・ポスト紙は、安倍首相の訪米を受けた社説を掲載し、「第二次大戦中の日本の行為を明確に謝罪するかどうか首相が疑問を持たれている」と指摘、「29日の米議会での演説や、今夏発表する戦後70年の首相談話で深い反省の意を再確認することが重要」だとした上で、「現在の日本はドイツのように注意深く世界での役割を拡大しようとしており」、「韓国などが強い関心を寄せる首相の歴史認識よりも日本の戦後70年の歩みに目を向け、日本が世界で積極的な役割を果たそうとすること」を、「他のアジアの民主主義国も歓迎するべきだ」と論評したそうです。またウォールストリート・ジャーナル紙は、13日付のコラムで、「日本にとって謝罪表明は難しい技だ」と題し、「安倍首相が70年談話で日本の戦時行動を全面的に謝罪して、中韓両国との関係改善や東アジアでの和解を図るべきだという声が米国でもあがっているが、事態はそんなに簡単ではない」と論じているそうです。「日本がすでに当時の宮沢喜一首相や村山富市首相らが数え切れないほど謝罪を述べてきたことを強調し、それでも中韓両国との『関係改善』や『和解』をもたらさなかった」と指摘、特に「中国は共産党政権が反日感情を政権保持の支えにし、『謝罪しない日本』を軍拡の正当化の理由に使っているから、日本の謝罪は決して受け入れない」とまで論じているそうです(いずれも産経Web)。歓迎ムードに溢れた、と言うより現実的で冷静な論評で、中国系資本家から買収話が出て既に中身は乗っ取られているかのようにリベラル(と言うより露骨に反日)なNY Times紙とは差があります(自由なアメリカですから、いろいろあって良いわけですが、多民族ゆえの冷静さあるいは距離感が取り柄と思っていたところ、一部民族の盛んなロビー活動に見られるように、多民族ゆえの脆さとも裏腹です)。
 長くなりましたので、続きは次回。
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