風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

中国問題(上)

2015-09-20 11:42:36 | 時事放談
 前々回のブログ「東芝問題」と韻を踏むタイトルにしたのは、中国問題はまさに東芝と同じガバナンスの問題であることを連想するからである。
 中国経済が減速しているという観測がもっぱらである。ほんの数年前、リーマンショックで疲弊する世界経済を力強く牽引し、習近平が国家主席になった頃は飛ぶ鳥を落とす勢いで、中国が経済(GDP)において米国を抜いて世界トップに躍り出るのは時間の問題(2020年頃?)と見られていた。しかし、もとより世界のためといった大国としての責任の発想はなく、専ら国内向けに7%成長を守り抜くために無理な投資を続けてきた結果、過剰在庫・過剰債務を抱えるに至り、呻吟しているように見える。かつて遼寧省トップの頃の李克強が、中国の統計データはおしなべて信用出来ない中で比較的正直な統計データと呼んだ鉄道貨物や電力消費の推移を見る限り、習近平国家主席になってからの3年弱の間、7%成長を維持できているとはとても信用出来ないのである。もはや高成長を取り繕うことは出来なくなって、その範囲では、習近平国家主席本人が新常態(New Normal)と言わざるを得なくなった。
 これまでの中国経済そのものと言ってもよい、「世界の工場」の名をほしいままにしてきた中国であるが、踊り場にあるのは間違いない。「世界の工場」を脱して、と言うのはとりもなおさず中所得国の罠を脱して、生産性をあげ内需を中心に力強く成長を続けられるか否か、その過渡期に来ているのは衆目の一致するところだ。そして、中国経済の変調は、次のステージへの道筋が定められないまま、これまでの成長を支えてきた諸条件が変化して来たせいである。通商白書2014からこのあたりの事情をデータとして拾ってみる。
 一つは人口ボーナスを喪失しつつあることで、一人っ子政策の影響で高齢化が進み、生産年齢人口は既に2010年にピークを迎えた。一人っ子政策は緩和されたが、今後、日本のような社会保障問題は避けて通れない。そして生産年齢人口の地域別・業種別移動についても変化が生じ、日本の高度成長のように、農村の余剰労働力を沿海部の都市に農民工として供給するシステムが、農村の余剰労働力が枯渇することで破綻しつつあるようであり、都市部の求人倍率は1倍を超える・・・ということは「求人数>求職数」となって久しいのである。それもあって賃金に上昇圧力がかかり、この10年で人件費は4倍になり、日系製造業の作業員の平均月収は、タイやマレーシアとほぼ同水準まで上昇した。人民元レートは、2005年に管理フロート制に移行してから緩やかに上昇し、米ドルに対して3割以上切り上がり、これも輸出競争力に影響する。チャイナ・プラスワンと言われて久しいが、今や現実の問題となっている。実際に日本の対中投資は、尖閣諸島国有化で日中関係が決定的に悪化した2012年第二・四半期で頭打ちで、以降、伸び率マイナスが続いてる。
 そうは言っても、中国が投資ばかりでなく消費市場として拡大していないわけではないのは、爆買を見るまでもなく、明らかであろう。国家資本主義と言って、土地の供給システムは社会主義国のそれで、地方政府が一手に握っているので、日本のような急激な不動産バブル崩壊は起きないだろうと言われている。一人当たりGDPを見ると、IMFの2014年データでは僅かに7600ドル・・・とは、まさに世銀が言う中所得国(国民所得GNIでのことだが約1000~13000ドル弱の範疇)であり、中でも4126米ドルを境とする高中所得国に区分けされるが、ご多分に漏れず地域格差がひどく、省別に見ると、天津16000ドルを筆頭に、北京・上海15000ドル、江蘇12000ドル、浙江・内モンゴル11000ドルのほか、遼寧、広東、福建、山東、吉林は平均以上、その分、内陸は極貧なわけで、まだ成長余力があると言うべきか、高度成長期の日本で田中角栄がやったような分配制度が整備されず社会基盤は脆弱なままと言うべきか、いずれにしても失われた10年や20年と言われる日本とは、経済成長のステージが明確に違うのである。つまり、巷で、とりわけ日本の右派が期待するような、中国経済が破綻するといった悲観的なことにはならなくて、せいぜい7%成長が4~5%程度に巡航速度を落とすだけの話で、中国という国が膨張を止めることにはならないであろう。企業の実務レベルでは、腐敗摘発を恐れる地方政府が大型発注を手控えているだけという声も聞こえてくる。
 しかし中国共産党の統治となると話は別だ。・・・長くなったので続きは次回。
コメント
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