前回・前々回と安倍首相の訪米について書きましたが、実は、同時期、岸田外相のキューバ訪問の方が気になりました。日本は国交があるので不思議でも何でもないのですが、長年対立してきたアメリカとキューバが国交正常化に向けて動き始めているときだけに、どんな話が飛び出すか注目されました。一つは、既に2008年に引退していた国家評議会の前議長フィデル・カストロ氏との会談で、核兵器の恐ろしさに関する認識で一致したとのこと。これが主題だったとすると(重要なこととは言え)なんだかなあとも思いますが、健康問題を抱える前議長が親しい左派指導者以外の外国政府要人と会談するのは異例なのだそうで、日本への潜在的な期待は高そうです。もう一つは、現議長で弟のラウル・カストロ氏との会談で、経済関係など二国間関係を強化したいとの表明があったとのこと。このあたりがキューバの本音なのでしょう。
Newsweek日本版5/5&12号は、そんなキューバの特集を組みました。目を引いたのは、キューバの街で半世紀以上も走り続けるアメ車、今の私たちにとってはクラシック・カーと言うべき、なんともレトロな写真の数々です。フィデル・カストロ氏による革命が成功する以前、事実上アメリカの保護国扱いだったキューバには、アメリカ人とアメリカ製の車が溢れており、革命を機に断交してからは、ソ連製の車が入って来たものの、経済制裁でアメリカ製部品が入手できない中、圧倒的多数の人たちが自分たちで部品をやりくりしてアメ車のクラシック・カーを走らせて来たのは、キューバ人のアメリカ文化への愛情ゆえだと言います。ブログ・タイトルに言う「カリブの宝石」は、Newsweek誌に従えば、このクラシック・カーのことで、いくらスクラップ寸前のボロ車でも、通常の中古価格の数倍の値がつくのではないかと早くも一部で期待されています。
そんなキューバも、冷戦終結後は、後ろ盾だったロシアの経済支援まで喪失し、国内経済は疲弊しているようです。フィデルの後を継いだラウル・カストロ氏は、不動産売買を解禁するなどの改革を断行しましたが、経済は低迷し、昨年には、海外からの投資を呼び込むため、約20年ぶりに「外国投資法」を改正し、税制面で欧州企業などを優遇しているそうですが、どうしても「近くて遠い米国」(駐ハバナ外交筋)の直接投資なしには経済が立ちゆかない状況にあると言います(産経Webより)。また、反米「同盟」の一角を占めてきたベネズエラでは、フィデル・カストロ氏の盟友だったチャベス大統領亡き後、政権基盤が不安定で経済危機に陥り、対米関係改善に意欲を見せていると言われ、反米4ヶ国であるキューバ、ベネズエラ、ボリビア、ニカラグアの結束が崩れて、キューバだけでなくボリビアも関係の多角化をめざし米国との距離を縮め始めているとの観測です(こちらも産経Web)。
かれこれ一ヶ月くらい前になりますが、アメリカとキューバの直接の首脳会談が、実に59年振りに、1961年の断交後、初めて行われました。オバマ大統領は声明で、「50年にわたる政策を継続しても、(これまでと)異なる成果は期待できない」と述べ、「孤立」政策が機能しておらず、積極的な「関与」政策への転換が不可欠との認識を示しました。オバマ大統領の、それこそ歴史的な政策転換には、彼自身の政権末期で外交上の得点を挙げ歴史に名を残したい野心はともかくとして、米国の「裏庭」である中南米地域との関係を改善・強化することで、地域を浸食するロシアや中国を牽制しクサビを打ち込む狙いもあるようです。
先ずロシアについては、ウクライナ問題で欧米との関係が悪化し、対米戦略の観点から再びキューバに接近するのではないかとの懸念があるようです。
次に中国は、ニカラグアで、一民間企業を通してではありますが、昨年12月から、ニカラグアを横断して太平洋と大西洋を連結する巨大運河の建設に取り掛かっていると報じられて来ました。これに関しては、土地収用で充分な補償が得られないかも知れないとか、環境破壊への懸念がある(さらには運河建設で創出される雇用5万人のうち1万2500人を中国人労働者が占めることへの懸念がある)といったことから、地元で抗議活動が拡大しているといった意味での、(中国が関わる場合には相も変わらぬ)報道です。パナマ運河でも拡張工事が進めらる中、わざわざ総工費約500億ドル(約6兆円)をかけて、パナマ運河の3.5倍にも達する全長278キロの巨大運河をニカラグアに建設する必要性については、海運関係者の間でも懐疑的な見方が多く、近隣では、中国政府が将来、運河を防衛するため軍事基地を建設するのではないかと噂されています。それもあって、アメリカは、「裏庭」である中米地域で、中国が存在感を強めることが面白かろうはずはなく、警戒しているようです。
再びNewsweek誌に戻ると、月収40~50ドルにしかならない医者を辞めて、月200ドル稼げるタクシーの運転手に転職した案内人が登場しますが、社会主義国キューバでは、医者よりタクシーの運転手の方が稼ぐのも驚きなら、野球選手の月収もその程度だというのも(社会主義の性格上、当然のことではあるものの)驚かされます(1961年にプロスポーツ制度が廃止され、その後、亡命希望を口にしただけで「イデオロギー上の反逆行為」とみなされるそうです)。他方、現実にメキシコやドミニカ共和国に亡命した上でアメリカに渡りMLBで活躍するキューバ出身者は現在19人、その多くが数千~1万倍近い高額報酬を得ています。例えばドジャースのプイグ外野手は、麻薬密輸組織の手を借りる命がけの冒険の結果、5回目の挑戦でメキシコ亡命に成功、ドジャースと総額4200万ドルの7年契約を獲得したとあります。それは極端にしても、日本とは国交がありますので、合法的に出稼ぎができて、国家公務員という身分上、20%はキューバの国庫に召し上げられるそうですが、それでも数億円(キューバにいるときの数百倍から1千倍)を稼ぐことも夢ではありません。「キューバの赤ん坊はバットと球を持って母親から生まれてくる」、そんな冗談が真顔で語られる野球王国・キューバには、磨けば光る宝石の原石がいっぱい・・・アメリカと国交回復し、自由な行き来が出来るようになれば、キューバ人野球選手本人だけでなく、20%を徴収できるキューバ政府にとっても有り難い話であり、これこそ「カリブの宝石」と言えるのではないでしょうか。
とまあ言ったところで、実は個人的には、Newsweek誌の写真を眺めながら、ヘミングウェイが住んでいた頃の面影を色濃く残す、パステル調の古ぼけた街並みこそ「カリブの宝石」だと思うのですが、早晩、開発の波に洗われてしまうのでしょうか。オバマ大統領が言うように、今では意味のない経済制裁を解除されて豊かになるのは良いことですが、世界の発展から奇跡的に取り残された一種の「楽園」がこの地球上から失われるようで、我が儘以外の何物でもないことは百も承知で、今となってはなんだか惜しい気持ちになります。
Newsweek日本版5/5&12号は、そんなキューバの特集を組みました。目を引いたのは、キューバの街で半世紀以上も走り続けるアメ車、今の私たちにとってはクラシック・カーと言うべき、なんともレトロな写真の数々です。フィデル・カストロ氏による革命が成功する以前、事実上アメリカの保護国扱いだったキューバには、アメリカ人とアメリカ製の車が溢れており、革命を機に断交してからは、ソ連製の車が入って来たものの、経済制裁でアメリカ製部品が入手できない中、圧倒的多数の人たちが自分たちで部品をやりくりしてアメ車のクラシック・カーを走らせて来たのは、キューバ人のアメリカ文化への愛情ゆえだと言います。ブログ・タイトルに言う「カリブの宝石」は、Newsweek誌に従えば、このクラシック・カーのことで、いくらスクラップ寸前のボロ車でも、通常の中古価格の数倍の値がつくのではないかと早くも一部で期待されています。
そんなキューバも、冷戦終結後は、後ろ盾だったロシアの経済支援まで喪失し、国内経済は疲弊しているようです。フィデルの後を継いだラウル・カストロ氏は、不動産売買を解禁するなどの改革を断行しましたが、経済は低迷し、昨年には、海外からの投資を呼び込むため、約20年ぶりに「外国投資法」を改正し、税制面で欧州企業などを優遇しているそうですが、どうしても「近くて遠い米国」(駐ハバナ外交筋)の直接投資なしには経済が立ちゆかない状況にあると言います(産経Webより)。また、反米「同盟」の一角を占めてきたベネズエラでは、フィデル・カストロ氏の盟友だったチャベス大統領亡き後、政権基盤が不安定で経済危機に陥り、対米関係改善に意欲を見せていると言われ、反米4ヶ国であるキューバ、ベネズエラ、ボリビア、ニカラグアの結束が崩れて、キューバだけでなくボリビアも関係の多角化をめざし米国との距離を縮め始めているとの観測です(こちらも産経Web)。
かれこれ一ヶ月くらい前になりますが、アメリカとキューバの直接の首脳会談が、実に59年振りに、1961年の断交後、初めて行われました。オバマ大統領は声明で、「50年にわたる政策を継続しても、(これまでと)異なる成果は期待できない」と述べ、「孤立」政策が機能しておらず、積極的な「関与」政策への転換が不可欠との認識を示しました。オバマ大統領の、それこそ歴史的な政策転換には、彼自身の政権末期で外交上の得点を挙げ歴史に名を残したい野心はともかくとして、米国の「裏庭」である中南米地域との関係を改善・強化することで、地域を浸食するロシアや中国を牽制しクサビを打ち込む狙いもあるようです。
先ずロシアについては、ウクライナ問題で欧米との関係が悪化し、対米戦略の観点から再びキューバに接近するのではないかとの懸念があるようです。
次に中国は、ニカラグアで、一民間企業を通してではありますが、昨年12月から、ニカラグアを横断して太平洋と大西洋を連結する巨大運河の建設に取り掛かっていると報じられて来ました。これに関しては、土地収用で充分な補償が得られないかも知れないとか、環境破壊への懸念がある(さらには運河建設で創出される雇用5万人のうち1万2500人を中国人労働者が占めることへの懸念がある)といったことから、地元で抗議活動が拡大しているといった意味での、(中国が関わる場合には相も変わらぬ)報道です。パナマ運河でも拡張工事が進めらる中、わざわざ総工費約500億ドル(約6兆円)をかけて、パナマ運河の3.5倍にも達する全長278キロの巨大運河をニカラグアに建設する必要性については、海運関係者の間でも懐疑的な見方が多く、近隣では、中国政府が将来、運河を防衛するため軍事基地を建設するのではないかと噂されています。それもあって、アメリカは、「裏庭」である中米地域で、中国が存在感を強めることが面白かろうはずはなく、警戒しているようです。
再びNewsweek誌に戻ると、月収40~50ドルにしかならない医者を辞めて、月200ドル稼げるタクシーの運転手に転職した案内人が登場しますが、社会主義国キューバでは、医者よりタクシーの運転手の方が稼ぐのも驚きなら、野球選手の月収もその程度だというのも(社会主義の性格上、当然のことではあるものの)驚かされます(1961年にプロスポーツ制度が廃止され、その後、亡命希望を口にしただけで「イデオロギー上の反逆行為」とみなされるそうです)。他方、現実にメキシコやドミニカ共和国に亡命した上でアメリカに渡りMLBで活躍するキューバ出身者は現在19人、その多くが数千~1万倍近い高額報酬を得ています。例えばドジャースのプイグ外野手は、麻薬密輸組織の手を借りる命がけの冒険の結果、5回目の挑戦でメキシコ亡命に成功、ドジャースと総額4200万ドルの7年契約を獲得したとあります。それは極端にしても、日本とは国交がありますので、合法的に出稼ぎができて、国家公務員という身分上、20%はキューバの国庫に召し上げられるそうですが、それでも数億円(キューバにいるときの数百倍から1千倍)を稼ぐことも夢ではありません。「キューバの赤ん坊はバットと球を持って母親から生まれてくる」、そんな冗談が真顔で語られる野球王国・キューバには、磨けば光る宝石の原石がいっぱい・・・アメリカと国交回復し、自由な行き来が出来るようになれば、キューバ人野球選手本人だけでなく、20%を徴収できるキューバ政府にとっても有り難い話であり、これこそ「カリブの宝石」と言えるのではないでしょうか。
とまあ言ったところで、実は個人的には、Newsweek誌の写真を眺めながら、ヘミングウェイが住んでいた頃の面影を色濃く残す、パステル調の古ぼけた街並みこそ「カリブの宝石」だと思うのですが、早晩、開発の波に洗われてしまうのでしょうか。オバマ大統領が言うように、今では意味のない経済制裁を解除されて豊かになるのは良いことですが、世界の発展から奇跡的に取り残された一種の「楽園」がこの地球上から失われるようで、我が儘以外の何物でもないことは百も承知で、今となってはなんだか惜しい気持ちになります。