安倍首相が米議会上下両院合同会議で行った演説は、よく練られて上出来でした。読売新聞は「45分間演説に十数回の総立ち拍手」とタイトルした記事を書き、産経Webに至っては「米国民の心とらえた“絆”スピーチ、満場の拍手35回」などと褒めそやしました。
あらためて真面目に読み返すと、挿入されたいくつかのエピソードは、なかなか効果的だったと思います。安倍首相の個人的経験として、カリフォルニアで過ごした学生時代やNY勤務時代にアメリカ的価値と出会ったことは、月並みですがアメリカ人の自尊心をくすぐったことでしょう。第二次大戦メモリアルを訪れたときの話では、「第二次大戦中に戦死した米国人へ弔意を示すことで、日米関係の新たな時代を宣言した」と、英紙ガーディアンがしっかり報じましたし、会場に、米・海兵隊大尉として中隊を率い硫黄島に上陸したローレンス・スノーデン海兵隊中将と、迎え撃った栗林忠道大将・硫黄島守備隊司令官のお孫さんの新藤義孝国会議員のお二人を招き、「昨日の敵は今日の友」と言わんばかりに和解を演出したのもドラマティックでした。かつて20年以上前、GATTの農業分野交渉の頃に農業の開放に反対の立場をとったことを告白し、謙虚に反省して今は改革派であることをアピールしたのも心憎い演出ですし、「国際協調主義にもとづく、積極的平和主義」と新しく掲げる旗印の下、世界の平和と安定のためにこれまで以上に責任を果たしていく決意を表明するにあたって、日本はカネだけではない、1990年代以降、日本の自衛隊が、ペルシャ湾で機雷の掃海に当たったり、インド洋でテロリストや武器の流れを断つ洋上作戦を支援したりして来たことに加え、カンボジア、ゴラン高原、イラク、ハイチ、南スーダンといった国や地域で人道支援や平和維持活動に従事してきたことをさりげなく宣伝したのも良かったでしょう。
そして何よりも印象的だったのは、日本人としては歯が浮くような・・・とでも言うべきなのでしょう、TPPや日米ガイドライン改訂の意義を説くことも然り、太平洋からインド洋にかけての広い海を、自由で法の支配が貫徹する平和の海にしなければならないと訴えたことも然り、さらに、戦後世界の平和と安全はアメリカのリーダーシップなくしてありえなかったと褒めつつ、祖父・岸信介氏の演説を引用しながら、米国と組み、西側世界の一員となる選択をしたことを心から歓迎し、日本が、米国や志を共にする民主主義諸国とともに最後には冷戦に勝利したことを、また、この道が日本を成長させ繁栄させたことを振り返り、自由、民主主義、法の支配といったアメリカ的価値を、繰り返し、そう、繰り返し、褒め称えたことでした。女性の立場にも、繰り返し、配慮を見せました。こうして、安倍首相自身は決して歴史修正主義でも極右でもない、多くのアメリカ人と同じ価値観を共有する真っ当な人間であることを印象づけることには、それなりに成功したと思います。
高校生の頃、ラジオから流れてきたキャロル・キングの曲に心揺さぶられた話に続けて、東日本大震災で展開された米軍のトモダチ作戦に感謝したのは、日米協力の言わば至高の姿として、また弱い者に援助の手を差し伸べる英雄譚としても、適切でしたし、米国が世界に与える最良の資産は、昔も今も将来も、「希望」である、日米同盟は「希望」の同盟と呼ぶべきである、などと、アメリカ人の誇りを呼び覚まして締めるあたりは、益々歯が浮く話ではありますが、秀逸と言うべきでしょう。
さて、一部で注目された先の大戦への反省については、「戦後の日本は、先の大戦に対する“痛切な反省”を胸に、歩みを刻みました。自らの行いが、アジア諸国民に苦しみを与えた事実から目をそむけてはならない。これらの点についての思いは、歴代総理と全く変わるものではありません。Post war, we started out on our path bearing in mind feelings of “deep remorse” over the war. Our actions brought suffering to the peoples in Asian countries. We must not avert our eyes from that. I will uphold the views expressed by the previous prime ministers in this regard.」と、ドイツのヴァイツゼッカー大統領演説を意識しながら、さらっと流しました。読売新聞が伝えるところでは、先のアジア・アフリカ会議(バンドン会議)首脳会議での演説では、日本語で「深い反省」と述べ、”deep remorse”と英訳されていたところ、今回は同じ”deep remorse”と発言し、日本語訳では「痛切な反省」と微妙に変えて来ました。この「痛切な反省」は、まさに戦後50年の村山首相談話で使われたのと同じ表現であり、アジア・アフリカ会議(バンドン会議)の後の反応を見たのか、ちょっとは配慮した形跡が窺えます。
この安倍演説に対して、野党は言うに事欠いて、安全保障関連法案を夏までに成立させるなどと、国会をさしおいて外国(米国)で明言したことを非難しましたが、枝葉末節も甚だしい。安倍首相の一世一代の大芝居を、安倍首相とスピーチライターの苦労の跡を、ちょっとは褒めてあげる度量を見せればいいのにと思います。まあ、ちょっとアメリカを持ち上げ過ぎなのが鼻をつくのは事実ですが、中・韓の反発は想定通り(と言うより、何を言ったところで文句をつけたことでしょう)、むしろ、日米の蜜月を見せつけられた韓国では、与野党ともに「韓国外交の敗北」などと政府の責任を追及し、さんざん悪態をついてきた朴槿恵大統領は、4日に開催した大統領府の首席秘書官会議で、韓国外交について「歴史問題に埋没せず、それはそれとして指摘していく」とした上で、「外交問題は別の観点に基づく明確な目標と方向を持って進めている」と強調せざるを得ない事態に追い込まれました。中・韓に対して、ちょっとは外交得点を稼いだのは確か・・・と言えるでしょう。前回ブログでのオバマ大統領といい、今回ブログでの安倍首相といい、お互いにこの機会を活かすことが出来たとすれば、めでたし、めでたし・・・なのですが。
あらためて真面目に読み返すと、挿入されたいくつかのエピソードは、なかなか効果的だったと思います。安倍首相の個人的経験として、カリフォルニアで過ごした学生時代やNY勤務時代にアメリカ的価値と出会ったことは、月並みですがアメリカ人の自尊心をくすぐったことでしょう。第二次大戦メモリアルを訪れたときの話では、「第二次大戦中に戦死した米国人へ弔意を示すことで、日米関係の新たな時代を宣言した」と、英紙ガーディアンがしっかり報じましたし、会場に、米・海兵隊大尉として中隊を率い硫黄島に上陸したローレンス・スノーデン海兵隊中将と、迎え撃った栗林忠道大将・硫黄島守備隊司令官のお孫さんの新藤義孝国会議員のお二人を招き、「昨日の敵は今日の友」と言わんばかりに和解を演出したのもドラマティックでした。かつて20年以上前、GATTの農業分野交渉の頃に農業の開放に反対の立場をとったことを告白し、謙虚に反省して今は改革派であることをアピールしたのも心憎い演出ですし、「国際協調主義にもとづく、積極的平和主義」と新しく掲げる旗印の下、世界の平和と安定のためにこれまで以上に責任を果たしていく決意を表明するにあたって、日本はカネだけではない、1990年代以降、日本の自衛隊が、ペルシャ湾で機雷の掃海に当たったり、インド洋でテロリストや武器の流れを断つ洋上作戦を支援したりして来たことに加え、カンボジア、ゴラン高原、イラク、ハイチ、南スーダンといった国や地域で人道支援や平和維持活動に従事してきたことをさりげなく宣伝したのも良かったでしょう。
そして何よりも印象的だったのは、日本人としては歯が浮くような・・・とでも言うべきなのでしょう、TPPや日米ガイドライン改訂の意義を説くことも然り、太平洋からインド洋にかけての広い海を、自由で法の支配が貫徹する平和の海にしなければならないと訴えたことも然り、さらに、戦後世界の平和と安全はアメリカのリーダーシップなくしてありえなかったと褒めつつ、祖父・岸信介氏の演説を引用しながら、米国と組み、西側世界の一員となる選択をしたことを心から歓迎し、日本が、米国や志を共にする民主主義諸国とともに最後には冷戦に勝利したことを、また、この道が日本を成長させ繁栄させたことを振り返り、自由、民主主義、法の支配といったアメリカ的価値を、繰り返し、そう、繰り返し、褒め称えたことでした。女性の立場にも、繰り返し、配慮を見せました。こうして、安倍首相自身は決して歴史修正主義でも極右でもない、多くのアメリカ人と同じ価値観を共有する真っ当な人間であることを印象づけることには、それなりに成功したと思います。
高校生の頃、ラジオから流れてきたキャロル・キングの曲に心揺さぶられた話に続けて、東日本大震災で展開された米軍のトモダチ作戦に感謝したのは、日米協力の言わば至高の姿として、また弱い者に援助の手を差し伸べる英雄譚としても、適切でしたし、米国が世界に与える最良の資産は、昔も今も将来も、「希望」である、日米同盟は「希望」の同盟と呼ぶべきである、などと、アメリカ人の誇りを呼び覚まして締めるあたりは、益々歯が浮く話ではありますが、秀逸と言うべきでしょう。
さて、一部で注目された先の大戦への反省については、「戦後の日本は、先の大戦に対する“痛切な反省”を胸に、歩みを刻みました。自らの行いが、アジア諸国民に苦しみを与えた事実から目をそむけてはならない。これらの点についての思いは、歴代総理と全く変わるものではありません。Post war, we started out on our path bearing in mind feelings of “deep remorse” over the war. Our actions brought suffering to the peoples in Asian countries. We must not avert our eyes from that. I will uphold the views expressed by the previous prime ministers in this regard.」と、ドイツのヴァイツゼッカー大統領演説を意識しながら、さらっと流しました。読売新聞が伝えるところでは、先のアジア・アフリカ会議(バンドン会議)首脳会議での演説では、日本語で「深い反省」と述べ、”deep remorse”と英訳されていたところ、今回は同じ”deep remorse”と発言し、日本語訳では「痛切な反省」と微妙に変えて来ました。この「痛切な反省」は、まさに戦後50年の村山首相談話で使われたのと同じ表現であり、アジア・アフリカ会議(バンドン会議)の後の反応を見たのか、ちょっとは配慮した形跡が窺えます。
この安倍演説に対して、野党は言うに事欠いて、安全保障関連法案を夏までに成立させるなどと、国会をさしおいて外国(米国)で明言したことを非難しましたが、枝葉末節も甚だしい。安倍首相の一世一代の大芝居を、安倍首相とスピーチライターの苦労の跡を、ちょっとは褒めてあげる度量を見せればいいのにと思います。まあ、ちょっとアメリカを持ち上げ過ぎなのが鼻をつくのは事実ですが、中・韓の反発は想定通り(と言うより、何を言ったところで文句をつけたことでしょう)、むしろ、日米の蜜月を見せつけられた韓国では、与野党ともに「韓国外交の敗北」などと政府の責任を追及し、さんざん悪態をついてきた朴槿恵大統領は、4日に開催した大統領府の首席秘書官会議で、韓国外交について「歴史問題に埋没せず、それはそれとして指摘していく」とした上で、「外交問題は別の観点に基づく明確な目標と方向を持って進めている」と強調せざるを得ない事態に追い込まれました。中・韓に対して、ちょっとは外交得点を稼いだのは確か・・・と言えるでしょう。前回ブログでのオバマ大統領といい、今回ブログでの安倍首相といい、お互いにこの機会を活かすことが出来たとすれば、めでたし、めでたし・・・なのですが。