風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

BREXITの行方

2016-06-24 01:18:39 | 時事放談
 投票は既に日本時間午後3時(現地時間午前7時)に始まり、明日朝6時(現地時間午後10時)には締め切られて、すぐに開票作業が始まり、明日正午過ぎ(現地時間24日早朝)には大勢が判明するそうだ。今、英国ではEU離脱の是非を問う国民投票の真っ最中だ。
 今日の日経夕刊は、英国の主要メディアの主張を取り上げながら、双方の主張を分かり易く解説していた。中道左派寄りとされる高級紙ガーディアンは、残留支持を表明し、「離脱を選んだ場合には、若者の多くが意図しない英国を若者に手渡すことになる」ことが果たして「公正だろうか」と読者に問いかけたそうだ。経済紙フィナンシャル・タイムズの主張は聞くまでもない。残留支持し、「欧州は、イスラム過激派や移民、ロシアや気候変動という脅威に直面し、建設的な関与が不可欠。これらは力を合わせることで初めて取り組むことが出来る」と、経済合理的な国際主義を唱える。他方、保守層の読者が多いデイリー・テレグラフは離脱支持を表明し、「EUは5億人の市場へのアクセスを提供すると言われるが、域外には60億人の市場がある」と主張し、その現実感覚は大丈夫かと訝しく思うが、「英国は主要な経済大国。言語は国際的で、法律に対する信頼があり、公正な取引に対する評判も高い」と、離脱しても英国の優位は揺るがないと強調して鼻息が荒いが、繰り返しになるが、ややノスタルジーに浸り過ぎではないかと心配になる。
 我々のような部外者の目から見れば、イギリスの輸出品の45%はEU向け、EU輸出品の16%はイギリス向けであるという事実、また、ヨーロッパ企業以外のグローバル企業の60%は対EUビジネスの拠点をロンドンに置いているという事実を聞き知っただけで、イギリスのEU離脱はあり得ないと思ってしまうし、フランスにしてもドイツにしてもアメリカにしても半ばそう脅して来た。元外交官の宮家邦彦さんも、あるコラムで、もしEU離脱すれば、ロンドン金融街は地方市場となり、進出外国企業は英国を去るかもしれないと警告するが、それ自体さほど特殊な意見とは思えない。他方、ニューズウィーク日本版6月28日号の特集によると、仮にEU離脱すれば、空港ではEU加盟国に行くときに「域外からの訪問者」として入国審査を受けなければならなくなる(日本人は、EU域内のフリーパスを見て、これがEUかと驚かされる)し、英国のサッカー・チームがEU域内の選手を引き抜こうとしても、就労ビザを取得するための厳格な条件を満たせないかも知れないと、まあどうでもいいようなことながらも懸念を表明しつつ、EU離脱すれば、EU加盟国からやって来る出稼ぎ労働者が英国の社会保障制度を悪用するのを防止出来るし、EUに割り当てられた数のシリア難民を引き受ける必要もないし、今までよりも自由な立場でインドや中国、アメリカなどと貿易協定を結ぶことが出来ると説明し、これだけ読むと、なんだか離脱した方が良さげな雰囲気ではある。実際、そう思うほどに、現地ではEU残存か離脱は長らく拮抗してきた。EU離脱派が最も憂えるのは主権の喪失だと言われると、分からなくもないが、さりとてECからEUへと国家の枠組みを超えた統合を模索して来た欧州大陸の人々の思いを無視するわけにも行かない。難しいところだ。
 明らかに潮目が変わったのは16日、残留派のジョー・コックス下院議員が極右思想の影響を受けたと思われる男性に殺害されたことで、ロイター・ニュースなどでは残留派が優勢とあからさまに報じている。
 もっとも、私は、この段階でこう言っちゃあなんだが、この事件がなくとも、スコットランド独立と同じで、落ち着くべきところに落ち着くだろうと思っていた。そもそもこのような国民投票を行うこと自体、議会制民主主義発祥の英国らしく、羨ましく思う。日本では参院選挙戦が始まったが、野党第一党の民進党ですら、憲法改正は国民投票が最後の砦のはずなのに、自民党の単独三分の二を阻止することを訴えて、まるで最後の砦の国民投票を信用しないと言うに等しい暴挙と思う。
 結局、この大いなるEU動揺で得をするのは、英国そのものではないかと思う。今さら19世紀末の「名誉ある孤立」など成り立ち得ないが、この騒動を通して、間違いなくEU内における英国の存在感を示し得た。老いたりと言えども、英国はしたたかだ。
 勿論、結論は蓋を開けて見ないと分からないのだが・・・。
コメント
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