風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

香港の行方

2016-01-16 01:07:47 | 時事放談
 香港を代表するショッピング街・銅鑼湾の地下鉄駅D4口から出てすぐ、駱克道に面する雑居ビルの急な階段を上がった二階にある僅か30平米の目立たない小さな書店「銅鑼湾書店」が、英エコノミストも取り上げるほどの話題をさらっている(勿論、日本の全国紙でも取り上げられているが)。この店の店主や株主など関係者5人が昨年10~12月にかけて相次いで行方不明になった事件が、中国当局の秘密諜報員による拉致の疑いがあるというのである(一人はタイで、一人は香港で、残りの三人は中国で)。福島香織さんによると、香港の書店文化の一つである「二階書店(二楼書店)」(個人がテナント料の安い雑居ビルの二階の一室で開く趣味に走った書店)の代表的な店の一つで、1994年に開業し、中国政府や共産党の権力闘争の内幕を“関係者が匿名で暴露した”というスタイルの怪しげな“禁書”を専門に扱うことで有名で、ほかにも絶版で手に入りにくい文学書や台湾関係史、中国近代史本も充実しているらしい。
 共産党機関紙・人民日報傘下の環球時報は4日、「銅鑼湾書店は、本土の政治について悪意に満ちた書籍を多く扱っており、すでに名誉毀損の域に達した」と批判し、中国当局の関与を示唆していたが(産経Web)、10日、香港の民主派団体が「言論の自由を守ろう」と呼びかけ、6000人規模の抗議デモを主催した、その夜に、この失踪事件を伝えるNHKの中国でのニュース番組が4分間中断され、画面が真っ暗になり音も聞こえなくなった(同)ことからすると、中国政府の関与はほぼ間違いない。
 実際、北京を訪問中だったハモンド英外相は5日、中国・王毅外相と会談した後の共同記者会見で、「(一人の)男性は英国籍の旅券を有している。英側は香港と中国の当局に対し、行方を捜査するよう要求した」と述べたらしいが、会談で協議した際、王毅中国外相は「この人物はまず中国国民だ。根拠のない推測をすべきではない」と不快感を示したと、ロイター通信は伝えている。相変わらずああ言えばこう言う中国である。その横柄なものの言いと、“道義的”責任を理屈はともかく相手に押し付けようとする論理は、全く理解できない。
 再び福島さんの話に戻ると、もともと香港の「二楼書店」文化は、文化大革命で多くの書籍が禁書・焚書になったとき、それらを秘密裡に香港に持ち出した本の虫たちが開いたところから始まるのだと言う。政治動乱を生き延びた貴重な書籍・文字資料がひっそりと売られている店・・・なのである。そして彼女は、今年が文化大革命を発動して50年、終了から40年という節目に当たることとの関連を気にしている。小平が復権してから、共産党はいったんは公式文献で文化大革命を否定する総括をしたものだが、その後、公の場で文化大革命を発動した毛沢東の責任を追及することはタブーとなった。今、習近平政権は、腐敗撲滅など大掛かりな権力闘争を仕掛け、経済も新常態という名のもとにもたついて、社会不安を芽の内に摘んでおきたい気持ちが起こったとしてもおかしくない。そして言論統制は文化大革命の再来とまで囁かれるほど激烈で、文化大革命を再評価する本にはかなり神経を尖らせているらしい(つまり文化大革命批判が習近平批判に繋がることを懸念している)。他方、香港メディア関係者の間では、「習主席の女性スキャンダルについての本(端的に、下半身スキャンダル本)を出版しようとして、中国当局がこれを阻止しようとした」という噂が広がってて、案外、ケツの穴の小さい習近平国家主席のことだから、その程度のことかも知れないとも思う。だからと言って、失踪事件もその程度のものだと言うつもりは毛頭ない。
 むしろ一国二制度を保証されているはずの香港が香港でなくなり、雨傘革命で争点になったように、どんどん中国の磁場に引き寄せられる事態を深く憂慮する。昨日、香港に駐在している知人が日本に出張で来ていたので、挨拶代わりにこの話題を向けると、苦笑いし、次には諦め顔で、香港の立法会議員の三分の二は既に親中派だと言った。2015年12月、中国のアリババ集団は、香港の主要英字新聞「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」を買収することを発表している。今後、香港を待ち受けるであろう悲劇は、ひとり香港だけの問題ではあり得ない。TPP大筋合意に際して、オバマ大統領は「中国のような国ではなく、われわれが世界経済のルールをつくる」と宣言した。中国という異形の大国が支配する世界は、異形になりかねないからである。私たちは指を口にくわえて見ていていいわけがないと思う。
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