今朝の日経によると、「台湾当局は6日夜、世界保健機関(WHO)が23日にスイスのジュネーブで開く総会への招待状を台湾に向け送付したことを確認した」が、「台湾の中央通信によると、招待状には例年と異なり、中国大陸と台湾が不可分であるとする『一つの中国』の原則を強調する特記事項が記されている」そうだ。「20日に総統に就任する民進党の蔡英文主席に対し、この原則を認めるよう迫る中国側からの圧力との見方がある」という(以上が全文の小さい記事だ)が、その通りだろう。懸念されていたことが現実化したと言うべきだ。
大陸・中国と台湾は、かねてより「一つの中国」問題で合意した通称「92年コンセンサス(九二共識)」で、お互いに「一つの中国」は堅持しつつ、その意味するところはお互いに異なる(中国は中国共産党が代表すると考え、台湾は中華民国政府〔国民党あるいはその代替たる野党〕が代表すると考える)、つまりコンセンサスがないことがコンセンサスという(いわゆる「一中各表」と呼ばれる)、同床異夢の曖昧な外交決着を暗黙の裡に認めてきた。実際に国民党・馬英九総統も、「92年コンセンサス」を基礎に中台関係を促進する方針を述べていたものだ。
しかし、その後の8年間で国民党・馬英九総統の中国寄りの政策はかねてより台湾で批判され、一昨年には立法院(日本の国会議事堂に相当)を占拠した「ひまわり学生運動」が記憶に新しいように、「台湾独立」でも「中国との統一」でもない、台湾の人々の「現状維持」への希求は不可逆的なうねりとなり、1月の台湾総統選で、国民党に代わり再び民進党の総統が誕生するに至った。単に国民党がずっこけただけと言った方が正しいかも知れない。中国に呑み込まれることには警戒しつつ、しかし(韓国と同様に)中国市場への輸出頼みの台湾経済は中国抜きにはあり得ないことも認識する台湾の人々の現実感覚を反映したものだ。
この背景には、国民党・李登輝総統の時代に始まった、言わば台湾人としての歴史教育が影響しているとの分析がある。台湾でも私の世代に属するような年配の人々は、学校では、かつての国民党による歴史教育に基づき、日本統治時代を苛烈な暗黒の時代と教えられる一方、家に戻ると、戦後の国民党統治よりよほど戦前の日本統治を懐かしむ両親や祖父母の話を聞かされるという、アンビバレントな感覚のもとで育ったらしいが、「ひまわり学生運動」を担う若者たちは、もはや中国でも日本でもない「台湾人」としてのアイデンティティが確立されているという。先ほど台湾の人々の「現状維持」の希求を「不可逆的」と表現したのはそのためだ。世代論は社会現象を読み解く有力な一つの視点だと思う(今の中国共産党も世代論から読み解くと面白そう)。
冒頭の中国による圧力の話に戻ると、中国が主張する「一つの中国」は、当然のことながら中国共産党による統治を意味する。せこい話になるが、中南米等の大統領就任式への招待状が台湾・新政権に届かないよう、陰で圧力をかけるのではないかとも噂されている。中国の圧力は、こうした各国政府や国際機関に直接働きかけるものから、アメリカのメディアを買収するものや、ハーバードをはじめとするアメリカの大学への寄付を通してアカデミズムを間接的に取り込むもの、さらには孔子学院と称する「海外の大学などの教育機関と提携し、中国語や中国文化の教育及び宣伝、中国との友好関係醸成を目的に設立した公的機関」(Wikipedia)まで、実に巧妙で広範に及ぶ。今さらではあるが、平時の三戦(世論戦(輿論戦)、心理戦、法律戦)は常態であり、性善説に立ち人の好い日本は外交当局としても我々一般庶民レベルが世界を見る上でも留意すべきなのだろう(別に中国に限らないのだけど)。
また、先月、香港で中国からの「独立」をめざす政党が相次いで旗揚げされ、中国当局が神経を尖らせているとの記事があった。台湾で「ひまわり学生運動」が立法院を占拠したあと、香港で街頭占拠デモ「雨傘運動」を主導した学生団体のリーダー(黄之鋒氏)らが「香港衆志」を設立したらしいし、別の学生グループは3月に「香港民族党」を立ち上げ、いずれも9月の立法会選挙に候補を擁立する方針のようだ。そのほか香港を自らの本土と主張し、「本土派」と呼ばれる急進的な若者の反中組織も台頭しているらしい。香港は既に中国に取り込まれながらも「一国二制度」の下で中国共産党に抵抗を続ける真逆の立場ではあるが、香港と台湾が共鳴する現象もなかなか興味深い。
(参考)「香港の行方」(2016年1月16日付) http://blog.goo.ne.jp/mitakawind/d/20160116
ついでに「爆買い中国の行方」(2016年3月18日付) http://blog.goo.ne.jp/mitakawind/d/20160318
大陸・中国と台湾は、かねてより「一つの中国」問題で合意した通称「92年コンセンサス(九二共識)」で、お互いに「一つの中国」は堅持しつつ、その意味するところはお互いに異なる(中国は中国共産党が代表すると考え、台湾は中華民国政府〔国民党あるいはその代替たる野党〕が代表すると考える)、つまりコンセンサスがないことがコンセンサスという(いわゆる「一中各表」と呼ばれる)、同床異夢の曖昧な外交決着を暗黙の裡に認めてきた。実際に国民党・馬英九総統も、「92年コンセンサス」を基礎に中台関係を促進する方針を述べていたものだ。
しかし、その後の8年間で国民党・馬英九総統の中国寄りの政策はかねてより台湾で批判され、一昨年には立法院(日本の国会議事堂に相当)を占拠した「ひまわり学生運動」が記憶に新しいように、「台湾独立」でも「中国との統一」でもない、台湾の人々の「現状維持」への希求は不可逆的なうねりとなり、1月の台湾総統選で、国民党に代わり再び民進党の総統が誕生するに至った。単に国民党がずっこけただけと言った方が正しいかも知れない。中国に呑み込まれることには警戒しつつ、しかし(韓国と同様に)中国市場への輸出頼みの台湾経済は中国抜きにはあり得ないことも認識する台湾の人々の現実感覚を反映したものだ。
この背景には、国民党・李登輝総統の時代に始まった、言わば台湾人としての歴史教育が影響しているとの分析がある。台湾でも私の世代に属するような年配の人々は、学校では、かつての国民党による歴史教育に基づき、日本統治時代を苛烈な暗黒の時代と教えられる一方、家に戻ると、戦後の国民党統治よりよほど戦前の日本統治を懐かしむ両親や祖父母の話を聞かされるという、アンビバレントな感覚のもとで育ったらしいが、「ひまわり学生運動」を担う若者たちは、もはや中国でも日本でもない「台湾人」としてのアイデンティティが確立されているという。先ほど台湾の人々の「現状維持」の希求を「不可逆的」と表現したのはそのためだ。世代論は社会現象を読み解く有力な一つの視点だと思う(今の中国共産党も世代論から読み解くと面白そう)。
冒頭の中国による圧力の話に戻ると、中国が主張する「一つの中国」は、当然のことながら中国共産党による統治を意味する。せこい話になるが、中南米等の大統領就任式への招待状が台湾・新政権に届かないよう、陰で圧力をかけるのではないかとも噂されている。中国の圧力は、こうした各国政府や国際機関に直接働きかけるものから、アメリカのメディアを買収するものや、ハーバードをはじめとするアメリカの大学への寄付を通してアカデミズムを間接的に取り込むもの、さらには孔子学院と称する「海外の大学などの教育機関と提携し、中国語や中国文化の教育及び宣伝、中国との友好関係醸成を目的に設立した公的機関」(Wikipedia)まで、実に巧妙で広範に及ぶ。今さらではあるが、平時の三戦(世論戦(輿論戦)、心理戦、法律戦)は常態であり、性善説に立ち人の好い日本は外交当局としても我々一般庶民レベルが世界を見る上でも留意すべきなのだろう(別に中国に限らないのだけど)。
また、先月、香港で中国からの「独立」をめざす政党が相次いで旗揚げされ、中国当局が神経を尖らせているとの記事があった。台湾で「ひまわり学生運動」が立法院を占拠したあと、香港で街頭占拠デモ「雨傘運動」を主導した学生団体のリーダー(黄之鋒氏)らが「香港衆志」を設立したらしいし、別の学生グループは3月に「香港民族党」を立ち上げ、いずれも9月の立法会選挙に候補を擁立する方針のようだ。そのほか香港を自らの本土と主張し、「本土派」と呼ばれる急進的な若者の反中組織も台頭しているらしい。香港は既に中国に取り込まれながらも「一国二制度」の下で中国共産党に抵抗を続ける真逆の立場ではあるが、香港と台湾が共鳴する現象もなかなか興味深い。
(参考)「香港の行方」(2016年1月16日付) http://blog.goo.ne.jp/mitakawind/d/20160116
ついでに「爆買い中国の行方」(2016年3月18日付) http://blog.goo.ne.jp/mitakawind/d/20160318